地方創生にスポーツの力を活かす

スポーツを上手に活用することによって、地域情報を内外に発信し、まちづくりや観光、健康の維持管理に活かす試みが全国で始まった。2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックによるスポーツへの関心の高まりを活かせるかが問われている。

特別セミナー「国際スポーツイベント等の開催を契機とした地方創生に向けて」より主催)日本スポーツコミッション/事業構想大学院大学 後援)スポーツ庁

 

9月30日、衆議院第二議員会館で、事業構想大学院大学と日本スポーツコミッション主催、スポーツ庁後援の特別セミナー「国際的スポーツイベント等の開催を契機とした地方創生に向けて」が開催された。

地方創生の鍵は、お金を落とす“生態系”づくり

セミナーは、平将明衆議院議員・前内閣府副大臣(地方創生担当)の来賓代表挨拶でスタートした。平議員は、地方に新たな需要や人の流れを生むには、観光、学校、新しい産業、新エネルギーなど、さまざまな方法がある中、「スポーツは非常に重要で、国も成長戦略として取り組んでいる」と話した。

平 将明
衆議院議員・前内閣府副大臣(地方創生担当)

さらに、スポーツを活用した地方創生では持続可能性が経済合理性となるため、「一過性のイベントで終わらせずに、持続可能性をどのように担保していくかということに尽きる」と言明。地方創生を成し遂げるには、「その地域のウリとなる価値の周りに人が介在してお金を落とす"生態系"を作ることが重要」と説いた。

ラグビーWCでは、世界各地からの観客が長期滞在

続いて基調講演が行われ、ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長代理の西阪昇氏と、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副事務総長の佐藤広氏が登壇した。

西阪氏は、2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップは、アジア初のワールドカップであり、ラグビー伝統国以外で初めて開催される大会でもあり、ラグビーセブンズが夏季オリンピック種目への採用後初めての大会であることから、「ラグビー史上、非常に重要な意義を持つ大会」として、これまでの大会以上に注目を集める可能性があることを示唆した。西阪氏によると、昨年のイングランド大会では250万人がスタジアムに足を運んだという。海外からの渡航客は46万人で、観光による経済効果は3700億円にのぼった。

ワールドカップでは原則各チーム1週間に1回試合を行い、7週間かけて48試合が行われる。各チームのサポーターは、開催国に長期滞在して、チームの試合を追いかけながら観光してまわる特性を持つという。西阪氏は「日本大会では海外からの渡航客40万人を目指したい」と考えており、「大会の開催都市や、40~50か所を予定しているキャンプ地にとって、この大会が日本の地方都市を世界に知ってもらう絶好の機会になる」と話した。

ラグビーワールドカップ組織委員会では、ラグビーワールドカップを一過性の大会で終わらせないように、ラグビー推進教育事業を展開。開催都市の教師を対象に、ラグビースピリットなどを学ぶセミナーを開催し、こどもたちへの浸透を図るほか、地元の良さを学んだこどもを"ラグビーこども交流大使"に認定して、2019年に向けたさまざまな活動を行っている。昨年は2500人の教員とこどもたちが活動に参加した。西阪氏は、「引き続き地方の方々と一緒に活動していきたい」と語った。

ラグビーワールドカップ2019組織委員会 西阪 昇・事務総長代理

日本の地域が世界の人々と結び付くというレガシー

一方、佐藤氏は、オリンピック・パラリンピックのロンドン大会の事例を紹介して、東京大会の規模感と地域創生に期待される効果について語った。ロンドンオリンピックには204の国と地域から1万500人の選手が、パラリンピックには164の国と地域から4237人の選手が参加。選手村には、オリンピックでは関係役員や団体を含む約1万6千人が、パラリンピックでは7000人が滞在した。ロンドンオリンピック・パラリンピックの観客数は約2000万人で、チケット販売数はオリンピックが880万枚、パラリンピックが250万枚を売り上げた。

