レクシスネクシス・ジャパンと横河デジタル、製造業に「攻めのコンプライアンス」を提唱

レクシスネクシス・ジャパン株式会社と横河デジタル株式会社は2026年9月10日、製造業向けイベント「DX時代のガバナンス」を東京ミッドタウン八重洲で共催した。ベテランの「すり合わせ」に依存してきた現場力の継承と、AI時代のガバナンスの高度化を主題に、法令順守や問題発生後の対応に加え、データを活用してリスクを先取りする「攻めのコンプライアンス」の重要性を示した。背景には、AIの導入が進む一方、業務や既存システムとの連携が課題となっている状況がある。レクシスネクシスが9月に発表したAPAC AI意識調査では、日本の法務コンプライアンス専門家211名の88.6%がAIを利用する一方、50.2%が「ツール・システム間の連携不足」を課題に挙げ、APAC10市場で最も高かった。製造業では、現場の自律性と、本社による全社的なリスク管理を両立する仕組みが求められる。
基調講演では、現場の暗黙知を仕組みに変える方法論が示された。横河デジタル(2022年設立、横河電機の100%子会社)のIT/OTビジネス推進室副室長、佐藤恵二氏は、ある顧客工場の診断結果を提示。良品率は9割近くに達していたが、生産ロットの半分近くでは、手順書通りの運転に加えてベテランによる調整が必要となり、「すり合わせ」によって品質が保たれていた。佐藤氏は、品質不正問題を受けたガバナンス強化が対症療法にとどまり、製造プロセスの本質的な改善につながっていないケースがあるとの見方を示した。同社が提案するのは、設計情報に基づく従来の製造運転に、現場の知恵を判断ロジックとして組み込む「ノウハウ(知恵)ベース製造運転」を組み合わせる仕組みだ。現場の判断ロジックを定義し、システムに組み込むことが、AIを製造現場で有効に活用するうえで重要だと説明した。
もう一つの柱が、AIが判断に関わる時代の責任の所在だ。レクシスネクシス・ジャパンのビジネス ディベロップメント責任者、田中翼氏は、経済産業省が2026年4月に公表した「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」を軸に整理した。手引きはAIを、人の判断が介在する「補助/支援型」と、出力に依拠して業務を任せる「依拠/代替型」に分ける。田中氏は、後者に該当し得る自律走行ロボットがソフトウェア更新後に事故を起こす想定事例を紹介。製造業者が製造物責任を負うのは原則として引き渡し時点の欠陥についてであると説明し、更新後に生じた欠陥の評価を巡っては、手引きに二つの見解が併記されていると紹介した。導入時の審査だけでなく、変更後の安全性を誰が、どのように確認するかまで決めておく必要があると指摘した。
ガバナンス面では、「最終判断は現場」と定めるだけでは不十分だとの立場を示した。配送ルートAIの想定事例では、会社が「原則AIに従う」と指示し、配送の遅れに対するペナルティが重なれば、現場が危険を察知しても、引き返す判断が難しくなる。現場は判断の理由と結果を残し、本社は複数拠点の記録から全社リスクを把握して支援する。田中氏は、こうした本社と現場の分担を業務に組み込み、現場が判断できる体制を整える重要性を強調した。
両氏の対談では、来場者アンケートを通じて本社と工場の連携に関する課題が共有された。「増やしたルール・報告・検査が現場の改善やスピードを阻害していると感じるか」との設問では、「記録・報告の作業量が増えた」「ルール順守が優先され、現場が自分で考えなくなっている」がそれぞれ44%。本社のDX戦略と工場の改善のボトルネックは「工場ごとに事情が違い、共通の仕組みにできない」が31%で最多だった。佐藤氏は、全工場に同じ施策を配る「平等」ではなく各工場に合わせ込む「公平」を鍵に挙げ、紙の電子化にとどまるDXでは工場の成績は上がらないと指摘した。
横河デジタルは、2030年を見据え、安定操業から変化に追従できる操業、さらに「ビジネスアジリティを支える操業」へと段階的に進化させる工場スマート化の道筋を提示した。レクシスネクシスは、法改正情報を各現場へ直接届け本社が対応状況を俯瞰する仕組みの提供を通じ、「製造を止めない、意思決定も止めない」体制づくりを支援する方針を示した。