自己の経験から事業を開発 行きたくなる避難所づくり

企業におけるSDGsの実践をテーマに研究・教育を行う〈SDGs総研〉では、SDGsに資する新事業を開発する1年間の研究会を実施している。研究員を派遣しているダイドーハント 代表取締役社長 肌勢宜記氏、研究員の内生蔵 直宏氏に話を聞いた。

「信用と革新」を経営理念に
次の新しい事業構想を模索

1939年に大阪市で創業したダイドーハント。特殊釘を扱う商店から始まり、製釘機や製鋲機の製造を通してものづくりの世界へ進出した。以来、時代の変化に合わせた事業に取り組み、業態を変えながら成長してきた。

現在は主に、戸建ての木造住宅関連製品、ホームセンター向け製品、太陽光パネル取り付けの架台開発の3つが事業の柱となっている。

「主に住宅、木材に関わる"つなげるもの"を作っている会社です。ファブレスメーカーで自社工場は持たないため、新しいものを企画・設計して商品化するのが生き残りの道です」と肌勢社長は話す。

右:代表取締役社長 肌勢 宜記氏
左:企画開発部 課長代理 内生蔵 直宏氏

同社では、先代の頃から経営理念に掲げる「信用と革新」に意識的に取り組んできた。「釘から住宅関連の金物製品に事業を広げた後、ホームセンターの拡大を見据えてルートを開拓し、10年ほど前には、太陽光パネルの普及を見込んで開発した架台が現在の事業の柱となっています。社長交代から5年ですが、自分に代が変わって、同じことをやるのではなく、新しいことにチャレンジしてみよう、常にチャンスはないかと窺っています。現在の主軸となっている住宅関連製品は、日本の人口が減っていく中では、成長は難しい。次の新しい事業を作る必要があります」

そのような中、SDGsを知る機会があった。「自社ではどういうことができているか、気が付かないうちに取り組めていたこともあると思いました。黙ってやるのではなく、外に向けて発信していくことの必要性とともに、そういう時代なんだと強く感じました」

これが内生蔵氏をSDGs総研の研究会に派遣するきっかけとなった。

事業構想が習慣化
動機となった経験から構想を推進

内生蔵氏は「正直なところ、SDGsという言葉も知らず、初回は環境系の研修と思って参加していました。同期は意識が高く、すごいところに来てしまったという印象でした」と振り返る。

しかし研究会への参加を重ねる中で、「1日に1つ事業構想を作る」という課題にも取り組み、最初は辛かった事業構想が習慣化されていった。また同期からは、行動力、挑戦のマインドなど、さまざまな刺激を受け、自身が何故それをやるのかと突き詰めて、事業構想を磨いていった。

「毎年のように甚大な災害が起こっていますが、私自身も災害で自宅の一部が損壊してしまうことがあり、災害が身近に迫っているのを実感しました。一方で大学卒業後、建築系の会社で働いてきましたが、自分の関わった仕事が、地球温暖化に加担してしまうこともあったように思います。こうした背景から、災害で亡くなる方を1人でも減らせるような事業を構想できたらと思うようになりました」

また、熊本地震の際に避難所を訪れた際の経験も生きた。「プライベートのない空間で、ここに行きたいとは思えませんでした。行ってもいいかなと思える空間を作って事前避難を促し、助かる人を増やせないか、というところからプライベート空間のある避難所づくりの着想を得ました」

自治体に避難所のプライベート空間を作る新サービスの提案を進めている

具現化にあたっては、内生蔵氏が住宅関連製品の営業を通して木造住宅の構造を理解していたため、構造を簡易化したものでプライベート空間を作れないか、工法から考えていった。「これまでであれば、完成品ができてから提案していたところでしたが、研究会でリーンスタートアップの考え方を教わり、簡単な設計図だけで自治体に提案するという実践もしました。完成品がなくても、話が進むことを知りました」

現在、構想は関西の自治体で実証実験を進めるところまで漕ぎ着けた。また構想時には想定していなかった、新型コロナウイルスも追い風になっているという。「プライベート空間を確保した避難所は飛沫対策にもなります。また災害時以外でも有効活用してもらうため、地域住民の声も聞いていくようにしたいです」

ダイドーハント・内生蔵氏の事業構想サイクル

 

パートナーシップで
避難所のソフト面の向上も目指す

内生蔵氏はSDGsのゴールの一つでもあるパートナーシップも視野に入れる。「ハードの部分は作れますが、ソフトの部分は作れません。研究会のメンバーで応援してくれる人たちがいるので、パートナーシップを結んでソフト作りを進めていきたいです。私は2期生ですが、1期生の中にも一緒にやろうと声をかけてくれる方もいます」

日本の避難所への避難率は3%と言われている。内生蔵氏は「この数字を上げていきたいです。事業が社会の一翼にならないと持続可能性を保てないので、しっかり事業化できるよう、救える命を救うということをブレずに取り組んでいきたいです」と力を込める。

一方、社内では、これから勉強会などを通して事業構想やSDGsの意識形成をしていく段階だ。肌勢社長は「社内で事業構想の仕組みはできていないので、彼の経験も生かしながら仕組みづくりから進めていきたいですね」と今後の展望を語った。