カクイチ ナノバブルで「高付加価値型」農業を実現

農機具用ガレージの製造販売などを手がけるカクイチは今、農作物の肥料吸収促進などの効果がある「ナノバブル」技術の提供を通じて、農業の新しい姿を模索している。AIやIoTなどの最先端テクノロジーと農家の生の声をかけ合わせ、高付加価値型の農業を実現していく。

日本を農業で元気にしたい

カクイチは1886年、金物店として現在の長野県千曲市に創業した。1960年に農業用スプレーホースに参入、1966年には農機具収納用ガレージの製造販売を開始し、現在その納入実績は12万棟に達する。2013年からはガレージの屋根に太陽光発電パネルを設置して売電事業にも乗り出すなど、その歩みは日本の農業とともにあった。

「農業従事者の高齢化や生産者の減少などに苦しむ日本の農業には今、大きな変革が求められています。お世話になってきた農家の皆さんに恩返ししたいという思いもあって、現在力を入れているのが、高付加価値型農業を目指す農業改善事業です」と、2014年から代表取締役社長を務める田中離有氏は語る。

田中 離有 カクイチ 代表取締役社長

農業を元気にするだけでなく、「日 本を農業で元気にする」ことがカクイ チのビジョンだ。田中氏の言う「高付加価値型農業」には、単に「儲かる農業」ではなく、国や地域社会、生産者や消費者の健康、ひいては地球環境にとっても有益な、価値ある農業という意味が込められている。

ナノバブルが農業を変える

日本農業変革の起点として、カクイチが着目するのが「水」、それも「ナノバブル」を含ませた高機能水だ。同社はアクアソリューション事業を立ち上げ、水中にナノバブルを発生させられる装置を開発し、農業への導入を進めている。

カクイチのナノバブル発生装置

通常、水中の気泡は「マイクロバブル」と呼ばれ、水面まで浮上して消える。その直径は100μm以下だが、ナノバブルは直径1μm以下の目に見えない泡で、ブラウン運動と呼ばれる動きで水中を漂い、数カ月程水中に留まる。また、マイナスに帯電しているので、プラスイオンを吸着する性質がある。ナノバブル水を土壌に潅水すれば、酸素による微生物の活性化や肥料吸収が促進されることで、植物の樹勢が良くなり、葉に散布すれば有機肥料の吸収が促進されるといった様々な効果がある。

「根張りがよい、肥料の吸収がよい、樹勢がよい、しかも農薬ではないので無害であるなどメリットが非常に多く、ナノバブル技術の育成メカニズム等の解析に向けて東京農業大学と共同研究も進めています。多くの農家に使っていただくために、負担の少ない月定額のサブスクリプション方式で展開してきました」(2021年から変更予定)

ただ、同じ装置を使っても結果が出る農家もあれば出ない農家もあった。原因を追求するには膨大なデータを集めて分析する必要がある。「農業にこそデータが必須で、自動的にデータが入ってくる仕組みの構築が急務であると気づきました。そこで、ナノバブル発生装置にセンサーを取り付けIoT機器化し、環境センサーで土中水分や日射量、温度などのデータを見える化する仕組みを考案しました」

農業AIとアプリの開発

全国各地に配備されるナノバブル発生装置等からの環境データをクラウド上に集約し、解析して仮説を立て、検証する。さらに、数値データだけでなく、農家に直接ヒアリングした情報=言語データも分析に組み込む。その繰り返しで、ナノバブル発生装置の効果を高められる育成環境の把握や、新しい栽培方法の開発などにつながっている。

この歩みをさらに進めるため、カクイチは日本IBMと共同で「農業AI」の開発に着手。まず、農家にナノバブル水の最適な散水のタイミングなどをアドバイスするシステムとスマホアプリを開発し、2020年4月から試験運用している。

図 農業AIの可能性

出典:カクイチ資料

 

「複雑なパラメータが多い農業だからこそ、AIの力を借りるべきです。うまく行かなかった事例のデータも含めて学習させることで、AIはやがてベテラン農家の知恵を持ち、さらにそれを超える集合知になっていくと思っています」

農業AIを生産者がフル活用する未来への流れを加速するには、生産者が常に閲覧し、様々な情報を入力できるアプリも必要になる。「農家の意思決定をサポートして、何かを入力すれば必ず何らかの情報が返ってくるような、楽しく使えるアプリを思い描いています。生産者が自主的に情報を記録していけば、データ量は飛躍的に増大し、AIの質も改善されていくでしょう」

中小農家がつながり、集合知に

カクイチの農業改善事業は今、ナノバブル技術を起点に農業データを蓄積・分析して生産活動に活かし、個々の生産者の知恵を集約する集合知としての農業AIをまとめあげていく段階にさしかかっている。その先にあるのは、蓄積されたデータや貴重な知恵を共有するフェーズだ。

「データは、共有することによってこそ価値が生まれます。技術だけでも、データだけでも革新は生まれません。当社が蓄積したデータを積極的に開示する一方、個々の農家が知恵を持ち寄って共有し、新しい価値を生み出してほしい。日本の農家はほとんどが中小規模です。当社は、そうした個々の農家がつながり、ともに成長できる仕組みづくりをお手伝いすることで、農業と日本を元気にしていきたいと思っています」

カクイチは、ガレージのショールーム「A-SITE」を全国60ヶ所に展開している。田中氏は、これを農家が勉強会や交流会、マルシェ、展示会などの場にしていくことを考えている。リアルな対話を通じて情報を共有する場を作ることで新たな発見が生まれるからだ。

デジタルとアナログ。最新テクノロジーと昔ながらの知恵。カクイチの農業改善事業の中で、そうした要素は対極にあるものではなく、不可分に一体化している。

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株式会社カクイチ
アクアソリューション事業本部
TEL: 03-3262-3342
MAIL:aqua@kaku-ichi.co.jp

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