【音声配信連動記事】AI時代の「突破されても守られる」情報管理  Acompany・高橋亮祐CEOらに聞く

月刊事業構想オンラインが音声配信するXスペース企画。2026年10月14日の配信には、「日本スタートアップ大賞2026」で審査委員会特別賞を受賞した株式会社Acompany(アカンパニー)から、代表取締役CEOの高橋亮祐氏と執行役員VP of Public Affairsの竹之内隆夫氏を迎えた。AIを悪用した攻撃が高度になるなか、企業や自治体は機密データをどう守り、どう生かせばよいのか。データを処理している間も暗号化したまま扱う技術の可能性と、制度・政策の動きを聞いた。配信の音源はこちら。

「入られない」前提のセキュリティ崩れつつある

高橋氏は、情報漏えいが増えている背景として、AIの高度化によって攻撃の幅が広がったことを挙げた。この領域で大きな話題になったのが、アンソロピック(Anthropic)のAIモデル「クロード・ミュトス」をめぐる件だという。同モデルが今年の春ごろに話題となってから半年ほどで、攻撃を含めた漏えいが一気に表面化してきたと高橋氏は話した。

背景にあるのは、公開されているAIモデル(オープンウェイトモデル)が最先端のモデルに近い性能を持つようになり、高度な攻撃能力を獲得したことだ。高橋氏は、英国の政府機関などでは、こうしたモデルが最先端のモデルに追いつくまでの期間は4か月から7か月ほどとされていると話した。

これまでのセキュリティは、ファイアウォールのように「この線から内側には入られない」ことを前提に設計されてきた。高橋氏は、この前提そのものが突破されつつあると語る。クラウド自体が侵害され、利用していた企業の情報まで漏れる事例も出ている。政府向けに堅牢なセキュリティが求められるISMAPという水準のクラウドでも、ランサムウェア攻撃の被害に遭ったり、管理者権限を奪われたりした例があると高橋氏は話した。AIが高度な攻撃を仕掛けてくることを前提に、守る側もAIを活用するなどして守りを固めなければ、既存のセキュリティ基準ではカバーしきれない。この変化にどう向き合うかが、経営の視点で問われているとみる。

処理中も暗号化 「見ようとしても見えない」状態に

入られることを前提にした守り方の一つが、同社が手がけるコンフィデンシャル・コンピューティング(Confidential Computing)だ。データを処理する場面でも無防備な状態をつくらず、守られたまま計算までできるようにする技術である。

竹之内氏は、数か月前に米国で開かれたコンフィデンシャル・コンピューティングの国際会議に参加した際の様子を紹介した。クロード・ミュトスを開発したアンソロピックの登壇者による基調講演でも、同モデルと同等のモデルが出てくるとの見方が強く示され、この技術は必須だとの表現があったと話した。

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通常、AIやクラウドのサービスがデータを処理するときは、データを元の状態に戻して計算する。高橋氏は、この処理の場面が、認証用の鍵やデータそのものを盗まれかねない「無防備な場所」になっていると説明した。

高橋氏はビルにたとえる。これまでは入り口の警備を固めてきたが、入り口を突破されると、各社の部屋に自由に出入りできてしまう。これからは、不審者がビルに入っても、会社ごとにオフィスの鍵を閉め、重要な場所には近づけない守り方が必要になるという。

生成AIのサービスでも、提供事業者は利用者の入力内容やログを見ることができ、サービス改善のために見ることを規約で定めている場合もある。高橋氏は、AI企業が中国のスパイ活動に自社のモデルが使われていたと公表した例を挙げ、事業者がデータを見ていなければ公表はできないと話した。これまでは契約や取引の条件で「見ない」と約束してきたが、コンフィデンシャル・コンピューティングを使えば、技術によって見ようとしても見られない状態にできる。高橋氏は、この違いを大きなポイントに挙げた。同社はこの技術を土台に、機密データをサービス事業者にも見せずにAIを使えるコンフィデンシャルAI(Confidential AI)を展開している。

KDDIと共同で手がけたデータクリーンルーム

導入例として高橋氏が紹介したのが、KDDI株式会社と共同で手がけた「KDDIデータクリーンルーム」である。KDDIが持つ4,000万人を超えるユーザーデータと、パートナー企業が持つユーザーデータを、互いに暗号化したデータだけを共有して分析できるという。

これまで企業同士でデータを共有するには、どちらか一方にデータを寄せる必要があり、相手にデータが見えてしまっていた。大規模で機微なデータをどこに集めるかが大きな課題だったが、コンフィデンシャル・コンピューティングによって、処理を秘匿したまま共有できるようになった。KDDIにとっては、自社の競争優位につながる大切な顧客データを守りながら活用でき、個人情報保護法などの規制面でも利点があると高橋氏は話した。

