ESGと企業価値:ケーススタディⅡ 共感を得るヘルステックの開発へ

競争力が低下している理由

私たちは日々、便利で快適な生活を送るためのモノに囲まれている。これら製品の使い勝手が悪ければ、当然、再びその製品を使う機会は減っていく。UX(ユーザーエクスペリエンス)という概念が提唱されたのは1990年代半ば。提唱者のドン・ノーマンらの定義によると模範的なUXは第一に、顧客のニーズを正確に満たし、煩わしさを感じさせないこと。第二に、所有する喜び、使う喜びを感じられる製品を生み出すシンプルさとエレガンスを持つこととされている[1]。そして、この概念を追求したのがアップルだ。故スティーブ・ジョブスが徹底的にユーザ―エクスペリエンスを追求した結果、アップルの製品はその機能性に加え、愛着を持つユーザーが多い。

製品が作られるとき、すばらしい技術と共に必要となるのは、ユーザーに必要とされ、かつ使いやすく魅力的で価値あるものになるかどうかだ。

「貿易立国日本」を支えてきた我が国のモノづくりは1990年代以降、新興国の企業に押され輸出力は低下し、生産現場が海外へ移り、国内生産は頭打ちになっている。現場力の強みに根差した我が国のものづくり産業は中長期的に競争力低下が懸念されている。

加えて日本の経済力の衰退も懸念されている。GDPを見ると、2000年は世界第2位、2018年は3位だ。しかし、これを一人当たりの額で見ると2000年は2位(38,536 USドル)だが2018年には、26位(39,304 USドル)に落ち込んでいる。また、企業の価値を測る指標である株価の時価総額ランキングをみると、1989年には上位50社中、NTT(1位)や日本興行銀行(2位)、住友銀行(3位)など日本企業が32社入っていたが、2019年には43位のトヨタ自動車のみだ。

我が国は、優れた要素技術開発力がある。特にモノづくり産業の要となる多くの要素技術は日本製であるが、それらを使用し製品として世に送り出すことで生まれる最終価値は、外国製になることが多い[2]。ユーザーエクスペリエンスの発想の強化が望まれる。

日本の競争力が低下した原因の一つとして言われることが日本の「デジタル化の遅れ」だ。これは企業における対応の遅れのみならず、新型コロナウイルスの感染拡大の影響に対しての政府の対応においても指摘された。

しかし、政府も手をこまねいているわけではない。例えば2016年、政府が策定した「第5期科学技術基本計画」[3]で、これから目指す方向として提唱された「Society 5.0(ソサエティ5.0)」。企業や自治体、さまざまな集まりで耳にする機会も多いのではないだろうか。「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」[4]とされている。これまでの、情報を人間が解析し価値を生んでいた情報社会を4.0とし、Society5.0ではビッグデータをAIが解析し、その結果について対応も含めロボットなどの機器を介していくことで価値を生もうというものだ。

そして、経済が発展しもたらされる「寿命延伸、高齢化」「食料の需要増加」「エネルギーの需要増加」などの事象と、「温室効果ガス排出削減」「食料の増産やロスの削減」「社会コストの抑制」などの社会的課題の解決の両立を実現させようとしている。

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