洋上風力発電の経済波及効果 地元からの出資がポイント

国内でも2040年までに3000万キロワット超の設備容量が目標とされる洋上風力発電。脱炭素社会の決め手として期待されるが、発電所の設置には地元住民の理解が不可欠だ。風車の足元の地域が得られる、経済的なメリットを算出、それを増やす工夫を考える必要がある。

政府は2020年12月、脱炭素社会を実現するための強力な手段として洋上風力発電を拡充する方針を打ち出した。現在、5基1.4万キロワットほどにとどまっている国内の設備容量を、2040年までに3000万~4500万キロワットに増やすという。これは、火力発電所30~45基程度に相当する。既に秋田県、千葉県、長崎県の海上にある5区域が、政府により「促進区域」に指定され、洋上風力発電を進めていくことになっている。これに先立ち、2019年4月に施行された海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)が、洋上風力発電の整備を後押ししている。

数字で分析する、洋上風力発電所が
地元市町村に与えるメリット

洋上風力発電は部品の数が数万点と多く、設置後のメンテナンスを含め関連産業が多い。今後、国内に大量の風車を設置することになれば、新しい成長産業として期待できる。一方で、洋上風力発電所が身近にできることへのメリットは分かりにくい。促進区域に指定されたが、住民の反対運動が起きている地域もある。

京都大学経済研究所先端政策分析研究センター研究員の山東晃大氏は、地熱発電と洋上風力発電が地域経済に与える影響を推定する方法について研究し、このほどその成果をまとめた。山東氏はこれまで、長崎県を中心に再生可能エネルギー発電の実証試験や導入に従事してきた。長崎県は洋上風力発電の促進区域を擁し、豊富な温泉は地熱発電に向いている。しかし、自然条件はそろっていても、地元の人の理解を得ることは簡単ではないという経験をもとに、このテーマを選んだ。研究の狙いについて、「地熱・洋上風力発電が地域に与える経済的なメリットを、市町村単位で明らかにして、地域の人や自治体の判断の材料にしたいと考えました」と語る。

山東 晃大 京都大学経済研究所先端政策分析研究センター研究員

これまで、地域経済への影響を分析するために用いられてきた産業連関分析の手法では、都道府県・政令指定都市単位での経済効果しか把握できない。そこで山東氏は、ドイツのエコロジー経済研究所で考案されたモデルをベースに、日本の洋上風力発電・地熱発電の地域における経済効果を分析できる地域経済付加価値分析を作成した。再エネ事業に特化し、対象地域に関連する付加価値のみを抽出することで、より狭い地域への経済的な影響を調べられる。この手法における分析で重要なのは、様々なパターンで「将来」を考えるヒントになることだ。

「例えば、同じ洋上風力発電でも、域外資本のみの場合と、地元資本が入った場合で、どれだけの違いが出るのかを算出できます」と山東氏はいう。

もちろん、洋上風力に関連する様々な事業を、なるべく地元で担うほうが、経済波及効果は大きくなる。風車の設置に必要な土木・建築関連の人、資材とそのための輸送手段から、工事関係者の生活を支える小売・宿泊まで、建築時に地元が得られる経済効果は明らかだ。さらに、洋上風力の運営にかかわる継続的な仕事を、地元で請け負えるようにすれば、そこでも地域にお金が落ちる。また洋上の風車が漁礁の役割を果たし、沿岸漁業に良い影響を与えるかもしれない。

海上に施設があるため、風車の定期的な保守や、急な故障の際には、船を出して技術員を送迎しなければならない点が洋上風力発電の特徴といえる。そこで、地元の漁船を活用できれば、発電事業者と漁民が相互に利益が得られる可能性がある。実証実験を経て、洋上風力発電所の商用運転が始まっている銚子市では、2020年夏、市と漁業協同組合、商工会議所が共同で、洋上風力発電施設の運転管理やメンテナンスを担う企業を設立した。発電事業者と組んで、経済波及効果を長期間にわたって地域に還元させるための取組だ。

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