竹之内氏は、法制度の面から補足した。今回の個人情報保護法の改正によって、AIのモデルに使う場合も含め、一定の場合には本人の同意なしで個人データを提供できるようになる。竹之内氏によると、この点について個人情報保護委員会などと議論しているという。

竹之内氏は、KDDIの事例は法改正の前から実現できる方式だと説明した。改正法の施行はまだ先になるものの、施行されれば、より良い分析ができるようになる。企業間で個人情報をうまく突き合わせ、日本企業が連携してより良い分析をすることは日本の基本戦略だと考えており、その場面でこの技術が役立つと話した。

医療など機微なデータを扱う現場でAI活用後押し

もう一つの柱が、すぐに使える製品群である。同社は、コンフィデンシャルAIを使ったチャットサービスやエージェントサービスなどをパッケージにした製品群「Confidential AI Suite」を提供している。

高橋氏によると、AIサービスを使う場合、AI事業者側にデータが見えてしまうなど、さまざまな漏えいのリスクがある。医療をはじめ機微なデータを多く扱う業界では、AIを導入しても利用者の個人情報を入れてよいのか判断できず、うまく活用されないことがある。従業員が、入れてはいけないデータを入れてしまうリスクもある。どのデータまで入れてよいかを細かく決めて運用すること自体が重いコストになっており、高い基準のもとで気にせず使える点に価値を感じてもらっているという。

販路も広がっている。高橋氏によると、国内最大規模のディストリビューターであるSB C&S株式会社での取り扱いも決まった。さまざまな企業に使ってもらえるよう、展開を広げていく考えだ。

ソブリンAIの観点からも注目

同社が重点を置く領域について、高橋氏は、コンフィデンシャル・コンピューティングはニーズが大きい一方で、研究開発の側面もまだ強いと率直に語った。事業として成り立たせるには、対価に見合う価値が認められる領域から始める必要がある。そのため、重要インフラや国家安全保障の分野に力を入れているという。

ここで鍵になるのが、データやAIの主権を意味する「ソブリン」という考え方だ。クラウドやAIでは米国が強く、海外のサービスを使うだけでは、日本の強みである現場のデータや住民の情報が海外のベンダーに流れていく。高橋氏は、海外籍の企業の場合、米国政府の指令によってデータの中身の開示を求められる場合がある法律があると話した。地政学リスクが高まるなか、ソブリンAIや国家安全保障の観点から大きな課題になっており、同社のコンフィデンシャルAIの技術が生きる領域だという。

政策面での注目度について、竹之内氏はまず海外の動きを紹介した。エヌビディア(NVIDIA)が毎年開く大規模イベント「GTC」で、今年3月にジェンスン・フアンCEOがコンフィデンシャル・コンピューティングを非常に重要だと発言し、AI業界に一定のインパクトを与えたという。米国のNISTによる政府向けのガイドラインでも、通信中の暗号化やデータベースの暗号化は以前から求められてきた。竹之内氏は、処理途中のデータの秘匿も2024年ごろから項目として加わったと話した。

国内でも動きがある。竹之内氏によると、数か月前に経済産業省所管の情報処理推進機構が重要インフラ向けのガイドラインを出しており、処理途中のデータの保護にも言及している。一部の記述が古かったため、同社などが技術の内容を新しくするよう働きかけた。この技術は政府にも一定程度認められるようになってきていると話した。

高橋氏は、チームみらい党首で参議院議員の安野貴博氏がnoteで公開した、AI時代のサイバーセキュリティにどう対応するかをまとめた提言書にも触れた。この提言書でも、コンフィデンシャル・コンピューティングや秘密計算の領域が明確に取り上げられているという。情報が漏えいしても読めない仕組みをつくる技術を確立する必要性について、日本政府側でも認識が高まってきているのではないかと話した。

同社が9月に主催した、データとAIに関する600人規模のカンファレンス『Trust2026』では、自由民主党の衆議院議員で前デジタル大臣の平将明氏がビデオメッセージを寄せた。高橋氏は、平氏がこの技術を国家安全保障やサイバーセキュリティの観点からも非常に重要だと明確に述べたと話した。こうした技術の認知が広がり、国としての位置づけを広げてくれる人が徐々に増えているという。

処理中の暗号化を「当たり前」の技術に

今後の構想について、高橋氏は、AIを活用するうえでコンフィデンシャル・コンピューティングは当たり前の技術になっていくとの考えを示した。2000年代から2010年代にかけて通信の暗号化が当たり前になったように、処理中の暗号化も当たり前になる世界を目指す。AIモデルを持つ事業者やデータセンターなどに技術を組み込み、利用者が直接触れない裏側の技術として広げていく考えだ。

