2020年7月号
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コロナ後の推測

SDG 3から考える コロナ共生社会のニューノーマル

杉下 智彦(東京女子医科大学 国際環境・熱帯医学講座 教授)

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世界規模でのCOVID-19の感染拡大という事態は、環境保全や格差の是正を軽視してきたグローバル経済への反動ともいえる。世界の持続可能性をどのように達成すべきか、国連にてSDGs(持続可能な開発目標)のゴール3策定にも従事した杉下智彦氏に論考いただいた。

現代に蘇った嘴医者

挿絵は、17世紀イタリアのペスト医師シュナーベル・フォン・ロームである。感染源とみなされていた“悪性の空気”から身を守るため、全身をガウンで覆い、患者に触れることなく診察するための杖を持ち、大量の香辛料を詰めたくちばし状のマスクを装着している。そして「君は寓話と信じるだろうか? 嘴医者の物語を」という言葉が添えられている。

「ペスト医師」(1656年頃、Paul Fürst画)。17世紀の欧州で甚大な被害をもたらしたペストの治療にあたったイタリアの医師、シュナーベル・フォン・ローム(Schnabel von Rom)が描かれている

新型コロナウイルス(SARSCoV-2)による急性呼吸器疾患(COVID-19)のパンデミックは、まさに現代に蘇った黒死病(ペスト)である。14世紀の流行では、当時の欧州の人口の60%の死者が出たことで、社会は劇的な変化を求められ、時代は中世から近世へ移行したとされる。また1918年に始まったスペイン風邪(インフルエンザ)では、世界中で約5億人が感染し4000万人が亡くなった。このとき、社会階層間で死亡率が10倍違ったという記録が残っている。COVID-19においても、感染症による直接的な健康被害だけでなく、社会経済的な困窮による間接的被害も甚大である。

1996年、世界保健機関(WHO)は、新しく認識された感染症で、局地的あるいは国際的に公衆衛生上問題となる感染症を新興感染症と定義した。マールブルグ熱(1967年)、ラッサ熱(1969年)、重症急性呼吸器症候群(SARS、2003年)、中東呼吸器症候群(MERS、2012年)、エボラ出血熱(2014年)、ジカ熱(2016年)など、歴史的には新たな感染症の出現を止めることはできない。WHOによってCOVID-19と名付けられたこの感染症は、21世紀型のパンデミックとして過去に見られなかった特徴を持ち、人間社会のあらゆる側面に大きな影響を与えている。「ウイルスと戦って根絶する」という隠喩を唱えるうちは、多くの犠牲を払ってもその目的は達成できないであろう。我々は、好むと好まざるとにかかわらず「ウイルスとともに生きていく」という未知の世界に挑む必然性に迫られている。

COVID-19はなぜ起こったのか?

新興感染症の始まりは、その多くが自然界にある未知のウイルスと人類が遭遇することによって発生する。先進国の飽くなき欲望と過剰な利益追求が、調和のとれた生態系を破壊し、人類の存亡を左右するような新興感染症を引き起こしている。かつて私たちは、獣や妖怪が棲む暗黒の森に畏敬の念を感じていた。しかし闇が消えた現代では、自然はコントロール可能で効率的に利用するべきである、という人間至上主義が支配的である。いま私たちに必要なのは、持続可能な健康を維持するため、地球全体の生産と消費のシステムを見直し、歴史的に培ってきた人間と自然との最適な距離を保つ矜持を持つことが求められている。

COVID-19はなぜ拡大したのか?

COVID-19の感染拡大の様式は、豪華客船やライブハウス、ジムや介護施設など都市部での密集・密接・密閉された空間でのクラスター発生であった。集合住宅や満員電車、集約的な病院や施設という、経済的な効率性を追求した空間設計が感染拡大の温床となった。また海外出張者や旅行者の移動によって、非常に短期間で地球全体にパンデミックが拡大した。

SARSの起こった2002年の中国の国民総生産(GDP)は1500兆円であり、2019年は15兆円と10倍に増大した。世界の航空旅客総数は19億人(2003年)から45億人(2019年)となった。無尽蔵な大量生産、輸送、消費によって肥大化するグローバリゼーションは、本来あるべき人間と人間との自然な距離や、安全で快適な社会空間を奪っていった。現代社会には、人類としての分別をわきまえた経済規模を維持するための新しい叡智が必要とされている。これはまさに持続可能な開発目標(SDGs)で求められた社会変革への道しるべでもある。

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