サーラコーポレーションが参画する共創コミュニティ「タキビコ」 「クロッシング」で老舗とスタートアップつなぐ

(左から)鈴木将孝氏、袴田有紀子氏(emCAMPUS STUDIO内にて)
愛知県豊橋市に本社を置くサーラコーポレーションは、老舗企業とスタートアップの共創コミュニティ「タキビコ」に発足当初から参画してきた。2023年7月に14社で始まった参加企業は現在26社に拡大。2026年11月20日には、同社が運営を担う「emCAMPUS STUDIO」の開設5年の節目に合わせ、初となる「タキビコフェス東三河」を開催する。キーパーソンの2人に、その狙いを聞いた。
「マッチング」ではなく「クロッシング」
「タキビコ」は、岐阜県羽島市で毛織物を手がける三星グループ(三星毛糸)代表の岩田真吾氏の呼びかけで2023年7月にスタートした、老舗企業の後継ぎ(アトツギ)とスタートアップの共創コミュニティだ。当初14社だった共創パートナーは、現在26社まで拡がっている。
「マッチングは、最初からビジネス目的で人を結びつけることが前提です。私たちが大事にしているのは、その手前にある人間関係づくりです」とサーラコーポレーション経営戦略本部イノベーション推進部長の鈴木将孝氏は語る。ビジネスの色を薄め、まず人と人としてつながる――そうした発想から「クロッシング」という言葉が生まれた。
サーラコーポレーションが「タキビコ」の発足時から参画した背景には、岩田氏と同社代表の神野氏が大学の同窓だったという個人的なつながりもあった。ちょうど社内で中期経営計画のもと、既存事業の枠を超えた新規事業創出に取り組み始めていた時期と重なり、共創パートナーとしての参加につながったという。
サーラグループはかねて中期経営計画で「共に枠を超えよう」というメッセージを掲げ、グループ内での企業投資にとどまらず、自社の事業領域を超えた先に新しい事業を生み出す方針を打ち出してきた。タキビコへの参画は、社外とのつながりを拡げるそうした取り組みの一つに位置づけられている。
タキビコでは、勉強会や視察、サウナを使った交流企画など多様な仕掛けを用意する。ただの懇親では終わらせず、対話の後には必ずその日に得た気づきを言葉にして共有する「クロージングセッション」を設けているのが特徴だ。
「参加して『何となく良かった』では終わらない。脳みそが疲れるくらい、学びに向き合う場です」(鈴木氏)
こうした運営は、三星グループ内の専任組織が担う。近年は「越境研修」という形で、サーラをはじめとする共創パートナー各社から出向した人材が事務局に加わっており、サーラは現在2人目の担当者を1年間常駐させている。
サウナを取り入れた交流や、焚き火を模したモニュメントの演出まで作り込むといった「遊び」の要素は、行政が主体では難しい部分だという。
「共創パートナーは岩田さん個人のネットワークからつながっており、『業務命令だから』ではなく『つながりの中で』動く熱量の高さが、民間企業がやる強みだと思います」(鈴木氏)
最初から東海・全国という広いエリアで展開しているのも特徴で、参加企業のエリアが違えば悩みも課題も違う分、それらを組み合わせることでより大きな価値が生まれるという発想がある。
emCAMPUS STUDIOが担う「つなぐ力」と「支える力」
サーラグループが運営を担うのが、豊橋市のインキュベーション施設「emCAMPUS STUDIO」だ。東三河の企業・大学・人々が学びを通じて新しい価値を共創する「共創型キャンパス」を掲げ、複合施設「emCAMPUS EAST」の開業に合わせて2021年11月に開設した。起業・挑戦への支援、セミナーなどの学びの場、コワーキングスペース、貸会議室を柱に、地域のチャレンジャーを後押ししている。


emCAMPUS STUDIO内のセミナールーム(上)とコワーキングスペース(下)

