AIを利用した漁業者支援システム 漁業者を守り水産業を持続可能に

日本の水産業界は、水産資源の減少や高齢化、所得が低く若手の継承が難しいといった様々な問題を抱えている。オーシャンソリューションテクノロジーは、AIを利用したシステムで漁業者をサポートし、それらの問題を解決しようとしている。

漁業者支援システム「トリトンの矛」の船内での使用風景

長崎県佐世保市に本社を置き、ソフトウェアの開発・販売を行うオーシャンソリューションテクノロジーは、人工知能(AI)を利用した漁業者支援システム「トリトンの矛」で、持続可能な水産業に向けた取り組みを進めている。

水上 陽介 オーシャンソリューションテクノロジー 代表取締役

漁獲量の減少と戦う

「水産業界は現在、危機に瀕しています。例えば、サンマは2017年には1尾100円程度でしたが、今年9月10日の店頭価格は780円まで高騰しました。また、2014年には本州1位の水揚げ量を誇った宮城県気仙沼漁港では、今年8月10日の漁解禁日以降、9月28日時点まで初水揚げができませんでした。このような事態は、漁業者だけが悪いのではなく、今までの水産業界における加工・流通・小売・消費者まで含めた社会構造の結果でしかありません」。

オーシャンソリューションテクノロジー代表取締役の水上陽介氏は、こう指摘する。これまでの水産業では魚を獲り過ぎた結果、供給が過剰になり、店頭価格が大きく下がるということが起きてきた。「需給バランスが見えない中での操業は、漁業者の努力を無駄にするだけでなく、水産資源の無駄遣いにもつながっています」。

水産業界では水産資源の減少以外にも、業界全体の高齢化や所得の低さなど様々な問題が存在する。現在は国内の漁業者の約60%が55歳以上となっており、漁獲量は減少傾向にある。また、漁業者の年収は200万円以下という場合が多く、若手の参入はなかなか望めない。

「日本の水産業ではこれまで、自分が獲らなくても誰かが獲るので、商品価値が低くても獲られる前に獲るという『オリンピック方式』が普通でした。この方式では、資源が減少して探索に必要なコストは増加します。その一方で、獲り過ぎによって供給過多になり、魚価は下落、漁業者の収益は減少します。そして収益を増やすには漁獲量を増やさざるを得ない、という負のスパイラルが生み出されます」

ベテランの経験と勘をAIが学習

このような中、国は約70年ぶりの漁業制度見直しに着手し、2018年12月には改正漁業法が成立した。従来の「オリンピック方式」から管理漁業に転換し、水産資源を適切に管理していくためには科学的根拠が必要で、漁獲量に関する詳細な報告が求められる。

しかし、漁業者に対する報告の義務付けには、様々な問題が存在する。例えば、船ごとに設置機材に差がありフォーマットが決められない、高齢の漁業者が多くデータ報告は難しい、報告書を作成するための事務員を雇う余裕はない、というものだ。

「年収が低く平均年齢も高い漁業者は、日々の生活に追われているのが普通です。長期的なスパンでの収益向上や水産資源回復を掲げても、自分自身が漁業者でいる間の結果は見えず、負担が増えるだけと受け止められます。このような状況で漁獲報告を達成するには、報告へのインセンティブと報告業務負担を限りなくゼロにする必要があります」。

この問題の解決に向けて、オーシャンソリューションテクノロジーでは、漁業者支援システム「トリトンの矛」を提供している。現在は宮崎県の漁業者と共に、操業日誌のデータ化による最適な漁場選定と技術継承に関する実証実験を行っている。

この取り組みでは、漁業者の操業日誌を電子化し、海況情報、気象情報といった情報を加え、ベテラン漁業者の経験と勘をAIに学習させる。そしてベテラン漁業者の「分身」を作る形で、漁場選定を行う。

2019年2月と3月には、漁場選定の経験がない若手がこのシステムを使用して、ベテランと漁で競った結果、漁獲量では若手がベテランを上回るという結果が出た。

「システムを使っていない時の若手漁業者の漁獲量は、ベテランの約半分だったそうです。この結果によって操業日誌をAIに学習させることは、漁場選定に関して一定の有効性があることが検証できました」。

他方で、AIの利用によって若手漁業者の漁獲量は大きく増えたものの、課題も存在する。例えば、獲った魚の中身を見ると、ベテランは収益性が高いものになっていたが、若手はほぼ赤字という状況だった。

「今後は相場情報などもデータとして収集できれば、AIによる金融工学的な相場予測情報を提供できるはずです。そして、水産資源を守りながら限られた漁獲枠の中、いつ、どこで、どの魚を、どれだけ獲れば、最も収益性が高いのかといった情報も提供していきたいと考えています」。

日本独自の認証制度で収益向上を

また、オーシャンソリューションテクノロジーでは、ある漁協の過去7年間の真鯵の水揚げ量と価格のグラフを基に、水揚げ量と価格の相関関係についてAIに学習させた。そして魚価予測のテストを行った結果、予測結果と実際の価格はほぼ一致するという結果も得られた。

「今後は季節や地域による変化についてもデータも加えていけば、より精度の向上が図れると思います。また、漁業者の漁獲報告として一次情報がしっかり挙げられるようになれば、透明性、信用性、経済性を確保したトレーサビリティも実現できるはずです」。

現在は、IUU(違法・無報告・無規制)漁業による漁獲物が市場に出回っていることも、漁業者の収益を圧迫する要因になっている。しっかりした一次情報に基づくトレーサビリティが可能になれば、それらを排除する日本独自の認証制度の検討も可能になるかもしれない。

「現在行われている国際基準の認証は、漁業者、流通業者、加工業者が認証費用を負担しているのが実状です。漁獲報告がしっかり行われた水産物には無償で認証を提供し、受益者に当たる消費者から認証費用を受け取れる仕組みがあれば、漁業者の収益性向上も期待できます」。

漁業者の生活を守ることは日本の水産業復活につながり、水産業を持続可能にしていくことにも役立つ。オーシャンソリューションテクノロジーは未来を見据えた技術で、それをサポートしていく。

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