活魚流通システム、安定供給化にむけて本格稼働段階へ

生きたままの「活魚」を、眠らせたまま輸送し、都市圏の飲食店に流通させる「魚活ボックス」による流通システムが、実証実験の段階を経て実用化段階に入った。今後は、安定的に活魚を供給する漁業生産者、恒常的に消費する飲食店の確保が重要となる。

猛暑がつづく2019年8月1日の夜、ハーバーハウス(福岡市)が運営する東京・目黒の活魚専門店「釣船茶屋ざうお」には、大勢の客が押し寄せた。

ふだんは相模湾など関東近郊の港で水揚げされた魚を、タンクローリーのような活魚輸送専用車で輸送し、店内の生け簀にいれている。この日は、「旅するおさかなプロジェクト事務局」による実証実験で、長崎県の新上五島町から豊洲市場まで、睡眠状態で輸送された魚が提供された。長崎の離島で獲れためずらしい魚を、東京のど真ん中で福岡本店と同じように新鮮な状態で味わうことができ、魚好きの客に喜ばれていた。

「釣船茶屋 ざうお」執行役員の小野義和氏は、「これまでは最も遠いところでも三重県までだったが、活魚システムを活用することで、九州の魚もリーズナブルにお客様に楽しんでいただけるようになる」と期待を寄せている。

この活魚輸送システムを開発したのは、日建リース工業(本社:東京都、関山正勝社長、月刊事業構想2019年4月号参照)。建築現場で使われる足場や建設用重機などのリース大手。現在はオリンピックなどの旺盛な建設需要に支えられて業績は好調であるが、将来の需要減少に備えて、全社を挙げて新規事業のアイデアを5000個考えたうちのひとつである。

魚活ボックスによる輸送は、従来の活魚専用車よりも多くのメリットがある。従来方式では、専用車での輸送のためコストがかかる、タンク内のほとんどは海水で輸送効率が悪い、途中で一定割合の魚が死んでしまう、魚のフンで海水が汚れるなどの問題点があった。魚活ボックスは、魚を生きたまま二酸化炭素で眠らせた状態にして輸送し、到着後は元通りに目を覚まさせることができる輸送用コンテナである。荷物と同じように扱えるため、他の鮮魚と混載にして「市場便」と呼ばれる魚輸送のトラック定期便で豊洲市場などに運ぶことも可能である。

実証実験を繰り返すなかで、技術的な課題はクリアーできている。あとは、安定的に活魚を供給する漁業生産者、恒常的に消費する飲食店の確保が重要となる。その両方を連携し、プロデュースするのが、津々浦々(東京都千代田区、村上忠範社長)。同社は農林水産業の6次産業化を支援する。農林水産の官民ファンド出身の植草茂樹氏や博報堂出身者などのプロたちが、生産者と消費者をつなぎ、販路を開拓している。

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