東京オリンピック・パラリンピックでは、大会期間中の観光客数を810万人と予想。チケット販売枚数は1000万枚を目標に、1000億円の収入をめざす。ロンドン大会による新しい経済取引の総額は2.2兆円。東京大会では3兆円の経済効果を見込んでいる。このような世界最大規模のスポーツイベントを行った後、どのようなレガシーを日本に残すことができるのか。

佐藤氏は、「将来につながるレガシーを5つの分野に分けて専門委員会を立ち上げて検討してきた」と話した。5つの分野とは、(1)スポーツ・健康、(2)街づくり・持続可能性、(3)文化・教育、(4)経済・テクノロジー、(5)復興・オールジャパン。

専門委員会では、経済界や自治体などの関係ステークホルダーと、どのような事業が可能か議論を行い、各分野の現状と課題、2020年の大会終了後を見据えて何を残していくべきか、そのためには何をすべきか、それらを一覧化した「アクション&レガシープラン2016」をまとめた。同プランは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のWebサイトで閲覧できる。佐藤氏は「ぜひご覧いただいて、事業発想のヒントにしてもらえるとありがたい」と話した。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 佐藤 広・副事務総長

また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、10月1日、「東京2020参画プログラム」をスタートした。事業内容はスポーツだけでなく、文化芸術や地域における世代を越えた活動、被災地への支援など、前述の5つの分野・8区分で認定を行う。自治体やスポンサー企業が行う事業は「公認プログラム」として認定され、NPOなど非営利団体の事業は「応援プログラム」として認定する。

参画プログラムには認定マークの使用を許可して、全国の活動に統一感を持たせて東京オリンピック・パラリンピックを盛り上げていく。10月1日から認定を開始した公認プログラムは約200事業の応募を受け、60事業を認定。応援プログラムの認定は2017年4月にスタートする予定だ。さらに、「事前キャンプや練習施設に選ばれた地域は、海外の人々と地域のつながりが深くなり、関係性がレガシーとして残る大きなきっかけになる」と、佐藤氏。ロンドン大会では93の国と地域が事前キャンプを実施した。

日本は地理的に欧米から距離があるため、事前キャンプを行う国や地域が増える可能性があるという。現在登録されている日本の事前キャンプ地は151件で、練習用施設は286件。委員会では、この情報を世界に向けて発信しており、第2版を今年12月に、第3版を来年4月に発信する予定。佐藤氏は、「ぜひ、積極的に参加をしてもらい、たくさんの日本の地域が世界の人々と結び付いてほしい」と語った。

基調講演に続き、静岡県文化・観光部スポーツ局長・鈴木茂樹氏、山口県長門市市長・大西倉夫氏、出雲アイランドフレンドシップクラブ事務局長・白枝淳一氏が、スポーツを活用した地域創生の事例を紹介して(囲み記事参照)、セミナーの前半は終了した。

事例1

静岡県 文化・観光部スポーツ局長
鈴木 茂樹 氏

静岡県は、ラグビーワールドカップ2019の開催地のひとつであり、2020年の東京オリンピックでは伊豆市のサイクルスポーツセンターでサイクルレースが行われる予定。

静岡県ではこの2大イベントを機に、伊豆半島がサイクルスポーツの聖地となるよう整備を進めている。風光明媚な海岸線に自転車道を整備。さらに伊豆半島から浜名湖周辺までエリアを拡大して、自転車と船や鉄道、あるいはシーカヤックやトレッキングなど、自転車以外のスポーツと組み合わせたスポーツツーリズムを開発して、地域経済の活性化を推進している。

また、サイクリストを温かく迎え入れる地域ボランティアネットワークを育成し、サイクルスポーツの国際大会誘致を行い、活動の持続性につないでいく計画だ。「伊豆半島はアジアを代表する自転車競技の開催地をめざす」という共通認識のもとで、官民が一体となって活動している。

 

事例2

山口県長門市 市長
大西 倉夫 氏

ラグビーワールドカップ2019のキャンプ候補地に認定された長門市では、ラグビーによる地方創生に取り組んでいる。

市内の全小中学校ではラグビーの競技大会を実施。中学校では、放課後にラグビー教室を開催するなど、ラグビーの普及・定着に向けた取り組みを行っている。

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