2020年6月号

ポスト・コロナ

新型コロナ危機を乗り超えて −今こそ、新たな未来を拓く「好機」に−

下平 拓哉(事業構想大学院大学 教授)

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今、世界中が大変な時代となっている。新型コロナの猛威は、ヒト、モノ、カネ、人々の生活を取り巻くあらゆる要素に影響し、脅威を与え、不安を煽っている。そのような中で、いかにこの危機を乗り超え、さらにこれをチャンスと捉えていくことができるか、人類の英知と手腕が問われている時である。

それでは、一体、全世界に大きなインパクトを与え続けている新型コロナに対して、我々はどうすればいいのであろうか?こういうときにこそ、原理原則に立ち返ること、つまり、物事の「本質」を捉えることが必要ではないであろうか。

まず、新型コロナが与えているインパクトとはどういうものと認識すべきであろうか。人々の安全・安心を脅かす脅威という視点から整理してみる。

終わらない、パンデミックとの闘い

第1に、新型コロナは、古くて新しい脅威である。現在の新型コロナは、何百もの変異が確認され、いまだ、未知な部分も多々あるものの、過去に学ぶべき点も多い。

今からおよそ100年前の1918年、スペイン風邪の猛威は、当時の世界人口の4分の1に相当する5億人に感染し、4000万人以上の命を奪ったと推定される。速水融の『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(藤原書店、2006年)や内務省衛生局『流行性感冒「スペイン風邪」大流行の記録』(平凡社、2008年)によれば、日本におけるスペイン風邪は、「後流行」(1919年12月~1920年6月)の感染者数は「前流行」(1918年11月~1919年6月)の10分の1程度だが、致死率は約4~5倍の約5.3%にも及び、約400万人の日本人が亡くなったという。「前流行」で免疫を獲得できなかった者が、「後流行」で重症化し死に至ったと推測され、非常にショッキングな結果となっている。

現在、韓国やドイツにおいて、新型コロナ再拡大の様相も呈してきている。パンデミック(世界的大流行)は、1回で終わることなく、数次にわたって起こるもので、漸く終息するためには丸2年を要したということを覚悟しなくてはならない。ただ一方で、これまで人類が経験したパンデミックで、克服できていないものはないというのもまた事実である。

コロナ禍でも続く、様々な脅威

第2に、脅威の多様化である。現在の新型コロナの脅威は計り知れないものがあるが、人類を脅かすものは、新型コロナのような感染症のパンデミックだけではない。また、新型コロナによって様々な脅威が消え去った訳でもない。サイバー、気候変動に伴う地球温暖化や自然災害、テロや国境を越える犯罪等、日本を取り巻く国際環境は、実は引き続き大変厳しい状況下にある。そして、領土問題や民族問題等を含んだ伝統的な安全保障問題は、新型コロナの影響など関係なく継続していることも忘れてはならない。

5月8~10日、尖閣諸島周辺の接続水域において、中国海警局所属の「海警」4隻が航行し、その内1隻は機関砲のようなものを搭載していた模様である。3日間連続で2隻が領海内に侵入し、8日には、日本の漁船に接近、追尾する事案が生起している。尖閣諸島をめぐる日中間の緊張状態は、何も変わることなく、緊張状態が高まる懸念を内包しつつ、継続している。

新たなリアリズムの復権

第3に、新たなリアリズムの復権である。これまで日本を取り巻く国際環境は、日米が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略(構想)」や中国の「一帯一路」政策に象徴されるように、米中によるパワーゲーム、つまり協調と競争の側面を有した戦略空間であった。しかしながら、新型コロナのインパクトによって、米中のみならず各国は自国の感染症対策に追われ、他国との協調連携ではなく、より「内向き」な姿勢が支配的なものとなってきている。つまり、新型コロナは、まさにリアリズムの視点を再認識させ、まずもって自国の安全・安心が緊要であることを見せつけ、さらには政府、行政のリーダーシップの能力が大きく問われるようになってきている。そして、国連や欧州連合(EU)等の機能停滞、米中のせめぎ合いの構図が浮き彫りとなり、ポスト・コロナの時代の行方はますます見えにくくなっている。

