世界が注目する光パターン形成LED 労災防止とイベント演出で需要拡大
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年8月28日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
静岡県西部で、バイクや楽器、織物などで世界に誇る企業が数多くある「ものづくりのまち」として知られる浜松市。2006年に創業した光学機械器具製造販売のパイフォトニクス株式会社は、光のパターンを形成する独自のLED照明「ホロライト」で注目を集める。高い指向性と視認性を持つドット状の光を、線や円など様々なパターンで投光できるのが特徴で、工場内の危険ゾーンを可視化することによる労働災害防止やイベントの演出などに活用されている。池田貴裕社長(50)が大学院大学在学中に興した同社は「新しい光の使い方を追求し、人類に新しい生き方と文化をもたらす」ことをモットーに、活躍の場を世界に広げる構えだ。

日本、米国、中国、欧州5か国で特許登録
主力製品のホロライトは、キューブ型の軽量小型の筐体(きょうたい)から、太陽光線と同程度の疑似平行光を発するLED照明だ。光の広がり角度は1度以下と指向性が高く、投光対象が50メートル先であっても、1メートルの領域をスポットで照らすことが可能という。レンズで遠方に集光したドット状の光の並べ方次第で、線や円など様々な光のパターンを自由自在に作ることができるといい、同社はこの技術で日本、米国、中国、さらにイギリスやドイツなど欧州5か国で特許を登録済みだ。光源がLEDなので、従来のハロゲンランプを使うスポットライトと比べて約200倍の製品寿命と、約5分の1の消費電力を実現。低発熱で安全性も高いという。

危険ゾーンを光で可視化、労働災害防止に貢献
ホロライトのこうした特徴が最も生かされているのが、工場や倉庫などの内部で危険なゾーンを光で可視化し、作業員らに注意喚起する安全用照明としての活用だ。例えば、クレーンやフォークリフトで材料や製品を移動させる工場では、吊り荷の下の立ち入り禁止エリアやフォークリフトが進む方向を可視化することができる。ホロライトは小型軽量でクレーンやフォークリフトにも設置できるため、これらが移動すれば、光で可視化される危険ゾーンも連動して動くという具合だ。光による注意喚起は、音声や言葉による注意喚起が伝わりにくい騒音のある現場や、外国人労働者や聴覚障害者が働く現場にも有効。ホロライトは、大手の鉄鋼メーカーや自動車メーカーの製造現場などで採用されている。


また、必要な場所に必要な量の光を届けられるホロライトの高い指向性は、これまでにない演出効果ももたらし、ライトアップイベントや建築物の装飾照明などでも利用されている。新型コロナウイルス感染症が猛威をふるっていた2020年4月から5月にかけて、浜松市が対応にあたる医療・介護従事者らへの感謝の気持ちを示そうと企画したイベントでは、駅ビルの壁面に「アリガトウ」の文字を投光し話題となった。さらに、ホロライトは金属やガラスなどの表面検査などにも利用されており、意外なところでは、野生の鳥害対策にも光が有効だとして、被害に悩む自治体などからの引き合いもあるという。

大学院大学発のベンチャー
池田社長の専門は「ホログラフィー」と呼ばれる、光の回折と干渉を利用して物体の情報を記録・再生し立体的な像を生成する技術だ。音楽やFMラジオ番組を聴くのが好きだった高校時代、記録媒体として新たに登場した光磁気ディスクに「最先端を感じた」のが光に関心を抱いたきっかけという。徳島大学と同大学院で光応用工学を学んだ後、「光のプロになる」との決意の下、光技術のリーディングカンパニーで、素粒子ニュートリノを検知したカミオカンデの高感度光センサーを製造したことでも知られる浜松ホトニクス株式会社(浜松市)に2000年に入社。米マサチューセッツ工科大学客員研究員派遣を経て、06年に光産業創成大学院大学(同)に留学した。
同大学院大学は浜松ホトニクスなどの「ものづくり企業」によって設立され、「光を用いて未知未踏の新しい産業を創成しうる人材の養成」を掲げている。「研究するだけでなく、試作品を製作し、最終的にはお客様に製品として届けたい」と考えていた池田社長は、入学半年後の同年10月にパイフォトニクスを設立、07年にホロライトを考案した。

展示会に積極出展し市場ニーズつかむ
パイフォトニクスは「大学発ベンチャーの成功例」と言われるが、池田社長は「大学で得られる研究成果はとても貴重だが、世の中のニーズと融合させられるかは別の話。技術に惚れ込んでいる技術者自身が起業し、魅力を外部に発信しなければいけない」と話す。ただ、その池田社長であっても、最初から戦略を適切に打ち出し、潜在的な市場のニーズを掘り起こすのは難しかった。そこで、各地の製品展示会などにできるだけ出展し、ホロライトの良さをPRしたという。「お客さんと会って、話して、信頼関係を構築できれば、お客さんの方からニーズを教えてくれる。それに合致したものを作れば売れる」。実際、ホロライトは高速道路の照明にも活用されているが、そのきっかけは、ある顧客の紹介だった。
海外に積極攻勢、株式公開も視野に
パイフォトニクスの売上高はここ数年、年率約30%で伸びているといい、その約8割を安全用照明が占めている。ホロライトの評価は海外でも高まっており、例えば2022年から展示会に出展する米国でのユーザーは、鉄鋼メーカーなど50社を超えた。各業界のトップクラスの企業が導入すると、他の企業への浸透効果も大きくなる傾向があるという。今後は、韓国やメキシコ、タイ、インドネシア、インドなどでも展示会などを通じて販路を開拓していく考えで、2026年9月期の株式公開も視野に入れている。
海外にも安全用照明を手がけるライバル企業は存在する。しかし、ホロライトには特許に裏付けられた高い技術や安全性・省エネ性、オーダーメイドにも短納期で応じられるといった強みがある。それでも、池田社長は「特許の上にあぐらをかかず、常に新しい商品を開発し続ける」と気を引き締める。
融合を大切に「やらまいか」の精神で
パイフォトニクスという社名は、ギリシャ文字の「パイ」(π、Π、pi)と光工学「フォトニクス」に由来する。無限に数字が続く円周率を意味する小文字のπには企業の永続を、数列の積を表す大文字のΠには融合を大切にする企業姿勢を込めたという。とりわけ、研究のシーズ(タネ)と市場のニーズを融合して実用化していくことを重視している。

実は和歌山県出身の池田社長だが、浜松市を象徴する方言「やらまいか」がビジネスでの合言葉だ。「やってみよう」「やってやろうじゃないか」というチャレンジ精神を意味する。「挑戦を続けることによって、新たな発見や出会いが生まれる。その中で新しい価値観やニーズが顕在化し、人類の未来が変わっていく。これからもワクワクするものを作りたい」。池田社長はそう語る。
【企業情報】
▽公式サイト=https://www.piphotonics.com/ ▽代表者=池田貴裕社長▽社員数=38人(2025年8月現在)▽資本金=9340万円 ▽創業=2006年
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