経営者の仕事は「まず決める」 現場の摩擦を越えるパーパス経営 WSG茶谷圭祐取締役社長
国内レンタルテーブルクロスでシェア7割を誇る株式会社ワールドサービス 。同社は年間20トンにおよぶ廃棄クロスという課題を長年抱えていた。取締役社長の茶谷圭祐氏は入社後、大量に積み上げられた廃棄クロスを目の当たりにし、この問題の解決を志してきた。再生技術との出会いにより、廃棄クロスを原料として高品質な商品ブランド「eterble(エターブル)」を立ち上げる決断を下した。既存事業の矛盾を成長機会へと転換させ、CO2排出量57.8%削減を実現した茶谷圭祐取締役社長の次世代の事業構想に迫る。
「負の遺産」を資源に変える
国内完結型リサイクルへの挑戦
――既存のレンタル業とは異なるリスクや投資が必要な「一貫体制」に、なぜ踏み切ったのでしょうか。その経営判断の根拠を伺います。
シェア7割を持つ中で、お祝いの席に使われるクロスは、キズやシミは許されず、年間20トンもの焼却廃棄が生じていました 。本来「使い捨てない」ことを前提とするレンタル業で、なぜ廃棄が生まれてしまうのか。eterbleはその問いからスタートしました。私たちは、役目を終えたポリエステル生地を糸へと戻し、染色せずに再び織り上げるというアップサイクルにしました。
この循環サイクルは、原料回収から裁断、紡績、織り、縫製、そして使用という6つのプロセスで構成されています 。染色工程を省くことで水の汚染と使用量も削減しました 。短期的には手間がかかりますが、29.34kgCO2eのCO2削減に繋がり、通常のクロス比で57.8%もの排出量削減を実現しています。外部環境に左右されない「国内生産の循環サイクル」の確立こそが、長期的な事業継続における最大の戦略になると確信しています 。
「廃棄=安い」を覆す
感性に訴えるブランド設計
――再生比率100パーセントの製品化はコスト高になりやすく、一歩間違えれば利益を圧迫するように思われます。「廃棄物=安い」という先入観を覆し、高価格帯でのブランディングを今後どのように推進されていく予定でしょうか。善いことをしながら「稼ぐ」ための、シビアな数字の規律などについても教えてください。
「eterble」の強みは、その美しい色と高いデザイン性にあります。実際、多くのお客様がeterbleの品質に惹かれて購入されています 。機能面でも、取り扱いのしやすさからテーブルコーディネーター、インテリア、料理家、テーブル茶道などの専門家からも支持を得て、コラボレーションが広がっています 。
「環境に良いから」という理由だけで選ばれるのではなく、まず製品としての魅力でファンを増やすことが、結果として利益率の維持に繋がります 。染色しないことで製造工程のコストや環境負荷を抑えつつ、高い付加価値を提供することで、ブランドとしての経済合理性を両立させています 。
縮小する市場を勝ち抜く
「記念日づくり」への転換
――国内の結婚披露宴市場が変化する中で、このeterble事業は単なるCSR(社会貢献)を超え、既存事業の限界を突破するための「第2の創業」という側面が強いのでしょうか。リネンレンタルという既存ドメインの未来をどう予測し、eterbleをどう収益の柱に育てようとされているか教えてください。
「eterble」は単なる社会貢献ではなく、既存事業の持続可能性を高めるための生存戦略です。再生した生地は再びレンタルに回すだけでなく、一般向け販売や、企業のノベルティを制作するOEM事業も開始しました。
既存のレンタル業で培った「彩る力」を、持続可能なライフスタイルそのものを提供するビジネスへと拡張することで、収益の柱を多角化させていく「第2の創業」と位置づけています 。私たちは「テーブルを囲む幸せな時間が、地球の未来を傷つけてはならない」という想いを軸に据えています 。
現場の摩擦をパーパスで解く
未来から祝福される組織の在り方
――レンタル現場の社員にとっては、汚れたら捨てるのが最も効率的です。一方で循環モデルは選別や回収などの手間(コスト)を強います。効率を追う既存事業と、手間をかける新事業の間で、社員のマインドの衝突や温度差をどう乗り越え、組織を一丸とされてきたのでしょうか。
以前は、エコなはずのレンタル業で大量廃棄が生じている事実に、多くの社員が胸を痛めていました 。大量廃棄という「違和感」を解消するために提示したのが、明確な循環プロセスです 。
回収から再製品化までの工程を仕組み化し、「廃棄20トンをゼロにする」という具体的な目標を掲げました 。手間はかかりますが、自らの仕事がCO2削減という確かな数字となって現れることで、現場の誇りに繋がっています 。企業の社会的責任が求められる時代において、現場の「手間」を「地球の未来を守る価値」へと変換することが、組織を動かす力になっています 。
業界の壁を越えるプラットフォーム
「構想力」が次世代経営を切り拓く
――今後、他社の廃棄リネンも再生するインフラ(プラットフォーム)を目指すとされています。しかし、そこでは「昨日までのライバル」がお客様になります。自社のノウハウをどこまで開示し、いかにして業界全体の他社の警戒心を解いて、信頼を勝ち取っていくおつもりでしょうか。
現在は自社のクロスを主原料としていますが、今後は他社のシーツやタオル、カーテンといった廃棄予定の布製品もアップサイクルしていく計画です 。これは一社の利益を追うものではなく、環境負荷が大きい繊維業界・飲食業界全体の課題を解決するための挑戦です 。
「昨日までのライバル」も同じように廃棄の痛みを抱えています。私たちが開発した再生生地「eterble fabric」を広く提供することで、業界全体のサステナビリティを底上げしたいと考えています 。共通の「地球の未来」という目的を掲げることで、競合を超えたパートナーシップを構築していきます 。
「1を1.5にする」承継者の覚悟
恐怖乗り越える決断の力
――歴史ある企業のリーダーとして、既存事業の矛盾を「新事業の種」に変えるために最も必要だったマインドセットは何でしょうか。同じ悩みを持つ経営者へのメッセージをいただけますと幸いです。
最も大切なのは「まず決める」というマインドセットです。私のような事業承継者は、ゼロから1を作る創業者とは立ち位置が根本的に異なります。受け継いだ「1」という資産を、いかに守りながら「1.5」へと進化させるかが問われるのです。
そこには常に「自分が失敗して、この1を0にしてしまうのではないか」という承継者特有の強い恐怖が付きまといます。創業者と違い、ゼロからの立ち上げを経験していないからこそ、失うことへの恐怖はより切実です。
しかし、既存事業の中に潜む矛盾――私にとっては大量廃棄でした――を放置することは、結果としてその「1」を失う最大のリスクになります。失敗の恐怖に打ち勝ち、矛盾を解決することをまずは決めることが肝要です。まずは決断して途中でやめないことで、いつかは目標を達成することができます。この「決断」し、ぶれないことこそが、承継者に求められる役割です。今、目の前にある「負」や「違和感」から逃げずに決断することが、100年続く企業への道と考えます。