サーモンの陸上養殖、サステナブルで安定的な生産が可能に 丸紅の戦略とは

(※本記事は東京都が運営するオンラインマガジン「TOKYO UPDATES」に2024年10月28日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

サーモンの需要が世界的に拡大する中、近年注目されているのが、環境への負荷が低く、サステナブルで安定的な生産を可能にする閉鎖循環式によるサーモンの陸上養殖だ。今回は、ノルウェー企業とタッグを組み陸上養殖サーモンの販売に注力する丸紅株式会社の食品素材部 食品素材・養殖開発課 担当課長、安藤悠真氏に、そのメリットや今後の展望を伺った。

男性がサーモンを抱えている写真
閉鎖循環式陸上養殖で育った立派なサーモン Photo: courtesy of 丸紅株式会社

環境に優しくサステナブルな養殖技術

丸紅は子会社を中心に、長い期間、日本市場に天然・養殖サーモンを供給してきた。近年、安定供給や環境に配慮したビジネスモデルへのシフトを図り、陸上養殖サーモンについて世界トップレベルの生産実績を持つデンマークのダニッシュ・サーモンに2020年より出資し、閉鎖循環式陸上養殖事業に参入。さらに、国内での地産地消を果たすビジネスモデルの実現を目指し、2022年、ノルウェー企業のプロキシマーシーフード(以下、プロキシマー)とタッグを組み、同社が静岡県小山町の閉鎖循環式陸上養殖場で生産するアトランティックサーモンを2024年から10年間、独占的に販売する契約を結んだ。

陸上養殖場の様子
環境に優しくサステナブルな閉鎖循環式の陸上養殖場(静岡県小山町)Photo: courtesy of 丸紅株式会社

プロキシマーで採用している閉鎖循環式は、環境に配慮された仕組みである。富士山麓の地下水をろ過しながら循環させて養殖を行う。海面養殖と違って外部環境と遮断され、排水処理をきちんと行うため、餌やふんが海や河川に流出する可能性は限りなく低い。また、病原体が侵入するリスクも低く、ワクチンや抗生物質の投与が原則不要で、魚にも優しい養殖となっている。

万が一、魚が病気になった場合でも、閉鎖循環式の陸上養殖は、生け簀ごとに独立した養殖環境であるため、ほかの生け簀に影響が及ばず、被害を最小限に抑えられる仕組みだ。

ふ化から水揚げまでの期間は2年ほど。養殖は順調に進み、2022年10月末に初めて投入した卵が2年を迎え、この10月に国内で初出荷を迎えた。

2025年までに約4,700トン。消費者のもとに、新鮮な陸上養殖サーモンを届ける

丸紅は、2024年4月から5月にかけて東京都主催で開催された、最先端のテクノロジーによって世界の都市が抱える共通の課題の解決を目指す国際イベント「SusHi Tech Tokyo(Sustainable High City Tech Tokyo)2024」に、プロキシマーと共に参加。特設ブースで出店した墨田区本所吾妻橋の本格和食割烹「割烹 船生」では、丸紅から提供された陸上養殖サーモンのにぎりずしが販売された。イベントの参加理由として、安藤氏は「陸上養殖サーモンの認知度向上への寄与はもちろんのこと、『持続可能な新しい価値』を生み出すというイベントの開催意義に共鳴したから」だと話す。

反応は「陸上でもサーモンを育てられるのか」という驚きの声が多く、また、にぎりずしを食べた方にアンケートをとると「美味しい」、「(いい意味で)普段食べているサーモンとの違いを感じない」、「普段食べているサーモンよりもあっさりしていて食べやすい」という感想が多かったそう。一方で、「環境に配慮されて生産されたものにお金を払う価値があると感じるか」という質問に対しては、大多数が「同じ値段であれば環境に良いものを選ぶが、その分値段が高くなるのであれば選ばない」と回答しており、サステナビリティ意識や価値観の浸透への課題も見つかった。

皿に盛られたサーモンの寿司
SusHi Tech Tokyo 2024で提供されたサーモン握り寿司セット Photo: courtesy of 東京都

現在丸紅は、同社グループが有する量販店や外食チェーンへの直接的な販路、そして加工業者との強いネットワークを活用し、多くの消費者に鮮度の高い陸上養殖サーモンを届ける準備を進めている。2025年までに約4,700トンの出荷を見込み、ゆくゆくは5,300トンまで拡大する予定だ。

安藤氏が話している様子
「多くの皆さまに陸上養殖サーモンを手に取っていただけるよう、販売計画を進めている」と話す安藤氏

日本一人口の多い首都・東京に対して、消費量を期待していると語る安藤氏。「商社として、消費者の方々と直接接点を持てる機会は少ないため、今後も『SusHi Tech Tokyo 2024』のようなサステナブルに関連するイベントに積極的に参加できるよう、継続的なイベント機会の創出に期待している」とも話す。

サステナビリティ意識の醸成の鍵は、消費者の自分ごと化

丸紅は、日本の消費者のためにアトランティックサーモンの安定供給に貢献すると共に、プレミアムサステナブルシーフードブランドとしての確立を目指す。その一環として、ブランドのロゴを作成し、顧客と相談しながら商品の価値をしっかりと認識してもらうための売り場作りやポップやシールといった販促資材作りを進めている。

消費者のサステナビリティ意識の醸成には、環境性能のスペックはもちろん、消費者の自分ごと化が鍵となるだろう。この課題に対し、丸紅はさまざまな食育活動にも取り組んでいる。幼いうちから環境に配慮されたものの価値を認識してもらうことで、大人になった時に自然と手に取ってもらえるようにしたいという考えだ。

丸紅が販売総代理店を担う国産アトランティックサーモンの大規模生産により、日常的に陸上養殖サーモンが食卓に並ぶ日も遠くないだろう。環境に配慮されたサーモンに多くの人が触れることで、自分ごと化に繋がるきっかけとなることを期待したい。

取材・文/吉田真琴
写真/穐吉洋子

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