「水素社会」の到来と事業機会 市場は2030年に30倍に

菅義偉首相が2050年までのカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を掲げたことで、水素エネルギー関連ビジネスが脚光を浴びている。政府の戦略と官民プロジェクトの動向、注目の水素技術領域やスタートアップの動向を解説する。

2020年3月に福島県浪江町に開所したFH2Rは、世界最大級の水素製造施設(写真は開所式の模様、首相官邸ホームページより)

菅政権の誕生で高まる
水素エネルギーの社会実装

10月26日、菅義偉首相は所信表明演説で、「グリーン社会の実現に最大限注力」し、「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。同日、梶山弘志経済産業大臣は、カーボンニュートラルに向けた水素の活用の重要性について言及し、「これまで乗用車用途中心だったものを、新たな資源と位置付けて、幅広いプレーヤーを巻き込み、社会実装への道筋も検討」すると発言した。また、水素等の重要分野について、年末を目処に実行計画をとりまとめる方針を示した。

水素は再エネ電気や石炭、天然ガスなどあらゆる資源から製造でき、また、利用段階で排ガスやCO2を一切排出しない。資源の調達先の多様化と脱炭素化をともに実現する水素は、エネルギー自給率の低い日本にとって「究極のエネルギー」と言える。さらに、日本は燃料電池分野の特許出願件数で世界一であり、水素エネルギー利活用は産業競争力強化にも資する。菅政権の誕生で、水素エネルギーの社会実装が一気に現実味を帯びてきた。

水素エネルギーの利用分野としては、大きく運輸(燃料電池自動車や燃料電池バス)・民生(エネファーム)・発電(水素発電)・産業(製鉄などの産業プロセスでの利用)の4分野が考えられる。すでに日本政府は、2017年12月に世界初の水素に関する国家戦略「水素基本戦略」を、2019年には「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定。水素利活用の拡大に向けた技術開発や、水素アプリケーションの普及支援や環境整備を推進している。

具体的な目標としては、2030年までに燃料電池自動車(FCV)は80万台(現在は3800台)、水素ステーションは900ヵ所(同157ヵ所)、家庭用燃料電池「エネファーム」は530万台(同33万台)の普及を目指すとしている。

一方、水素エネルギー利用の大きな課題は、コストの高さだ。水素基本戦略では、現在1ノルマルリューベ100円のコストを2030年に30円、将来的に20円まで低減し、ガソリンやLNGと遜色のない価格を実現することを目指し、水素利用の促進に加えて、安価な製造方法の開発や大量製造・輸送のためのサプライチェーンの構築を進めていく。

官民が多数のプロジェクトを推進

水素社会の実現に向けて、すでに多数のプロジェクトが国内で動き出している。

国主導のプロジェクトでは、2020年3月に再生可能エネルギーを利用した世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が福島県浪江町に開所した。NEDOと東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業の4者が整備した、太陽光発電を利用した世界最大級の10MWの水素製造装置を備えた施設で、水素を用いたエネルギー貯蔵・利用(Power-to-Gas)システムの実証を進める。

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