カーボンプライシング 新たな経済合理性で生まれる事業機会

2050年のカーボンニュートラルに向けた政策として検討が進むカーボンプライシング。炭素税や排出権取引など、CO2の排出や削減が経済合理性の中に組み込まれることで、どのような新事業が生まれるのか。経産省の研究会で座長を務める大橋弘氏に、社会制度のあり方とともに聞いた。

大橋 弘(東京大学公共政策大学院 院長)

地球全体の脱炭素に向けた
視点が重要

アメリカで政権交代が起こり、パリ協定への復帰や環境政策の転換が進む。EUでもカーボンプライシングの導入が議論されており、国際政治の場では気候変動対策が十分でない国からの輸入品に課税を行う国境調整措置に関する議論が始まっている。

今年2月に第1回が開催された経済産業省の『世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会』で座長を務める大橋氏は、こうした国際情勢も踏まえ、日本としてどのようなスタンスを示していくかが重要だと語る。

「地球温暖化は世界規模の問題です。日本の温室効果ガス排出量は世界全体の3~4%に過ぎません。仮に50%減らしても世界全体で見れば1.5%減でしかなく、国内の排出のことだけ考えていては本質的な問題の解決につながりません。世界全体でいかに整合的に解決していくか、地球全体の問題に日本としてどうかかわるかという観点での議論が必要だと考えています」

今後研究会で議論を深め、国としてのスタンスが示されることで、日本企業がどう脱炭素に取り組むべきかも一層明確になってくるだろう。

脱炭素関連政策の"束ね直し"を

日本では以前から省エネや再エネ普及などの政策を通じてCO2排出削減を後押ししてきた。脱炭素を目指す中で、社会制度や市場はどのような姿になるのだろうか。

「省エネに関する政策は1970年代のオイルショックの経験から、そして再エネ賦課金制度は東日本大震災における大規模電源喪失を受けた分散型電源の推進という観点が起源で、それぞれの制度に由来があります。省エネや再エネ導入への取り組みに対して補助を出すという政策ですが、やる気のある人だけがやるということではカーボンニュートラルになりません。また、異なる経緯で始まった制度が複数あることで、CO2を出さないことに補助金を出しながら、他方でCO2を出すことに課税をするという、整合性を欠いたいびつな構造にもなりかねず、政策をカーボンニュートラルに向けて、束ね直す時期に来ているといえます」

カーボンプライシングはCO2排出に対して税や排出権購入という負担を課す仕組みだが、大橋氏は一律に負担を課す仕組みは適切でないと指摘する。

「カーボンプライシングは、CO2排出に対して代替的な手段がある者の後押しをする政策であるべきです。現状の産業構造・技術的限界からCO2を排出せざるを得ない領域もあるわけで、こうした領域に対しては20~30年のスパンで技術革新を促しながら転換を図っていくような、包摂的な政策を構築しなければなりません」

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