「誠実」こそ最強の経営戦略 30年企業が示す、技術を超える「人間力」と危機突破の真髄
「誠実」を価値観の中心に据え、30年にわたりソフトウェア開発事業を展開してきた北都システム。同社が大切にしてきたのは、技術力を超える「人間力」だった。携帯電話開発からの事業転換という危機を乗り越え、現在は多店舗運営企業向けコミュニケーションシステム「店舗Linkle」の開発にも注力。社員を第一に考えながら事業承継の課題にも向き合う髙橋直樹社長に、誠実経営の真髄と未来への構想を聞いた。
北海道から全国へ広がる
ソフトウェア開発の挑戦
北海道に本社を置く北都システムは、創業30余年のソフトウェア開発企業だ。自動車関連(売上の約3割)、医療関連(約2割強)など多様な領域で受託開発を手がける一方、多店舗運営企業向けコミュニケーションシステム「店舗Linkle」を自社製品として開発・販売も行っている。
北都システムの髙橋直樹代表取締役。
「私自身はエンジニアではなく、創業者の親族でもなく、別業種から転職してきました。2017年に社長に就任し、エンジニアが多数在籍する会社の代表ですが、未だに技術的な中身まで把握できているわけではないのです」と語るのは、代表取締役社長の髙橋直樹氏。「それでも社長として続けられているのは、周りのメンバーが支えてくれているからです」と笑顔を見せる。
「誠実」という価値観が
会社の根幹を支える
「誠実」は創業者から受け継いだ北都システムの基本理念だ。「お客様に対して誠実であること、それが一番大事」と髙橋社長は強調する。「多くの同業他社があるなかで、技術力はもちろんのこと、『人としての接し方』を高く評価いただいている。これが当社の強みです」
髙橋社長が社長に就任した際に最初に考えたのは「社員を大切にする」ことだった。これには理由がある。同社は以前、携帯電話開発が売上の約8割を占めていたが、国内携帯メーカーの撤退とともに仕事が激減。組織の継続のため、本意ではないリストラをせざるを得ないなど厳しい状況を経験した。
「その経験から、二度とそんなことになってはいけないと思いました。社員が安心して働け、この会社に入って良かったと思える会社にしたい。それが私の一番の思いです」
危機を乗り越え
事業の多角化を実現
危機を乗り越えたのは、社員たちの積極的な行動力だった。「メンバー自ら『このままでは食っていけない』と、名古屋に飛んで自動車関連の仕事を獲得しました」と髙橋社長は当時を振り返る。
5〜6人のチームが名古屋の顧客先で3年ほど作業を続け、信頼を築いた上で札幌に仕事を持ち帰ることに成功。また、医療分野の仕事も少しずつ増やしていった。
「当社の特徴は200名程の規模でありながら、いくつもの事業を行っていることです。創立30周年を迎えた際、20年前、10年前、1年前の主要顧客上位5社を調べたところ、ほとんど重複がありませんでした。時代とともに必要とされる技術も変化し、私たちもそれに応じて変わってきたのです。どこか一つの事業に偏りすぎるとリスクが高い。自動車関連、医療、アプリケーション開発、自社製品と、バランスを考えて事業展開しています」
同社の強みは、このような危機対応力だけではない。「お客様が何を求めているかをしっかり聞き出し、それを実現することが最も重要」と髙橋社長。特に医療系システムの開発では、道内大学病院などで厳しい要求に応えながら技術を磨いてきた。
「『先生はAと言うけど、実は欲しいのはA'なんだろう』と察する力。それを育ててくれたのはお客様です。当社はお客様に育てられてきました」
自社製品「店舗Linkle」で
次の成長ステージへ
「店舗Linkle」は、多店舗展開している企業向けの情報共有システムだ。元々は約18年前に「ホットナレッジ」というナレッジマネジメントシステムとして開発された。展示会出展を続ける中、ある流通系企業との出会いがきっかけで、店舗運営向けに特化したシステムへと進化。10年ほど前に「店舗Linkle」と名称を変更し、サービス展開している。
「競合製品と比べて、店舗スタッフ目線で使いやすいことが評価されています。本部目線だと分析機能など様々な機能がついて複雑になりますが、私たちは『店舗スタッフが楽になれるか』を重視しています」
もう一つの特徴は、クラウドサービスでありながらカスタマイズ対応が可能なこと。「大手企業ほど自社の運用ルールがあり、それに合わせた調整を求められます。お客様の使いやすさを優先し、カスタマイズに応じることで差別化しています」
オートバックスやブックオフなど大手企業にも採用されており、現在は売上全体の1割ほど。目標は売上全体の3割。しかし、着実に成長しており、今後の柱にしていきたい」と髙橋社長は意気込む。
事業承継と未来への道筋
人間関係の構築が鍵
「そろそろ次の人にバトンタッチすることも考えなければならない。」と話す髙橋社長。
「難しいのは組織作りです。結局経営者と言えど、一人では何もできない。次の社長を支える周りをどう作っていくか、これが一番の課題です」と語る髙橋社長。家族経営ではないため、「みんなが納得する形で承継していくのは容易ではない」と率直に話す。
成功の鍵は信頼関係の構築だと髙橋社長は考える。「結局は人間関係。互いに腹を割って話し合える関係性を作ることが大事です。そのためには自分自身からまず弱みをさらけ出す。自分の弱さを出せる強さが必要なんです」
人材不足が深刻化する中、北都システムが目指すのは「人の手をかけずにビジネスを伸ばす」こと。そのために自社サービスの拡大を重視している。受託開発で培った知見を活かし、新たな自社製品の種も育てているという。
「これからもお客様と一緒に成長し、誠実な経営を貫いていきたい。」髙橋社長の言葉からは、30年を超える北都システムの歴史を支えてきた「誠実」という価値観が、次の時代にも受け継がれていくことへの確信が感じられた。