実務経験・能力と教育指導力が必須 実務家教員に研究能力は必要か
法令上にみる実務家教員の能力
筆者は実務家教員に必要とされる能力は、実務経験・実務能力、教育指導力、そして研究能力であると主張している。法令など制度の観点から厳密にいえば、研究能力はすべての実務家教員に求めているわけではない。
実務家教員についての定義が明示化された「専門職大学院設置基準」によれば、「担当する専門分野に関し高度の教育上の指導能力がある」と認められたもので、「専攻分野における実務の経験を有し、かつ、高度の実務の能力を有する」者と定義されている(第5条)。さらに実務の経験については、「専門職大学院に関し必要な事項について定める件(平成15年文部科学省告示第53号)」に「専攻分野におけるおおむね五年以上の実務の経験を有し、かつ、高度の実務の能力を有する」とされている(第2条)。このように専門職大学院では、教育研究上望ましいかどうかは別として実務家教員の研究能力については明文化されていない。
専門職大学ではどうだろうか。「専門職大学設置基準」を紐解いてみると、「実務の経験等を有する専任教員」(第36条)という条項のなかに、「おおむね四割以上は、専攻分野におけるおおむね五年以上の実務の経験を有し、かつ、高度の実務の能力を有する者」でなければならないとしている。ここでも研究能力に関する言及はみられないように見える。しかし、つづく2項に実務の経験等を有する専任教員のうち実務家教員の二分の一以上は、いわゆる研究能力を有する実務家教員である必要があると明記されている。具体的には、①大学における教歴がある者、②博士、修士あるいは専門職学位を有する者、③企業等に在職し、実務に係る研究実績を有する者、とされている。専門職大学で研究能力を有する実務家教員の定義なるものが記されている。
ここで主張したいのは、次の2点である。
まず、法令上は必ずしも実務家教員に研究能力を求めているわけではないということである。研究能力に言及した専門職大学設置基準であっても実務家教員に研究能力を必須としているのではなく、必要な実務家教員数の半数以上としている。したがって、実務家教員に必要な最低限の能力は、実務経験・実務能力と教育指導力ということになる。次に、法令上は必ずしも研究能力を求めていないにせよ実務家教員には研究能力が必要であると主張したい。
実務家教員に研究能力が必要であるというのは、次の3点の理由からである。①実務家教員が担う役割から必要、②実務家教員のキャリアパスとして、実務家教員から研究者教員へのキャリアシフトの可能性から、③やや戦略的になるが、今後実務家教員が増えていくとしたら、みずからの実務家教員のプレゼンスを高めるものとして研究能力はないよりあった方がよい、ということである。
それぞれこのあと詳しく考えていくことになるが、そもそも実務家教員の研究能力とは何かということが問題となる。