2050年 脱炭素社会実現と地方創生の起爆剤・洋上風力発電
気候変動対策や「持続可能な開発目標(SDGs)」に関する取り組みの重要性が増すなか、洋上風力発電の普及が世界的に拡大している。洋上風力発電の導入では、約13~15兆円と言われる累計経済効果のほか、漁業の振興や人材育成など、地域への多様な効果が期待される。
脱炭素の切り札・洋上風力発電
新しい年を迎え、世界は欧州を始め、中国やアメリカでも脱炭素に向け、大きく舵を切ろうとしている。菅義偉首相は2020年10月の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すグリーン社会の実現を表明した。国に先立ち、2020年8月、2050年にカーボンフリーを宣言しているゼロカーボンシティーは151団体、日本の人口の半数以上となっている。今や、脱炭素は経済成長の制約ではなく、アフターコロナの社会の新たな成長源であり、特に洋上風力発電は大規模な自然電源、経済性確保、経済波及効果という利点があり、再エネの主力電源と期待されている。
2020年10月、梶山経済産業大臣は脱炭素の柱として、今後10年間で原発10基分、10GWの洋上風力発電の導入を目指すと表明している。
地域経済への波及効果に期待
「洋上風力発電はその規模と経済効果で、地方創生の起爆剤にもなり得ると思います。洋上は陸上と比べて風況がよく、土地や道路の制約もないため、大型風車の導入が比較的容易です。また、景観への影響や騒音が少ないというメリットもあり、近年は欧州を中心に世界で急速に導入が進んでいます」
国内外で洋上風力発電などの再エネ事業を手がけるINFLUX代表取締役社長の星野敦氏は、その利点についてこう語る。大規模洋上風力発電所の建設は30年程度におよぶ長期的な事業となり、地域の産業育成や経済活性化にもつながる。また、洋上風力発電は2~3万点もの部品から成り、20年という長期にわたるメンテナンスに加え、それらの現地生産が可能になれば地域経済への大きな波及効果も期待できる。日本風力発電協会の試算によれば、10GW洋上風力発電の導入によって見込める2030年時点の累計経済効果は約13~15兆円、雇用創出効果は約8.5~9.5万人とされている。
「当社の洋上風力発電事業では、特に地方の経済を意識した開発を行っています。発電所の設置だけでなく、地域の施設整備や雇用創出などにもかかわり、さまざまな形で地域に貢献しながら事業を進めていきます」
INFLUXが進める洋上風力発電を核とした地域活性化では、例えば、拠点港やサプライチェーンの整備、再エネを利用したグリーン水素の製造、二酸化炭素(CO2)を排出しない港湾・カーボンフリーポートの実現を目標に掲げる。さらに洋上風力発電との共存・共栄を図る漁業の振興や、洋上風力を観光資源とした"エコツーリズム"の促進、産官学連携による地域での人材育成も計画されている。他には、大規模災害時に地域への電力供給が可能になるといった利点もある。
INFLUXは経済性の追求だけではなく、こうした地域貢献を考慮し、国が行う公募に参加し提案する方針である。
漁業との共存・共栄を図る
洋上風力発電との共存・共栄を図る漁業の振興では、INFLUXは伊豆大島をはじめ10年にわたって人口のフルボ酸鉄(森の腐葉土に含まれる鉄イオン)を利用した磯焼け対策・藻場の再生の実証実験に参加している。また、風車の基礎部分の漁礁効果による漁業資源の改善も期待される。さらに天候などに左右される漁業の課題を克服する沖合養殖で、新たな水産資源を生み出すことも目指している。
安全に効率よく魚を捕るための取り組みでは、"AIを使った漁場の予測サービス(IOSS)"を開発、燃費節約と収穫増に貢献している。そして地域の水産物に適した水産加工設備の提供や、市場開拓・設備投資の支援も行っていく方針だ。他には、洋上風力発電施設の監視システムによる密漁対策や、世界的な課題である海のプラスチックごみの回収にも取り組もうとしている。
一方、地元に定着する人材の育成に向けては、産学官連携で、洋上風力に特化した専門技術者の教育や地域大学と連携した専門課程の開設、漁業振興に関する研究活動の支援を促進していく。
「新たな雇用の創出も、地域支援に組み込み、都会から地方へと新しい人の流れを創っていくのが私たちの事業の特徴です」
また、洋上風力発電所の建設計画に対しては、景観など悪影響を懸念する住民も少なくない。INFLUXは、地元自治体と密にコミュニケーションをとりながらしっかりとしたコロナ対策のうえ、北海道から鹿児島まで全国各地で住民説明会を実施している。騒音や景観に配慮し岸から十分な離隔を保った風車の配置を計画し、丁寧かつ誠心誠意、住民の意見や不安に耳を傾けながら、環境アセスの専門用語をわかりやすく住民に伝え慎重に事業を進めている姿勢に共感する住民が増えている。
大型水素プラント建設により
水素社会の実装化へ
INFLUXでは、前述の通り洋上風力の余剰電力を活用した"グリーン水素"の大型製造・貯蔵プラントを計画し、CO2を排出しない"カーボンフリーポート"の実現も目指している。
「水素は、長期の貯蔵や輸送が可能であり、地域の非常用電源として、災害に強い地域社会づくりに役立ちます。今後、都市ガスや石炭火力発電への混入、水素発電などさまざまな用途での利用拡大が考えられます。欧州や中国では、すでに100MWの水素プラントの建設が進んでおり、数年前まで水素分野では日本が世界をリードしていましたが、立場が逆転しています。また、欧州では製鉄所でコークスの代わりに水素を使う実証実験も行われています。2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、水素社会を実現しCO2を排出しないよう産業全体を変化させていくことも必要です」
ウィズコロナの今、グローバルな人の行き来が制限されている。観光やインバウンド、農産物や水産物の輸出に続く、持続的な地方の新たな成長の柱として、無尽蔵な自然エネルギーを利用し、景気に左右されない洋上風力発電事業は、地方に活力とイノベーションをもたらすと期待する。
「洋上風力発電による地域へのさまざまな効果については、私たち民間事業者だけでなく自治体の方々からも説明していただければ、住民の皆さまにとって理解しやすく、安心できるものになると感じています」
INFLUXは地域の資源を活かした自然エネルギーの普及により、地方発による気候変動問題の解決への貢献と同時に活力ある地方の創生を目指している。
- 星野 敦(ほしの・あつし)
- INFLUX 代表取締役社長
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