サステナブル投資の国別動向

1. 世界の主要なサステナブル投資市場の動向

前回コラム(リンク https://www.projectdesign.jp/202002/sdgs-assessment/007448.php)では、サステナブル投資手法が国や地域で異なることに触れた。さらに今回は『Global Sustainable Investment Review』(以下、GSIR)を中心に、より詳細に国や地域別のサステナブル投資及びESGの傾向について述べる。

まず、GSIRがサステナブル投資の主要市場として挙げる5つの国・地域における2012年から2018年までの投資額の変遷を図1に、国・地域別のシェアの変遷を図2に示す。図1を見ると、いずれの国・地域も投資額については2014年の日本を除いて増加を続けている。特にヨーロッパとアメリカでの投資が多く、世界のサステナブル投資の趨勢を左右する存在であると言える。一方で図2からは、最も投資額の多いヨーロッパのシェアが年々低下しているのに対し、その他の国・地域のシェアが高まりつつあることが見て取れる。中でもアメリカと日本の伸びが大きく、さらに欧米が中心であったサステナブル投資市場においてアジアやオセアニアの存在感が増しつつあることから、将来的にはより多様な構成になることが予想される。

図1 サステナブル投資額の変遷(2012~2018年,単位:10億米ドル)

出所:文献1) - 4)を元に筆者が作成

 

図2 サステナブル投資額の国・地域別シェアの変遷(2012~2018年)

出所:文献1) - 4)を元に筆者が作成

 

2. 国・地域別のサステナブル投資市場の動向

(1) ヨーロッパ

もっとも早くからサステナブル投資において存在感を示してきたのがヨーロッパ諸国である。サステナブル投資とほぼ同義とされる責任投資については、投資自体と同程度の歴史を有し、18世紀にまで遡るとされている5)。2018年版GSIRでは既に市場が成熟しつつあるとしているが、図1・2からも年々他の国や地域に比べて成長率が低下傾向にあるのは明らかである。

この理由の一部として、一連のサステナブル投資、特にESGの基準や定義の厳格化が挙げられる。欧州委員会によってサステナブル金融政策をまとめるためのアクションプラン(例えばサステナブル投資方法の分類法の整備やグリーンボンド基準やエコラベルの定義など)について検討され、2019年3月には同アクションプラン「Sustainable Finance Action Plan」に基づくルールが欧州議会において可決された。具体的には、アセットマネージャーに対し、どのようにESGファクターに配慮しているのかを明確にするため共通の報告基準を用いること、またグリーンウォッシュ(※1)の防止を求めている。

以上の背景を受けて、図3に示すサステナブル投資方法の変遷にもいくつかの特徴が見られる。GSIAの欧州メンバーであるEurosif(European Sustainable Investment Forum)によると、データが示す事実上の要点として以下の2点を挙げている。ひとつめは、投資家は少なくとも何らかの形のESG統合なしではサステナブル投資を実行できないということである。事実、2016年から2018年の間にESG統合による投資額は61%という最も急速な成長を遂げた。ふたつめは、コーポレートエンゲージメントで運用された資産の強い成長によって経営が活性化している傾向が見られることである。コーポレートエンゲージメントによる投資額の成長率は14%であった。なお、2016年のESG統合による投資額が2014年と比べて減少しているが、この間にESG統合型投資の定義が縮小された影響であるとされている。

図3 ヨーロッパにおける方法別投資額の変遷(2012~2018年)

出所:文献1) - 4)を元に筆者が作成

 

(2) アメリカ

世界のサステナブル投資市場においてヨーロッパに次いで投資運用額が多いのがアメリカであり、順調に成長を続けている。2018年はじめの投資額は約12兆米ドルで、世界の主要市場における投資総額の39%、またアメリカで投資専門家によって運用された全投資資産の26%を占める。このうちの97%に相当する11.6兆米ドルはESG基準(ESG criteria)を自身の投資分析やポートフォリオ選択に適用した投資運用会社やコミュニティ投資機関によるもので、その大半はESG統合およびネガティブスクリーニングが採用されている。図4に方法別の投資額の変遷を示す。なお、複数の方法を用いた場合については重複して投資額がカウントされている可能性がある。

