ポストコロナの資本主義 テクノロジー活用、共感が循環する社会へ

ESGやSDGsの台頭に見られるように、従来見過ごされてきた社会価値が再評価されつつある。コロナにより経済・社会のあり方が見直される今、この流れはより強まっている。"共感資本社会"の実現を目指す新井和宏氏が見据える、コロナ後の社会像とは。

"市場の見えざる手"の背景にある
"共感"に光を当てる

「新型コロナの対策ではテクノロジーが力を持っている。問題はテクノロジーを全体主義の道具とするか、利他的かつ他者と共感する手段とすべきかだ。私が答える『明日の民主主義』は後者だ」(コロナと世界(1) テクノロジーが権力に、仏経済学者 ジャック・アタリ氏 日本経済新聞、2020/4/9)

コロナ禍以前の世界は、移民や難民の問題がクローズアップされ、人々は不安を抱いて国境を閉じ、ヒトとモノの移動を制限する保護主義への道を進んでいるように見えた。そこからさらにコロナ禍は、移民や難民だけでなく、ビジネスマンや旅行者ですら移動を制限し、(資本主義の)経済活動そのものにストップをかけている。

私が2018年に設立したeumo(ユーモ)は「共感資本社会の実現」を掲げている。共感資本社会とは、共感という見えない、貨幣換算できない価値を大切に育み、それを基礎(資本)として活動していける社会だ。しかし、別に私が新しく言い始めたわけではない。アダム・スミスのころから変わらないのだ。

アダム・スミス研究の第一人者で、2019年に紫綬褒章を受賞した大阪大学の堂目卓生教授は、昨年末発行のダイヤモンド社の雑誌で「共感資本社主義の時代」というインタビューに答えている。

「スミスは、(編集部注・『道徳感情論』において)行動の動機は感情にあると考え、共感が市場経済を機能させる一条件であると見る。(中略)人間が本来持っている共感の能力をてこにして、経済活動を通じて人と人のつながりを強めていく。そうして人々の幸福の増大に寄与していく――。それが共感資本主義です」

資本主義は、スミスの『国富論』で述べられた「見えざる手」のみを解釈し、市場の原理を優先し、効率を求めた。しかし、トリクルダウンは起こらず、格差は広がるばかり。26人の富と38億人の富が等しくなった。アダム・スミスのころから本質は変わらない。『国富論』の前に『道徳感情論』があり、経済の前に共感が必要であるということだ。唯一変わったことは、テクノロジーが進化し、共感や利他をサポートしてくれる時代になったのだ。共感が集まって資本となり、循環する世界へと導いてくれる。

テクノロジーで実現する、
"共感資本"

共感が資本になる社会とはどんな社会なのか。一番わかりやすい例でいえば、クラウドファンディングに表れている。ひと昔前の起業は、家族や知人からお金を借りてスタートしていたが、今は共感でお金が集まる。今回のコロナ禍でも、自粛を要請された多くの経営者たちが、共感のネットワークで救われている。しかし、疑問が残る。共感だけでは、経済は回らない。一方的に支援をし続けることはできないからだ。共感が資本となり、循環する世界に向けてeumoでは、実証実験のフェーズを完了し、2020年6月に共感コミュニティ通貨の提供を開始する。貨幣が持つ本源的機能である「価値貯蔵機能」は格差を生むことから、それを手放し、お金に期限を持たせコミュニティごとの信頼と共感で循環させることに特化させる。何も法定通貨にとって代わる必要があるわけではない。生活の一部に共感コミュニティ通貨が使われていけば、目に見えない大切な価値を育みながら、結果的に格差が縮まる可能性が高まる。テクノロジーによって、共感が循環する社会はもうすぐだ。

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