ドイツ・地域の脱炭素 エネルギー事業のビジネスモデルが変わる

脱炭素社会の実現に向けて、ドイツでは電力供給に関するデジタル化を促進し、風力や太陽光などの再生可能エネルギー源による電力を、安定供給に活かす取り組みが進められている。これに伴い、新たなビジネスモデルも増加している。

西村 健佑(Umwerlin 代表)

地域のエネルギー供給で
中心となる都市公社

ドイツでは1990年代以降、「電力供給法」や「再生可能エネルギー法」が制定され、再生可能エネルギー源による電力の買い取りが義務づけられた。これに伴い、脱炭素に向けたビジネスは地域のエネルギー利用と紐づける形で発展してきた。その中心的な役割を果たしてきたのは、地方自治体が出資する都市公社・シュタットヴェルケ(Stadtwerke)だ。

「日本には地方公共団体が出資する『自治体新電力』がありますが、ドイツのシュタットヴェルケは、より広範囲なビジネスを展開しています。電力の小売、配電事業のほか、発電事業を行うところもあります。他には、ガスの小売や調達、熱に関する事業や、都市公社と民間で出資し合う再生可能エネルギーへの投資もあります」

ドイツ在住・エネルギーコンサルタントの西村健佑氏は、こう語る。これらのビジネスは、再生可能エネルギー源の電力を国が定めた価格で買い取る〈固定価格買取制度(FIT)〉や、市場価格にプレミアムを上乗せする〈市場プレミアム制度(MP)〉によって、確実なリターンを見込めるものとなった。このため、シュタットヴェルケや自治体、市民らが出資する協同組合が、再生可能エネルギーの普及拡大で重要な役割を果たしてきた。連邦制のドイツではエネルギーに関する法体系が州ごとに異なり、地域の事情に合ったボトムアップ型の制度設計も進められてきた。

一方、脱炭素に向けて、再生可能エネルギー促進とあわせて重要になるのが省エネだ。

「ドイツを含む欧州では、法律で省エネ建築が義務づけられています。ドイツでは冬場の暖房は欠かせませんが、将来的には断熱性能が高い建物が増え、暖房用のエネルギーもあまり必要なくなる見込みです。そうなれば、従来のように電気やガスが売れるという発想は難しくなります」

電力クラウドやバーチャル
発電所、地産地消の促進も

このような背景から、ドイツのエネルギー業界では近年、新たなモデルによるビジネスが急増している。その中には、エネルギーコスト最適化へのアドバイスを行う事業や、家庭の電気や熱にかかわる設備を一括して管理する事業などがある。太陽光発電や蓄電池を持つ家庭では、それらの管理を事業者に任せれば、自らメンテナンスをせずに太陽光発電の電力が使える。

「ドイツの戸建て住宅に設置されている太陽光発電は10kW程度、蓄電池は7kWh程度が平均的なサイズです。その場合、日射量が多い南ドイツの家庭でも電力の自給率は70%程度にとどまり、残る30%程度は外から買う必要があります。そこで電力の小売会社がその30%を提供するだけでなく、太陽光と蓄電池の管理やメンテナンスもすべて請け負うといったビジネスが増えています」

このようなビジネスモデルの変化に伴い、家庭の太陽光発電や蓄電池が果たす役割も変化している。

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