学術業績に留まらない 実務家教員にとっての「研究」とその定義

実務家教員にとっての「研究」とは何を指すのだろうか。豊富な実務経験を持つ実務家教員にあっては、論文執筆による学術業績だけでなく、実務上の知見を形式知化し、発表することも立派な研究である。今回は実務家教員の研究能力とその定義について考察する。

実務家教員の研究能力の証左は?

前回でも述べたように、「研究能力」の意味を狭義的に捉えると、とたんに研究がよそよそしく感じてしまう。つまり、学会発表や論文を執筆し学会誌に掲載される「学術業績」を研究と考えているのではないだろうか。もちろんそれは、研究能力を示すわかりやすいかたちではあるし、学術業績を有することに越したことはない。だが、学術業績のみを研究能力の証左とみなすのは有益なことではない。

専門職大学設置基準第36条によれば「研究能力を有する実務家教員の定義」は以下の通りになる。第1に、大学において教授、准教授、専任の講師又は助教の経歴(外国におけるこれらに相当する教員としての経歴を含む。)のある者。第2に、博士の学位、修士の学位又は専門職学位(いわゆる専門職大学院で授与される学位のこと)を有する者。そして第3に、企業等に在職し、実務に係る研究上の業績を有する者。と定義されている。

前者の2つについては、履歴書を見ればわかる内容であり外形的である。一方で、第3の「企業等に在職し、実務に係る研究上の業績を有する者」というのは解釈の余地がある。

研究とは何か。一つの答えは、「新しい知の発見/創造」である。いわゆる暗黙知は、表出していない知である。それらを言葉にして形式知にすることは「新しい知の発見/創造」に他ならない。研究能力を「新たな知見」を生み出すことであると考えれば、より多義的で重層的な見方をすることができるのではないだろうか。

ここで言いたいのは、学術業績によって生み出される学知と、実務家教員によって形成される実践知の、どちらがより優位なのかということを主張するものではない。実務家教員が唱える持論が、すべて実践知になるわけでもない。実務家教員の研究能力というのは、実務経験を持論として言語化しさらに、誰もが納得でき実際の現場で活用できるような実践知にする能力ということになる。裏を返せば、いずれにせよ人に理解してもらうために言葉にすることは必要である。だからこそ、研究能力には著書、論文等の学術上の業績を必ずしも求めるものではなく、実務上の実践知識を形式知化、あるいは構造化・理論化し様々な形で発表した業績も評価の対象となっている。

この考え方の延長線上に実務家教員が固有にもつ知識を作り出す役割が見えてくる。例えば専門分野上の学術的な知見は整っているが、実務でどのように学術上の知見を活かすことができるのかという知識もまた「知識活用のための知識」である。それについて論じられるのは、実際に実務の現場があり経験を有している実務家教員だけだ。実務家教員が関与する実践的知識としては、これから言及する「実践の理論」がキーワードになる。

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