実務家教員の研究能力とは? 「新しい知」を作り出せ

実務家教員がもつべき研究能力とは何だろうか。実務家教員の果たすべき役割から整理をしてみよう。

専門職大学院は
研究能力はいらないのか

そもそも実務家教員が明示的に示されたのは、2003年に専門職大学院が制度化されたときであった。専門職大学院が担う人材育成機能は、「各専攻分野における『高度で専門的な職業能力を有する』」高度専門職業人の育成である。その機能を達成するためには、高度専門職業人養成に特化した実践的な教育を行う必要がある。このような観点から、それぞれの実務領域の実践に精通した実務家教員を置くことになったのである。実務家教員の役割は、実務領域の実践にかんする教育を行うことは当然のこととして、高度で専門的な職業能力を有するためには当該領域においてどのような能力やスキルが必要であるのかを教育課程の編成に生かしていくことを負っている。

ところで専門職大学院は、「理論と実務を架橋する実践的な教育」を実施することを旨としている。だが、じつのところ専門職大学院においては「研究能力を有する」実務家教員についての規定はない。専門職大学院設置基準は、あくまで最低限の設置要件を示したものであり、この基準をクリアすればよいという性格のものではないにせよ、基準通り解釈をすれば実務家教員に対する研究能力を必須としてはいない。「理論と実務を架橋する」方法については検討の余地があるが、専門職大学院の制度趣旨が、高度専門職業人養成に特化した実践的な教育を行うものであり、研究者養成を目的としていないことや、研究指導を必須としていないことから研究者教員と実務家教員が一定数おり、そこでのコラボレーションによって「理論と実務を架橋する」ことへの担保としているのであろう。

研究のイメージを刷新する

しかしながら、法令上の規定がないだけであって実質上は専門職大学院であろうと、実務家教員には必然的に研究能力が求められるのではないだろうか。

さて「研究」というイメージというと、学術論文を執筆したり、学会発表をしたり、あるいは実験室で実験器具を用いて、と、思い浮かべる人が多いのではないだろうか。もちろん、それも研究である。研究をよりひろくとらえれば「明らかにされていないことを明らかにする」あるいは「新しい知」をつくりだすことである。さらにいえば、新しい知にせよ何にせよ知識は、自分だけが知っている状態では知識といえない。人と共有してはじめて知として成立する。たとえば、実務家教員が精通している実務領域では当然のこととしてみなされている行為があるとしよう。それは言葉として「明らか」にして人と共有していることだろうか。当然のこととみなされていることは、ともすると「明らかに」されていないことが多い。じつのところ、自分たちが当然のこととしてみなしていることを見つけ出すことは非常に難しい。まさに自身の実務領域で当然のこととしてみなされていることを見つけ、明らかにすることが実務家教員の研究能力の第一歩なのである。


参考文献
文部科学省中央教育審議会「大学院における高度専門職業人養成について(答申)」https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/020802.htm(最終取得日2020年11月15日)