社会課題を解決するための投資~スタートアップ企業におけるESG投資

コロナ禍で変わる社会

コロナ禍で世界が多大な影響を受けた2020年。人々の活動が制御され、その影響を受け経済活動も大きく停滞した。国際通貨基金(IMF)は6月の改定版世界経済見通しで、2020年の成長率をマイナス4.9%と予測し、4月時点から1.9ポイントさらに下方修正している。

外出や会合などの行動が制御されるなか、業績を伸ばしている企業もある。

その1つエムスリーは、2000年に設立された医薬品、疾病、治療などの医療情報を扱う企業だ。参入障壁が高いと言われる医療業界において、これまでMR(医療情報担当者)が担っていたような、医薬品情報を医薬品企業から医師へ、逆に医療現場のニーズを医薬品企業へフィードバックするといった、情報のつなぎ役をインターネットを介し行う。さらに、医師間の情報交換、医師や薬剤師の転職支援など、医療に関わる情報流通を担い、医師、医療関係者を会員とする専門性の高いサイトを運営することで、国内屈指の医療従事者向け情報サイトとなっている。ここで注目される、デジタル化され人が介在しない双方向の情報流通は、ポストコロナの世界でこれからも発展していくだろう。しかし、実社会における双方向の成立は時間がかかる。

各国が経済的なダメージからの復興に向けて企業支援をしている中で、前の連載でも紹介されたESG投資が注目されている。経済復興について、海外では欧州を中心にE(環境)に関する政府の支援の1つ、気候変動対策としてグリーンリカバリーの事例も多い。グリーンリカバリーは、この機会に環境や社会を考慮した経済への転換を目指す動きであり、それによって脱炭素社会を実現しレジリエンスな社会をつくろうとしている。フランス政府はエールフランスを支援するにあたり、グリーンリカバリーに通じる環境に配慮した条件づけを要求した。カナダ政府は、企業に対して気候変動リスクを情報開示することを支援条件に入れている。

日本では、菅義偉首相が2020年10月、2050年までに温室効果ガス排出量ゼロの目標を宣言した。気候変動対策を求める世界的な流れのなかで、国内の企業もエネルギーや物流・交通手段など、大きな転換が迫られることになる。

企業が持続可能な社会づくりにどれだけ貢献しているかを、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス=企業統治)の観点から評価したものがESGスコアだ。

企業のグリーンファイナンスへの要求の高まりを背景に、ESG投資の市場は飛躍的に拡大しており、持続可能なエネルギーシステムへの移行に必要な資本を得るために、ESG投資を通じた資本の活用が期待されている。新型コロナウイルス感染の急な拡大によってもたらされた金融危機の時期に焦点を当て、ESG投資と企業価値についての分析を行った結果は、コロナ禍によって引き起こされた経済危機の中で、ESGスコア、特にEスコアの上昇は、リターンの向上と値動き(ボランティリティ)の低下につながる。一方、GCスコアの増加は、株式リターンの低下とボラティリティの上昇と相関していることが分かった。また、リターンの低いグループに属する企業は、リターンの高いグループに属する企業よりもESGスコアの増加の恩恵を受けることがわかった。エネルギーに焦点を当てさらに追加分析すると、非エネルギー部門は、株式リターンとボラティリティの両方の面で E スコアを向上させた方が恩恵を受けるが、エネルギー部門の企業は E スコアを向上させることで株価のボラティリティを低下させることができることが示された。[1]

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