5代目社長はデザイナー 老舗子供服のファミリア、脱アパレルへ

1950年に神戸で創業したファミリアは、ベビー・子ども服の世界で確たるブランド価値を持つ。創業者の坂野惇子氏はNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」のモデルにもなった。その孫にあたる5代目社長岡崎忠彦氏は、デザイン経営で同社を最先端の業態に生まれ変わらせようとしている。
文・矢島進二 日本デザイン振興会

2018年9月にオープンした神戸本店。ストアコンセプトは「COLORFUL 子どもの個性を豊かにはぐくむ。」

店内入ってすぐにある「成長の階段」。写真映えするオープンスペースで、常に家族連れでにぎわっている

5代目社長は現役のデザイナー

岡崎忠彦氏の名刺には、ファミリア代表取締役社長の肩書とともに、「クリエイティブディレクター」が併記されている。岡崎氏はカリフォルニアの美術大学でデザインを学び、その後もアメリカをベースに活躍するグラフィックデザイナー八木保氏の事務所で、10年以上デザイナーとして従事していた異色のキャリアの持ち主だ。

岡崎忠彦 ファミリア 代表取締役社長

2003年に日本に戻り、ファミリアにデザイナーとして入社。ところが、その5年後に社長の父親が急逝する。

「デザイナーとしてのキャリアしかなかったので、社内は不安だったはずです。社長に就任した2011年頃は、世の中の経済状況は悪く、当社の業績もひどい状態でもありましたので。ですが熟考の末、私にしかできない経営手法があるはずだし、思い切って過去から一旦リセットしようと考えました」

最近、企業経営陣にCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)のポストを設置する動きが急浮上しているが、同社は社長自身がCDOも兼ね、独自のデザイン手法でマネージメントの陣頭指揮をとり、老舗企業を最先端の業態にアップデートしている希有な企業だ。

新業態の象徴が、昨年9月にオープンした神戸本店だ。「当社は、創業自体が女性4人のママ友によるベンチャーなのです。私が社長となってまず取り組んだのは社内の意識改革で、創業時に立ち戻ることにしました。また当時から、服づくりだけにとどまらず、子どもを健やかに育てる育児全般に関わることを、事業ドメインとしていたことを思い出しました」

本物に触れる体感型新業態店舗

そのため企業理念を「子どもの可能性をクリエイトする」と再構築し、"for the first 1000days"をコンセプトとする体感型新業態ショップを構想した。「妊娠がわかってから、お子様が2歳のお誕生日を迎えるまでの1000日間を応援する業態を考えました。本当に必要で上質なもの、すなわち『本物』に触れてもらう。NHK連続テレビ小説のタイトル『べっぴん』は、『別品=特別な品』の意味ですが、当社のものづくり精神そのもので、それを気鋭のアーティストとコラボレーションして体現したのが、神戸本店なのです」

指名したアーティストは、いま最も注目を集めている現代美術家の名和晃平氏だ。面識はなかったが岡崎氏が直接会い、口説いた。指名した理由は「グローバルに通用する日本人アーティストのナンバーワンだから」という。

神戸本店は、大丸の南側にあるビルの1、2階で、延べ床面積は約2千平方メートルの規模だ。1階正面は、類を見ない巨大な階段スペースで、これは名和氏の提案によるもの。効率から考えればメイン売り場にするところを、敢えて潰して、パブリック要素がある空間とした。広場の装いのため、子どもたちは喜び勇んで走り回り、大人は記念撮影をしたり、お茶を飲みながら座って休憩することもあるという。

「この階段はローマにある『トレヴィの泉』のように神戸のシンボルになったら嬉しいです。『成長の階段』でもあり、一人で上り下りができなかった子が、次に来た時はできるようになり、また数カ月後は走って登れるようにもなる。『自分の力でできる』ことが体感できる場所なのです」

八木保、北川一成、鈴木マサル、清川あさみ、ニコライ・バーグマン、中塚翠涛、鹿児島睦などのアートワークがお客さんを出迎える

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