高橋氏は、アンソロピックやオープンAI(OpenAI)といった主要なAI企業もこの領域を自ら手がける動きを見せており、配信当日にも米国の競合企業がアンソロピックに買収されたと話した。これまでニッチだった技術を当たり前のものにし、企業が製品を選ぶ際のセキュリティチェックシートに、処理中の暗号化が当然の項目として入り、しかも簡単に使えるようにする。そうした「技術の民主化」に貢献したいと語った。

竹之内氏は、技術の民主化を政府も徐々に後押しし始めていると指摘した。富士通が対応するチップを来年リリースする予定で、国内は実は強いという。アンソロピックが買収した企業と比べても規模に大きな差はなく、国内企業が連携して海外に技術を売る戦略が取れるため、政府としても後押ししやすいと話した。

高橋氏も日本の勝ち筋に言及した。コンフィデンシャルAIという切り口では、GPUに対応したのが2023年からで、まだ3年ほどの新しい領域だ。もともとはニッチな技術で、暗号やセキュリティのアーキテクチャーは日本が強かった分野でもある。高橋氏は、秘密計算の領域では10年ほど前にNTTやNECが世界一になったこともあり、当時NECでリーダーを務めていたのが竹之内氏だと話した。市場がまだ新しく、投資や組織の規模でも海外と同等の水準にあるため、世界で戦える余地があるとみる。AIそのものでは差があるものの、セキュリティのようなAIインフラ側の層には勝ち筋が残されているという。

海外展開も見据えている。高橋氏は、データとAIの信頼を支える技術の層を「トラストレイヤー」と呼び、日本はこの技術が育ちやすい土壌だと語った。米国や中国への依存を避けたい国は多く、信頼性を軸にした技術を欧州やアジアに届ける余地は十分にある。国内の大手ITベンダーや総合商社とも、その可能性を検討している。竹之内氏は、2年半前に同社に加わったのは、同社が本気で海外を狙っていたからだと明かした。海外のイベントへの協賛も行っており、次の展開も考えていると話した。

「まず自ら導入を」経営者と自治体へのメッセージ

配信の終盤には、経営者や自治体関係者へのメッセージを聞いた。高橋氏は、AI時代のセキュリティは大きな転換期にあり、従来の基準やあり方は瀬戸際に来ていると語った。セキュリティを単なるコストとして捉えるのではなく、新しい動きに追いつける人材の育成や確保に力を注ぐことが重要になる。一人ひとりのリテラシーを高めるための人への投資が、まず必要だという。

高橋氏は、現在の被害はむしろ序章だとみる。AIの性能が上がるなか、クロード・ミュトスに匹敵する攻撃性能を持つモデルが8月末に出てきた。リードタイムを考えると、足元で表面化しているのは、このモデルより前の水準のモデルによる攻撃ではないかと話した。被害が今後さらに広がりかねないとして、対応の優先度を上げる必要があると訴えた。

竹之内氏は、国や自治体がこの技術を積極的に導入し、企業間の連携やAIの安全な活用を後押ししてほしいと期待を寄せた。事例を他者に求めるのではなく、まず自分たちが先に取り組んでほしいとも呼びかけている。

AIを安全に使うために気をつけるべき点を問われると、高橋氏は、入力した情報は誰かが見る可能性があると意識し、適切な距離を保つことを挙げた。同社が目指すのは、そうした心配をせずに便利に使える「秘密を守れるAI」であり、生産性の向上に貢献したいと述べた。竹之内氏も、AIを使わないという選択肢はもはやないと強調する。性能が上がったオープンウェイトモデルを、コンフィデンシャルAIの環境で動かす仕組みも提供できるとして、AIを積極的に活用してほしいと話した。

同社は10月29日、技術者向けの勉強会「Confidential AI Night #2」を都内で開く予定だ。LINEヤフーでこの領域に取り組む人や、同社のこの領域の第一人者が登壇する。

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プロフィール:高橋 亮祐(たかはし・りょうすけ)

株式会社Acompany代表取締役CEO。2018年に同社を創業し、2020年からセキュリティ領域で事業を展開している。2022年に業界団体「プライバシーテック協会」を立ち上げ、会長を兼務している。

プロフィール:竹之内 隆夫(たけのうち・たかお)

株式会社Acompany執行役員VP of Public Affairs。大学卒業後、NECで約十数年にわたりこの領域の研究開発に携わり、在籍後半からは政策渉外の活動も担った。デジタルガレージなどを経て、2年半前にAcompanyに参画した。現在は政策渉外の責任者を務める。

【X配信の音源について】

本記事は、2026年10月14日に月刊事業構想オンラインのXアカウントで配信した対談をもとに構成しています。配信の音源は下記よりお聴きいただけます。(期間をすぎると聞くことができなくなる場合があります)
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