実務家教員が担うべき実践的教育

昨今注目を集める「高等教育無償化」の対象校となるための認定機関要件の一つに、「実務経験のある教員等が一定以上配置されていること」という条件がある。今回はそこに焦点を当て、「質の高い教育」とは何か、加えて研究者教員と実務家教員の、現実を見る上での「視点の違い」について解説してみたい。

高等教育無償化と実務家教員

高等教育(主に大学)で注目されている政策は、「高等教育の修学支援新制度」であろう。馴染みのある言葉でいえば、「高等教育の無償化」である。この制度を活用するためには支援を受ける学生の基準に達することを求められることもさることながら、大学も「高等教育の無償化」の対象校(機関)として認定を受けなければならないのである。

その機関要件の一つに「実務経験のある教員等」が一定以上配置されていることが条件としてある。4年制大学の卒業要件は概ね124単位以上履修することであるが、その1割(13単位)以上を実務経験のある教員が担当することを求めている。すなわち、実務家教員の登用と活用が条件になっているといってよい。

そもそも、なぜ「高等教育の無償化」で実務家教員の登用が条件なのだろうか。文部科学省は「支援を受けた学生が大学等でしっかりと学んだ上で、社会で自立し活躍できるように、学問追求と実践的教育のバランスの取れた質の高い教育を実施する大学等を対象機関とするための要件を設定」としている。

つまり実務家教員を登用する理由は、「学問追求と実践的教育のバランスの取れた質の高い教育」を実現するためなのである。大学には、それぞれの専門分野で卓越した研究実績を積んだ研究者教員がいる。しかしながら、専門分野に長けた研究者教員だけで実践的な教育をすることは現実的ではない。「省察的実践」を提唱したことで知られるD・ショーンは、学問で評価される知とプロフェッショナル(専門的職業)で必要とされる知の溝を指摘している(D・ショーン『省察的実践とは何か――プロフェッショナルの行為と思考』2007年)。

実践的教育のゆくえ

このような溝は、当然といえば当然なのである。というのも、研究者教員は専門分野での専門的な知見から現実を考察するのに対して、実務家教員は実践的(課題解決思考的)な知見から現実を見るからである。そのような両者の視座に起因する実務家教員の役割は、この溝を埋めることではないだろうか。大学での専門分野(例えば社会学や生物学、物理学など)の知見を就職後に直接役立たせることは難しい。こうした専門分野の知見やものの見方をつかって、「どのように実践の現場で役立たせていくのか」という専門分野と実践の現場との繋ぎ合わせが求められているのである。実務家教員には、それぞれの実務領域があるはずだ。自分の実務領域で、どのように大学での専門分野を活かすことができるのかを学生に指導することが求められる。他方で自分の実務経験はどのように大学での専門分野とつながっているのか、自身の暗黙知を職業実践知にし、職業実践的な知を既存の専門分野へどのように組み合わせることができるのかということもまた、求められているといえよう。学問追求と実践的教育のバランスを取ることとは、学問的な知見とプロフェッショナル的な知見を架橋することから始めなければならないのである。その役割は、実務家教員の手に委ねられている。