2021年5月号

コロナ禍と文化芸術活動

芸術の収益強化を議論 凸版印刷×美術手帖「サバイブのむすびめ」

田尾 圭一郎(美術手帖)、青山 忠靖(事業構想大学院大学特任教授)

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コロナ禍で多くの文化芸術団体が苦境に立つ中で、文化芸術活動の収益力強化について議論しノウハウを共有する場「サバイブのむすびめ」が凸版印刷と美術手帖の協働で開催された。幅広い文化芸術団体の取り組みから見えてきた、収益力強化のポイントとは。

「サバイブのむすびめ」メインビジュアル

新型コロナウイルス感染症の拡大は、文化芸術団体に多大な影響を与えた。外出自粛に伴う公演中止や感染予防のための座席数削減、チケット販売の減少などで、少なくない数の文化芸術団体が存続の危機にさらされている。

文化芸術はどうすれば生き残れるのか、コロナ禍やニューノーマルに対応するための新しいチャレンジや、強固な収益基盤づくりをどのように進めれば良いのか――。「サバイブのむすびめ」は、様々な文化芸術団体の収益力強化に向けた取り組みやノウハウを共有することを目的に開催されたプロジェクトだ。

本プロジェクトは、文化庁委託事業「文化芸術収益力強化事業」の10ある事務局の1つに採択された凸版印刷の「デジタル技術を活用した映像配信による新たな収益基盤の確保・強化」の一環として、美術専門誌『美術手帖』などを発行する美術出版社との協働で行われた。『美術手帖』ビジネス・ソリューションプロデューサーの田尾圭一郎氏と事業構想大学院大学の青山忠靖特任教授をナビゲーターに、幅広いジャンルの文化芸術団体関係者をゲストに招き(表)、1~2月に5回のトークイベントが開催された。

表 「サバイブのむすびめ」ゲスト一覧

 

トークイベントのオンライン配信も行われ、文化芸術関係者らが数多く聴講した

既存対象層の深堀りも重要に

2月末に開催された6回目のイベントでは、過去5回を総括し、文化芸術の収益力強化のポイントについて田尾氏と青山教授が議論した。

青山教授が指摘したポイントは「既存対象層の明確化と拡張化」「パートナーの選別と価値提供のデザイン化」「収益構造の構築」の3点だ。

「各団体は、デジタルなどを活用して若者などの新しい対象層を開拓しようとしていました。これは確かに重要ですが、大きな労力もかかります。むしろ、既存対象層をもっと深堀りして、今まで見えていなかったニーズを発掘し、拡張することが重要ではないでしょうか」と青山教授は語る。

新しいニーズや芸術の価値を発見できれば、次はパートナー選びが重要になる。「新しいニーズを満たすためには、団体や流派の内部資源だけでは手に負えないはずです。パートナーを選定し、どうやって価値を伝えるかを共にデザインしなければなりません」。日本フィルハーモニー交響楽団が、メディアアーティストの落合陽一氏やビジュアルデザインスタジオWOWとコラボレーションし、新しいデジタル鑑賞体験の創造に取り組んだことがその好例だろう。

その後の収益構造の構築では、「とにかく思い切ったビジネスモデルをつくることが大切」と青山教授は強調する。一例として、クラシック音楽であれば富裕層をターゲットにオンライン配信のためのインターフェイスや波動音響システムを販売する、音のマエストロと味のマエストロの競演として、一流レストランのシェフと組んで公演のデジタル配信と共にフルコースをUberEATSで宅配する、といった青山教授のアイデアも提案された。文化芸術を楽しむためのインフラや新しいシーンをデザインすることも、収益力強化に向けた重要なポイントと言えそうだ。

ナビゲーターを務めた『美術手帖』ビジネス・ソリューションプロデューサーの田尾圭一郎氏(左)と事業構想大学院大学の青山忠靖特任教授(右)

コロナ禍の先を見据え、
より良い"復興"へ

一方、田尾氏は「レジリエンス」ディスタンス」「ビルドバック・ベター」という3つの収益力強化のポイントを挙げる。

「大変な苦境の中でも、各文化芸術団体の皆さんは、表現の継続や収益力強化に非常に前向きに取り組んでいる印象を受けました。また、能楽協会の山井理事の『700年続いてきた能楽を我々の時代に終わらせるわけにはいかない』という言葉に、前向きさの背後にある覚悟を感じました。そういう意味でレジリエンス(回復力)を持つことの重要性を痛感しました」

ディスタンスとは、ソーシャルディスタンスならぬ"クリエイティブディスタンス"を指すという。「収益力強化だけにフォーカスしてしまうと、今まで大切にしてきた表現性や歴史がないがしろにされるリスクもあります。ゲストの方々は、自分たちの大切な表現は変えず、異分野と組んで収益力を高めており、非常に棲み分けが上手いと感じました。青山先生の指摘するパートナーの選別と似ていますね」

ビルドバック・ベターは「より良い復興」という意味で、災害前と同じ状態に復旧するのではなく、次の災害に備えてより良い地域や社会をつくろうという考え方だ。「文化芸術にも共通すると思います。例えば日本芸術文化振興会はこれまでアーカイブしていた人形浄瑠璃公演の映像を翻訳し、海外配信するなどの新しい試みをコロナ禍でスピーディーに進めていましたが、これはコロナ禍が収束しても継続できるはずです」

文化芸術団体と企業の連携を

「サバイブのむすびめ」は各文化芸術団体のノウハウ共有だけでなく、今まで交流が少なかった団体同士が交わるプラットフォームとしても機能した。青山教授は「例えば『サバイブのむすびめ』という期間限定のオンライン展示場・劇場をつくり、各団体が提供するコンテンツの閲覧や、Eコマースでグッズが買えるような仕組みがあれば、社会の関心をより文化芸術に惹きつけることができるのでは」とプロジェクトの発展に期待を寄せる。

また、青山教授は「現代の企業には社会イノベーションの推進、つまり事業を通じて社会に暮らす人々の生活に好ましい変化を与えることが求められています。その意味で、アートとビジネスは社会を更新させていく文脈で互いに近づいてきています」と述べ、企業と文化芸術団体の連携の重要性を指摘した。

田尾氏も「収益力強化を短期的に目指すのではなく、社会にとってより良いものを提供するという目線が、巡り巡って文化芸術の収益力に繋がってくると思います」と同意する。

文化芸術をサバイブさせ、次代へ繋いでいくために、「サバイブのむすびめ」から生まれた知見やネットワークが活かされることを期待したい。

「サバイブのむすびめ」HP  

 

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