土不要の次世代農業が砂漠で進む

ドバイから車で1時間半の砂漠地帯に並ぶグリーンハウス。そこで栽培される糖度の高い高品質トマトは、水耕でも土耕でもない、土いらずの最先端農法で作られている。カギは「膜」―。

砂漠地帯に人気のトマト農園誕生

アイメック農法と名付けられた画期的な農業が、いま世界中から脚光を浴びている。開発したのは、早稲田大学理工学術院総合研究所の森有一工学博士。95年に早大発ベンチャー「メビオール」を設立し、土の代わりに特殊なフィルムを使用する植物栽培システム「アイメック農法」を確立させた。

この仕組みは、保水力のあるゲルのフィルム上で植物を栽培すると、フィルム内にある水と養分を吸収しようとして植物は膨大な数の毛根を発生させ、フィルム表面に張り付く。その過程で、養液の吸収を高めるために、植物は糖分とアミノ酸などを大量に作り、高糖度で高品質な作物に成長する。水の使用が抑えられる農法なので、上述した中東のような砂漠地域など水資源の乏しい地域での農業生産が容易となる。

また、まったく土を必要としないため、塩害による砂漠化や残留農薬汚染といった土の劣化や土不足といった深刻化の一途をたどる課題解決にもつながると期待されている。

開発者の森氏は、大手化学メーカーの東レや米国W・R・グレース社などで人工血管といった高分子技術を使ったメディカル・プラスチックの開発に数十年取り組んできた。

早稲田大学 理工学術院総合研究科
森 有一工学博士
「日本の工業を良くするより、日本の農業を良くする方が簡単。まだまだ伸び代があるから」

「当時、膜の分離技術は日本が世界を席巻していました。医療分野以外にも、環境分野やエネルギー分野など様々な工業において技術開発が進められてきました。ところが、農業分野だけは誰も着手しておらず、まったくの空白地帯。ちょうど、地球環境や食糧問題が叫ばれている時でもあり、メディカル・プラスチックという日本が得意とする膜技術を植物分野に応用してはどうだろうかというコンセプトで始めたのが開発のきっかけです」

試行錯誤を繰り返すこと20年余り。世界初となるアグリ・プラスチック農法の誕生は、森氏率いるベンチャー会社にとって貴重な財産だ。農業技術がインフラとして重要視される新興国を中心に特許戦略を打ち立て現在、127か国の特許申請を行い、70ヵ国で成立している。

簡単な農業スキルで異業種参入促す

さらに、アイメック農法は、農家の高齢化や担い手不足、小規模農家経営といった問題を解消する切り札として、国内においても広まりを見せ始めた。

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