3Dプリンタ、デジタルものづくりの夜明け コロナ危機がもたらす

世界のサプライチェーンは、コロナウイルス感染症の直撃を受け、医療・介護現場の必需品の供給も止まった。そこで注目されたのが、世界中でデータを共有し、3Dプリンタを使って供給する取り組み。コロナ危機をきっかけに、新しい製造業が勃興しつつある。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、製造・物流の現場が打撃を受けている。国境を越えて届くはずの素材が届かない、生産しても輸送できないといった事態が生じ、これまで容易に買えた品物が手に入らない事態になった。とりわけ深刻なのが、医療用の防護資材だ。医療用マスクやフェイスシールド、使い捨てガウンの不足から、院内感染が深刻化する国も出てきた。

そこで注目を集めたのが、必要とされる現場の近くで製品を製造できる3Dプリンタ。低価格の製品が広く出回るようになったことから、多くの家庭や企業が3Dプリンタを購入し、ホビーから業務用まで様々な工作で使われるようになっている。これを活用し、フェイスシールドを作る取り組みが世界的に拡がった。

3Dプリンタメーカーのエス.ラボが製造したフェイスシールド。他にも多くのメーカーが製品供給を開始している

「現在は3Dプリンタで使えるフェイスシールド用の無料の三次元データが、インターネット上で大量に公開されています。一個人が作ったデータもあれば、大企業が作ったものもあります。データを共有し、現場の近くで生産する動きは、コロナ危機後も続く新しいモデルとなるはずです」。

田中浩也(たなか ひろや)慶應義塾大学環境情報学部教授

慶應義塾大学環境情報学部教授の田中浩也氏は、こう予測する。新型コロナウイルスの影響によって、分散型の3Dプリンタのネットワークを活かし、適切な場所で適量を作り、適切な人に届ける活動が各地で生まれた。このような製造プロセスは今後、製造業の一角を占めるスタンダードになる可能性がある。

「コロナ危機はある意味で、技術の可能性が社会に可視化される機会になったと思います。ものを作る際、3Dプリンタなら、データさえあればすぐ作り始めることができ、かかる費用はわずかです。緊急事態に強いしくみと言えます」。

今、3Dプリンタが製造業の現場で広く受け入れられる2つの条件が既に整いつつある。1つは、製造業のリショアリング。コロナ禍のために、必需品や戦略製品を国内で生産する必要性が生じ、海外にオフショアされていた工場を国内に戻す動きが既に起きている。企業のグローバル・サプライチェーンのリスクが可視化され、今後はさらにリショアリングが進むと予想される。政府もこれを後押しし、サプライチェーン改革への費用として緊急経済対策に約2400億円を盛り込んだ。

サプライチェーン改革では、人件費の削減や緊急時に対応可能な新製品の開発体制も課題となる。そのような中、低コスト・短時間で新製品の開発が可能になる3Dプリンタへのニーズはさらに高まるとみられる。

2つ目は、3Dプリンタの性能の向上だ。3Dプリンタで製造できるものは、従来はいわゆる「試作品」だけだった。最終製品を作るためには、強度や安全性、生体適合性などの面で厳しい基準を満たす必要があり、これを満たせる状況になかった。しかし、2016年以降は材料メーカーとの協力で、最終製品の基準も満たせるレベルが実現した。

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