「社会人の学び直し」だけではない、真のリカレント教育とは

前回は専門職教育と実務家教員の関係性について述べた。専門職教育の対象には、ストレート学生のほかに、自己研鑽のために、あるいはキャリアチェンジを志す社会人経験をもつ学生もいる。現在、教育のキーワードであるリカレント教育を踏まえて論じていく。

そもそもリカレント教育とは

リカレント教育は、教育に、あるいはキャリア形成に関心を持っている者であれば一度は聞いたことがある言葉であろう。リカレント教育を社会人の学び直しと理解している人も多い。実は、社会人の学び直しというのはリカレント教育の一側面に注目しているに過ぎない。

最近の言葉のように感じる「リカレント教育」であるが、実は1970年代にOECD(経済協力開発機構)のOERI(教育研究革新センター)が提唱した教育改革構想の一つである。簡単に定義をすれば、学校教育を終了した後も、社会人が生涯に渡り、大学等の教育機関に繰り返し戻り、教育を受けられるようにすることを意図した教育システムのことである。この用語自体は、教育制度改革の側面を帯びているため、用語が生まれた当初は広く浸透しなかった。

当時の文部省では、90年代に「リカレント教育」の下位概念として「リフレッシュ教育」を定義した。リフレッシュ教育は、大学や大学院で社会人が職業教育訓練を受けることを想定したものである。00年代初頭から検討されていた専門大学院、そして専門職大学院は少なからずリカレント教育やリフレッシュ教育の思想を受けている。

こうした社会的背景には、現代における知識やスキルの急速な陳腐化による絶えざるアップデートが社会人になっても必要であること、産業構造の急速な変化に対応する術を身につける必要性などをあげることができる。昨今では、人生100年時代や働き方改革などとあいまって、ますます学び直しの重要性は高まってきている。

リカレント教育とアンドラゴジー

このように考えると、社会人に対する教育の重要性がますます高まっていることがわかる。社会人に対する教育の担い手はさまざまに想定されるが、その一端は実務家教員が担っているといえる。というのも、実務をおこなう上での職業的な知識や技能を教育する役目を実務家教員が担っているからである。

こうした実務教育の対象となる社会人に対する教育は、ストレート学生の教育とは異なることを念頭にいれておくべきである。その大きな違いは、社会人学生の場合は自身のキャリア経験と照らし合わせながら学びを進めていく点である。そのほかにもいくつかの違いがある。すなわちリカレント教育という観点からすれば、ペタゴジー(pedagogy;教育学)の知見をそのまま実務家教員が活用するのは適切ではない(もちろん、ストレート学生には有効かもしれない)。成人、すなわち社会人経験をもった大人(adult)を対象にした教育学(pedagogy)の知見、アンドラゴジー(andragogy)が必要となるであろう。

アンドラゴジーの知見をもとに、専門職教育の見直し、そしてストレート学生との混成クラスの場合にいかなる指導法が必要であるのかを検討することが我々には求められる。さらには教育や指導設計までもが求められるのではないだろうか。リカレント教育の構想に基づいた教育プログラムを開発する能力をも実務家教員には求められるといえる。実務家教員は、実務経験を有していて、何を必要としているのかを最も熟知しているのだから。