TOPPAN、耐量子計算機暗号に対応したデュアルインターフェイスICカードを開発 2027年度の提供目指す

TOPPAN株式会社は、量子コンピュータでも解読が困難とされる耐量子計算機暗号(Post-Quantum Cryptography、以下PQC)を搭載したICカード「PQC CARD® Dual」を開発した。接触・非接触のどちらの通信方式でも利用できるデュアルインターフェイスICカードにPQCを実装した製品は世界初としている。高いセキュリティ性が求められる国民IDカードや医療向け認証カードなどへの実装を見据え、行政・医療分野へ2027年度からの提供を目指す。

インターネットを通じたサービスで用いられている暗号技術は、今後、膨大な計算能力を持つ量子コンピュータの実用化によって解読されるリスクが指摘されている。PQCは、そうした量子コンピュータによる解読への耐性を持つ暗号技術であり、現行の暗号方式からPQCへの移行が世界的に急務となっている。ICカードでも導入が検討されてきたが、PQCは暗号鍵や電子署名のデータサイズが極めて大きく、演算処理も複雑なため、メモリや処理能力が限られたICカードへの実装は難しいという課題があった。とりわけデュアルインターフェイスICカードでは、限られたメモリの中で接触・非接触の通信制御と、PQCが要求する膨大な演算処理を並行して動かす必要があり、技術的な障壁が高かった。

「PQC CARD® Dual」は、TOPPANが長年培ってきた独自の省メモリ技術によって、PQCの膨大な暗号演算処理で使用するメモリ容量を最適化し、資源が限られたデュアルインターフェイスICチップ上での実装を実現した。搭載するアルゴリズムは、米国国立標準技術研究所(NIST)が標準化し長期的な安全性が確保されたPQC標準の「ML-KEM」(鍵カプセル化)と「ML-DSA」(電子署名)で、従来広く使われてきたRSAやECC(楕円曲線暗号)にも対応する。1枚のカードで新旧両方の暗号方式を扱えるため、現行暗号からPQCへの移行期にも既存のインフラを生かしながら円滑に移行できる。

カードの基盤には、世界標準のICカードプラットフォームとして既存カードに広く導入されている汎用OS「Java Card」を採用した。これにより、決済や社員証、アクセス管理といった既存アプリケーションを保持したまま、暗号機能だけをPQCへアップデートするといった運用も可能となる。

開発はTOPPANが、ICカード開発で培った省メモリ技術と、これまで取り組んできた量子および耐量子計算機暗号の研究開発の知見を基に手がけた。同社は今後、2026年度中に行政・医療分野などを対象とした実証実験の実施を目指し、有用性の検証を経て2027年度からの提供開始を目指すとしている。

タッチ式の利便性と差し込み式の信頼性を両立するデュアルインターフェイスICカードは、銀行・金融サービスやIDカードの普及を背景に拡大を続けており、そのグローバル市場規模は2032年度に2025年度比で約2.6倍の107億ドルに達すると推定されている。米国や欧州の各国が2030年代の本格的なPQC移行を掲げるなか、認証基盤のPQC対応に向けた潜在的なニーズは高まっている。行政・医療・金融といった高いセキュリティが求められる分野で、耐量子計算機暗号に対応したICカードの実用化が今後の焦点となる。