NVIDIAと日本、国家規模のAI基盤構築へ
NVIDIAは2026年7月16日、日本企業のNoetra株式会社(以下Noetra)と連携し、フィジカルAIの実現に向けた国家規模のAI基盤「NVIDIA Vera Rubin AIファクトリー」を構築すると発表した。経済産業省の支援を受けるこの取り組みは、製造業や物流、ヘルスケアなど幅広い産業で日本のAI活用を後押しする狙いがある。NVIDIA Japanの発表によれば、フィジカルAI向けのインフラとしては世界初の国家規模の事例になるという。
Photo by gui yong nian/ Adobe Stock
フィジカルAIとは、工場の生産ラインや物流ロボットのように、現実の空間で判断し動くAIを指す言葉だ。文章や画像といった情報の世界だけで機能する従来の生成AIとは異なり、カメラやセンサーから得た情報をもとに、現実の物理的な動作へと変換する点が特徴になる。この処理には膨大な計算資源が必要になるため、今回発表された「AIファクトリー」は、必要な計算能力を一カ所に集約した巨大なデータセンターと考えると理解しやすい。
巨大データセンターの中身
新たに整備するAIファクトリーには、NVIDIAのCPU「Vera」を13,750基以上、GPU「Rubin」を27,500基以上導入する。データセンター全体の電力容量は140MW(メガワット)に達し、NVIDIAの新設計基盤「DSX」を採用したラック構成「Vera Rubin NVL72」で構成される仕組みだ。各ラックは通信技術「Spectrum-X Ethernet」で接続され、大規模なAIモデルの学習と運用を一体で担う。Noetraの発表によると、この計算基盤の構築は2027年4月に始まり、2028年6月からの稼働を予定している。
この基盤が生まれた背景には、経済産業省などが参加する「AIロボティクスに関する関係府省連絡会議」が2026年3月26日に公表した「AIロボティクス戦略」がある。同戦略は、ヒューマノイドをはじめとする多用途ロボットの世界市場が2040年までに約60兆円規模へ拡大するとの見通しのもと、日本が米中と並ぶ第三極として世界シェア3割超を確保し、20兆円規模の市場を獲得する目標を掲げている。この目標を実現する手段の一つが、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公募した「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」、通称「FRONTiaプロジェクト」だ。経済産業省とNEDOは2026年6月30日、この事業の実施先としてNoetraと産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所、理事長・石村和彦氏)を採択したと発表している。事業期間は2026年度から2030年度までで、初年度となる2026年度の委託費は約3,873億円に上り、5年間の事業規模は総額で約1兆円に達する見通しだ。NVIDIAが今回発表したAIファクトリーは、この事業に計算基盤を提供する形で位置付けられる。
Noetraの生い立ちと体制
Noetra株式会社は2026年1月7日に設立された企業で、当初の社名は「株式会社日本AI基盤モデル開発」だったが、同年6月1日にNoetraへ改称し、7月1日に事業を本格的に開始した。本社は東京都渋谷区に置き、代表取締役社長は丹波廣寅氏が務める。出資企業はソニーグループ株式会社、ソフトバンク株式会社、日本電気株式会社、本田技研工業株式会社を中核に、国内44社に上る。開発体制では、これらの出資企業に加えて産総研や株式会社Preferred Networksの技術者が参画し、実用的なモデルの開発と提供をNoetraが担う。開発した学習済みモデルの重みは、研究開発や社会実装の状況を踏まえながら、国内のモデル開発者や企業に順次公開していく方針だ。
こうした体制のもと、Noetraは2026年度から、日本語の高度な理解や論理推論、指示遂行などの基盤的な能力を備えた推論基盤モデルの構築を順次進める。2028年度には、言語や画像、動画、音声を横断的に処理できるオムニモーダル基盤モデルの開発に進み、2030年度には、空間認識など現実世界の物理的な特性を理解する「実世界ネイティブAI」の実現を目指す。
今回の発表にあたっては、日米双方の関係者からコメントが寄せられている。NVIDIA創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏は、日本が製造業を築いてきた歴史を踏まえ、次の産業革命を担うAI基盤づくりに協力できることを歓迎すると述べた。経済産業大臣の赤澤亮正氏は、FRONTiaプロジェクトをフィジカルAIエコシステム形成の中核と位置づけ、日本の現場力とものづくりの技術基盤を生かしていく方針を示した。Noetra代表取締役社長の丹波廣寅氏は、フィジカルAIを社会に広めるには一企業だけでは実現できない規模の計算力とデータが必要だと指摘し、国内外のパートナーと連携しながら開発成果を広く共有していく考えを明らかにした。中核4社のトップも歓迎の意を示しており、ソニーグループ代表執行役社長CEOの十時裕樹氏は日本の開発力強化につながる取り組みだと述べ、ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は産業データを国内で安全に生かせる環境整備の重要性を強調した。日本電気の取締役代表執行役社長兼CEOである森田隆之氏は実践的な知見を生かしてモデル開発に貢献する考えを示し、本田技研工業の取締役代表執行役社長である三部敏宏氏は共創を通じた社会課題の解決に期待を寄せた。
今回の取り組みが計画通りに進めば、日本国内で1兆パラメータ規模のAIモデルの学習が可能になり、企業や研究機関が世界最先端のAI環境を利用できる基盤が整う。海外製の基盤モデルへの依存を減らし、製造現場で積み重ねてきたデータを外部に渡さずに活用できる体制を持つことは、日本の産業競争力にとって大きな意味を持つ。フィジカルAIの実用化は工場や物流の現場だけでなく、人材育成のあり方にも影響を及ぼす可能性があり、今後の展開が注目される。
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