この傾向に関連して、US SIF(The Forum for Sustainable and Responsible Investment and the US SIFFoundation)が141社の資金管理会社を対象としたサステナブル投資に関する調査によると、投資プロセスにESG基準を組み込む主な動機はクライアントからの需要との結果が得られている。このESG基準の中では気候変動が最も重視されており、気候変動に関する基準が適用された資産は2016年から2年間で2倍以上の3兆米ドルにもなったと報告されている。また、ESG基準に関する同国の特徴としてタバコ関連企業と武器関連企業に対するダイベストメント(※2)が挙げられる。2018年における撤退額はそれぞれ2.9兆米ドル、1.9兆米ドルとなり、2016年の約5倍であった。

図4 アメリカにおける方法別投資額の変遷(2012~2018年)

出所:文献1) - 4)を元に筆者が作成

 

(3) 日本

GSIRが対象としている5つの国・地域の中で、最もサステナブル投資市場の成長が著しいのが日本である。2012年当初100億米ドルだった投資額は2018年時点で約22倍になり、国内での投資専門家による全運用資産の18%を占めるまでになった(2016年は3%)。この結果、ヨーロッパやアメリカとの差は未だあるものの、世界第3位のサステナブル投資市場となった。その急激な成長は図5の方法別投資額の変遷からも見て取れる。他の国・地域と異なり、日本ではコーポレートエンゲージメント・株主アクションによる投資額が最も多く、続くESG統合とで主流を占める。

日本におけるサステナブル投資の成長要因として、GSIRは安倍内閣の経済成長戦略の一環としての継続的な民間投資の奨励と、国内の主要機関投資家のPRIへの署名を挙げている。前者については、さまざまな政府機関による具体的な取り組みを伴うもので、2017年だけでも、①金融庁による日本版スチュワードシップコードの改正とそれに関するフォローアップ会議の開始、②経済産業省による持続的な企業価値を生み出す企業経営・投資のあり方やその評価方法をまとめた『伊藤レポート2.0』の公開と、その実践のための『価値協創ガイダンス』の整備、③環境省によるグリーンボンドに関するガイドラインの設立と、サステナビリティに配慮した投資を検討するESGワーキンググループが提起した課題との統合などがなされている。後者については、2015年に世界最大の機関投資家と言われる年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund, GPIF)、2016年に企業年金連合(Pension Fund Association)がそれぞれPRIの署名者となった。特にGPIFは、2017年7月に日本の株式を対象にした3つのESG指数を採用し、それぞれの指数に連動するパッシブ運用を開始した。さらに、グローバル株式を対象とする環境株式指数の公募・選定を行い、翌年には新たに2つの指数を加えた5指数と連動する運用を開始している6)。

以上から、各国・地域により段階や状況は異なるが、今後のサステナブル投資市場においてESG統合あるいはそのための基準は、さらに拡大・深化していくことが予想される。

図5 日本における方法別投資額の変遷(2012~2018年)

出所:文献1) - 4)を元に筆者が作成

 

(※1)グリーンウォッシュ(Green wash):消費者への訴求効果を狙い、企業やその商品、サービスなどが実態に反して環境配慮をしているかのように装うこと。グリーンウォッシング(Green washing)ともいう。 (※2)ダイベストメント(Divestment):ESGの観点から問題となる企業、例えば兵器や原子力発電、児童就労や、最近では石炭発電に関わる企業への投資から撤退すること。

<参考文献>
1) Global Sustainable Investment Alliance (GSIA), 2012 Global Sustainable Investment Review, 41p, 2012. 2) Global Sustainable Investment Alliance (GSIA), 2014 Global Sustainable Investment Review, 31p, 2014. 3) Global Sustainable Investment Alliance (GSIA), 2016 Global Sustainable Investment Review, 28p, 2016. 4) Global Sustainable Investment Alliance (GSIA), 2018 Global Sustainable Investment Review, 26p, 2018. 5) Schroders, A short history of responsible investing, GLOBAL INVESTMENT STUDY, https://www.schroders.com/en/insights/global-investor-study/a-short-history-of-responsible-investing-300-0001/,, 2016.(2020年4月13日取得) 6) 年金積立金管理運用独立行政法人,GPIFのESG投資への取り組み,https://www.gpif.go.jp/investment/esg/#c, (2020年4月27日閲覧)

 

馬奈木 俊介(まなぎ・しゅんすけ)
九州大学大学院工学研究院 都市システム工学講座 教授/九州大学都市研究センター長・主幹教授

 

松永 千晶(まつなが・ちあき)
福岡女子大学 国際文理学部 環境科学科 准教授