2020年4月13日、乗組員約4860名中585名の陽性者を出した米原子力空母「セオドア・ルーズベルト」において初めて死者が確認された。米海軍が保有する空母11隻中、4隻に新型コロナ感染者が確認されるなど、世界最強を誇る米海軍において集団感染が進んでいる。それをよそに、4月11日、中国空母「遼寧」とミサイル駆逐艦等6隻が、沖縄本島と宮古島間を通過して、東シナ海から太平洋へ進出した。昨年6月に引き続き4回目であり、日本を取り巻く安全保障環境は全く変わっていないことが分かる。当該艦隊には、遠洋への展開を可能とする補給艦も随伴しており、安全保障分野におけるリアリズムの視点は不変である。新型コロナのインパクトは、協調よりも自国中心性の高まりを加速させ、国家間対立の再燃が懸念される。

いかなる環境変化でも変わらない「本質」

では、これらの新型コロナが与えているインパクトに対してどうすればいいのであろうか?こういうときにこそ、いかなる環境変化にあっても不変である原理原則、つまり、物事の「本質」を捉えることがますます必要とされるであろう。原理原則や物事の「本質」を捉える上で、環境学者であるトロント大学のジョン・ロビンソン(John B. Robinson)教授が提唱したバックキャスティング(Backcasting)が有効である。バックキャスティングとは、現状からどんな改善ができるかを考えて、改善策を積み上げていくような考え方であるフォーキャスティング(Forecasting)と異なり、求められる理想の未来像を想定し、そこを起点に現在を振り返り、今何をすべきかを考える方法である。バックキャスティングの狙いは、長期的な視点を持って、理想的な目標設定を行うことにあり、場当たり的な解決策を避け、本質的な解決策を模索することにある。

新型コロナとの厳しい戦いの現在にあって、戦いつつも、新型コロナが与えているインパクトを冷静に分析し、バックキャスティングによって、理想の未来像を描いての本質的な解決策を直実に実行していくことが求められる。多くの者が利用できる共有資源が乱獲されることによって資源の枯渇を招いてしまうという「コモンズの悲劇」を避けつつ、様々な脅威を乗り超えて、コモンズとしての社会的資本をどのように積み上げていくか、議論を活性化し、発信し、そして循環させるというサイクルを積み上げていくことが重要である。

それを実行できるのがまさに、社会の一翼を担う新事業を模索するための事業構想サイクルである。事業構想サイクルとは、①発・着・想、②構想案、③フィールド・リサーチ、④構想計画、⑤コミュニケーションである。変化する環境下で理想の未来を拓くため、新たな視点でアイデアを出し続け、徹底したリサーチとテストを行いつつ、実現可能なロードマップを描き、実践するというものである。そこでは、変化する環境に順応していくことが求められるとともに、いかなる環境変化においても不変的な「本質」があることを忘れてはならない。

断絶の時代に求められるProject Design

アメリカ繁栄の象徴ニューヨークは、今、コロナ感染者が増え続け「無人の街」と化している。アンドリュー・クオモ知事は、この脅威を打破し、新たな未来を作り出す第一歩として、科学的な根拠に基づく計画策定に着手するため、大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーとコンサル契約を結んだ。マッキンゼーの包括的なインサイトレポートに提示されている各産業にウイルスがもたらす影響、危機管理のために企業が踏むべきステップは、ポスト・コロナ時代を考えていく上での非常に有効な手引きとなりえるだろう。特筆すべきは、コントロールできない不況やグローバルな政治経済関係の再構築、今までとは異なるカテゴリー、バーチャルなサービス等が予想を上回るスピードで到来する可能性を示し、それを「次の常態(Next Normal)」として、速やかに受け入れることを提案していることである。

経営学の父ピーター・ドラッカーの『断絶の時代』によれば、我々の近未来は「断絶の時代」であり、①新技術、新産業が生まれる。②世界経済が変わる。③社会と政治が変わる。④知識の性格が変わる、と論じている。現在の新型コロナのインパクトを好機として、様々に変化する「断絶の時代」にあって、それを「次の常態」として冷静に受け止め、新たな未来を拓いていくためには、物事の「本質」を捉えて、新しい夢を実践する、様々なプロジェクトをデザインする(事業構想)力がますます求められているのである。

 

下平 拓哉(しもだいら・たくや)
事業構想大学院大学 教授

 

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