2020年6月号
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SDGsの実践 あるべき指標と評価

企業と自治体はどのように協力できるのか?

馬奈木 俊介(九州大学工学研究院主幹教授 都市研究センター長)、栗田 健一(九州大学都市研究センター 研究員)

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国・自治体・企業・個人の連携によるSDGsの実践

前回のコラムでは、世界の主要なサステナブル投資市場の動向について説明を行った。今回は、日本国内における自治体のSDGsの実現を評価するのに有用な指標である新国富指標とそれを用いた産学官連携による共同プロジェクトの実践例について紹介する。

SDGs17の目標は国連が採択したことにより、企業の社会貢献活動をより後押しすることとなった。さらにSDGsへの取り組みは企業価値を国際的に高める指標として社会全体に浸透しつつある。実際、SDGsに関する製品やサービスの提供、業務改善に熱心に取り組む企業が増えている。

自治体においてもSDGsの達成に向けた政策を実現しようとしている。人口減少や経済規模の縮小など、自治体が抱える課題は、SDGsと重なっており、最終的な目標が一致しているからであると考えられる。自治体のSDGs推進を支援、評価する指標として新国富指標がある。

政策決定プロセスにおける課題

自治体の政策決定には住民、各種関連団体など多くの利害関係者の意見が重なり合う。これまでの政策決定プロセスにおいては、担当者の経験や利害関係者の声の大きさに政策が左右されることもあった。

地域が直面する課題は、金銭価値化しやすい経済的課題に対する利害対立のみではない。SDGsで提案されている豊かな自然環境や、住み続けられるまちづくり、質の高い教育といった価値観は従来では金銭価値化が困難で、それに伴う課題解決にも客観的な評価というよりもむしろ、担当者の裁量に左右されることが予想される。

可能な限り客観的な評価指標として新国富指標を用いることで、以上のような課題解決のために貢献し得る。

SDGsの評価指標:新国富指標

SDGsに関する取り組みを総合的に評価する方法として、国連が採用したのが、ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アロー氏らによって開発された「新国富指標」である。この新国富指標は国や都市の総合的豊かさを、「自然資本」「人的資本」「人口資本」の3つの指標で数値化して測定する。これらの3つの指標を正確に測定するのは困難であったが、計測手法や資本推計の経済学的手法の発展によって測定することが可能となった。

第二次世界大戦後の日本の高度経済成長は我々の生活に豊さをもたらした。その豊かさは、国内総生産(Gross Domestic Product; GDP)の増加という形からも明白であり、GDPの成長と豊さの向上は同一視されてきた。しかし、高度経済成長を経て成熟した日本経済において、GDPは伸び悩み、さらに人口減少によって将来に対する暗い見通しが国民全体に広がっている。特に、過疎化が進む地方では、その地域社会の持続可能性について不安が高まっており、地方創生は喫緊の課題とされている。現代においては、現時点での経済成長だけでなく、持続可能性も重要である。

経済成長の限界への直面からの経済成長に代わる持続可能性への意識変化は、1972年にローマ・クラブが公表した「成長の限界」に端を発した世界的な潮流である。それではその持続可能性と一体何を指すのであろうか?1987年にブルラント委員会が公表した「われら共有の未来」では、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現代世代のニーズを満たすような発展」と定義された。しかし、その「将来世代のニーズを満たす能力」をどのように測れば良いのであろうか。果たして、GDPで測ることができるのであろうか。

GDPはその国家のある期間内における生産規模を表す指標であるため、例えば日本の1970年代の高度経済成長を例に挙げると、GDPの成長は、家電や自家用車の普及の点では豊さを反映している。しかし、経済発展に伴う森林減少によって失った癒しや、生活習慣病による健康状態の悪化などの幸福の損失はGDPで測定することができない。そこで2008年にフランスのサルコジ前大統領が設置した「経済パフォーマンスと社会的発展の計測に関する委員会」は新たな経済指標を検討し、スティグリッツ報告書を提案した。

我々が提案する豊かさの経済指標は、現代経済の多様な豊さを金銭的価値として測定し、その経済の持続可能性を評価できるものであり、前述の世界的なニーズに応じたものである。その測定指標が2012年6月の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で発表された「新国富指標(Inclusive Wealth Index)」である。この新国富指標は、SDGsに呼応して、経済が持続可能になったどうかを判断する指標として注目を浴びている。次節では、新国富指標の概念について説明を行うが、その多くは馬奈木・池田・中村(2016)や馬奈木(2017)に依拠している。

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