貸会議室も備え、研修や商談などに利用されている
「サーラがこの取り組みをやる意義は、ネットワーキングにあります」と同社経営戦略本部イノベーション推進部emCAMPUS運営室の袴田有紀子氏は話す。長年の事業で培ってきた地域の信頼関係を生かし、地域の事業者とスタートアップをつなぐことが使命だという。伴走支援の対象は45会員に上り、頼られすぎないよう週1回程度を目安に距離感を保ちながら、起業家の自立と成長を促している。「岩田さんのネットワーキングの熱量には、まだ及ばないところもあります」と袴田氏は認める。それでも、その熱量を職員に浸透させていくことが、emCAMPUS STUDIOの役割の一つだと考えている。
実際にタキビコを通じて生まれたつながりもある。決済サービスを手がけるネットプロテクションズとは、emCAMPUS STUDIOのシステムに関する取り組みで連携が生まれた。
「タキビコがなければ出会わなかった企業と、個人としてもつながることができました」(鈴木氏)
11月20日、東三河で「想いに火をつけろ」
タキビコフェスは、これまで東京で2回、いずれも約500名規模で開催してきた。地方版は2024年に岐阜羽島で第1回を開催し、約200名を集めている。その第2弾として、2026年11月20日に東三河で初めて開催されるのが「タキビコフェス東三河」だ。
開催時期は、emCAMPUS STUDIOの開設5年という節目とも重なる。
「東三河地域でもスタートアップ支援の機運が高まってきています。これまでの取り組みの延長線上で、地域全体の新しい価値創造を加速するきっかけにしたいです」(鈴木氏)
当日は「東三河から地域を豊かに」をテーマに掲げる。プログラムは、サーラコーポレーション代表の神野氏と岩田氏によるオープニングセッションに始まり、多彩なテーマを扱う6つのセッションを用意する。AIの動向など全国共通の関心事を扱うセッションに加え、東三河ならではの「食」をテーマにしたセッションも設ける。サーラグループが推進する「東三河フードバレー構想」と連動させ、トマト・柿・うずらの卵など地元産の食材にこだわった食事企画も検討中だ。
もう一つの目玉が、サーラグループの6つの事業セグメントから1人ずつが登壇する「お悩みピッチ」だ。あえて自社の課題を会場に投げかけ、参加者との事業相談につなげる仕掛けである。セッション終了後は「クロッシングタイム」として、emCAMPUS STUDIO内のフードコーナーで交流の場を設ける。
登壇者には老舗企業の代表やスタートアップ・ベンチャー企業の代表、VC関係者などが並ぶ予定だ。タキビコの参加者は経営者層が全体の3割を占め、「普段なかなか話せない方と話せる」ことも魅力の一つになっているという。
袴田氏は、こうした活動の先に目指す姿を「循環」という言葉で語る。地域の担い手を支えるのは簡単なことではない。それでも、支援先の企業や起業家と共に活動を重ねる中で地域にしっかりと利益や学びを還元し、それが巡り巡って自分たちにも返ってくる——そうした好循環を最終的なゴールに据えている。emCAMPUS STUDIOが培ってきた「ネットワーク力」は人と人、企業と企業をつなぐ役割を担い、「伴走支援力」は地域の挑戦者に寄り添い、その歩みを支える役割を担う。この「つなぐ力」と「支える力」という2つの機能を伸ばしながら、自分たちもその循環の輪の中に入っていくことが、地域の成長と自社の成長を両立させる道だと袴田氏は考えている。
鈴木氏は、地域外から人を呼び込み、関係人口を増やすことにもつなげたい考えだ。将来的には、この地域からIPOやユニコーン企業を輩出する原動力になりたいという。民間企業だからこそできるスタートアップ支援のかたちを追い求めながら、老舗企業とスタートアップが交わる焚き火を、東三河でも灯し続けていく。
PROFILE
鈴木将孝(すずき まさたか)氏
サーラコーポレーション 経営戦略本部 イノベーション推進部長
袴田有紀子(はかまた ゆきこ)氏
サーラコーポレーション 経営戦略本部 イノベーション推進部
emCAMPUS運営室長
「みんなの想いに火をつけろ!」
タキビコフェス東三河
日時:2026年11月20日(金)
会場:emCAMPUS STUDIO(愛知県豊橋市)
テーマ:「東三河から地域を豊かに」
主な登壇者:神野氏(サーラコーポレーション代表)、岩田真吾氏(三星グループ代表)、サーラグループ6事業セグメントの代表 ほか
プログラム:オープニングセッション、6テーマのセッション、お悩みピッチ、クロッシングタイム(交流会)
詳細・申込み:https://peatix.com/event/5164064
老舗企業とスタートアップが交わる1日。
未来をつくる経営者、次世代を期待する人材にこそ、事業構想を。
夢をみて、妄想して、構想する。
地域未来構想人材育成プログラム(東三河)
主催:事業構想大学院大学
日程:全4回。第1回11月5日(木)、第2回11月12日(木)、第3回11月26日(木)、第4回12月19日(土)
会場:第1〜3回はemCAMPUS STUDIO(豊橋市)、第4回は事業構想大学院大学名古屋校
対象:経営者、経営幹部、企業の次世代を担うことを期待される人材(定員20名)
参加費:1万円(文部科学省の助成による)
詳細・申込み:https://www.mpd.ac.jp/events/mirai_higashimikawa202611
事業ブランディングや地域構想の描き方など、経営人材が未来の事業構想を学ぶ全4回の連続講座。