教育改革の最前線としての実務家教員
なぜ今「実務家教員」が求められるのか。そこには学生の「多様なニーズ」に対する期待や教育の質担保という現実が存在している。加えて専門職大学の専任教員は、実にその4割以上を実務家教員とすることが法令義務となっている。今回は、大学教育改革と実務家教員需要の関係について考察したい。
大学教育改革と実務家教員
実務家教員の必要性が高まっていると言われるが、実際に本当なのかと疑問の声を聞くこともある。現在の実務家教員の必要性について、あらためて整理してみることにしたい。実務家教員が活躍する場として、大きくは大学と専門学校がある。
専門学校のなかには、「職業に必要な実践的かつ専門的な能力を育成することを目的として、専攻分野における実務に関する知識、技術及び技能についての組織的な教育」を行う職業実践専門課程がある。この課程では、企業などと連携をしてより実践的な職業教育をする。そこに実務経験のある実務家教員が指導することは十分にあり得る。
では、大学教育の現場ではどうか。これからの高等教育政策のグランドデザインを示しているものとして2018年に公表された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」がある。2018年に生まれた子どもたちが、ちょうど大学を卒業している頃の高等教育像を描いたものである。この答申のなかには、多様な教員を確保するという観点から、実務家教員の重要性が謳われている。多様な年齢層や多様なニーズをもつ学生に教育の質を担保するために、実務家教員は極めて重要な立場を占めることになる。つまり、実務家教員が高等教育の質を左右することにもなる。だから、この答申のなかでは、繰り返し実務家教員の質的・量的確保のための実務家教員養成プログラムの拡充を訴えているのである。
その結実として、2019年に文部科学省は「持続的な産学共同人材育成システム構築事業」を実施することになった。実務家教員という言葉こそ事業の名前にはなっていないが、この事業は実務家教員養成事業を全国に広げようとする取り組みなのである。実務家教員の拡充は、高等教育機関だけでなく産業界とともに取り組まなければならない。そういった意味で「産学共同人材育成」なのである。
実務家教員の需要予測
もちろん実務家教員の養成が進むから実務家教員の需要があるというわけではない。これまでも繰り返し指摘してきた通りであるが、実務家教員の需要が高まるだろうというためには2つの大きな潮流がある。
第一は、2019年に発足した専門職大学に代表される職業教育の高度化である。専門職大学の専任教員の4割以上は、実務家教員を配置することが法令として義務付けられている。現在、専門職大学は10校程度(2020年4月現在)に限られるが、今後も増加していくと考えられる。
第二に、高等教育無償化である。高等教育無償化の対象校となるためには、実務経験のある教員が担当する授業が1割(大学の標準卒業単位数が124単位なので、13単位)以上なければならない。したがって、専門職大学のみならず一般の大学にも実務家教員の配置が求められることになる。
あまり知られていないが、さきの「グランドデザイン」には、今後「実務経験を有する者の大学教育への参画を促すため、専任教員として実務家教員を配置することができる旨を、大学設置基準上、確認的に規定する」としている。もちろん、高等教育の質保証が第一であるが、実務家教員に寄せられる期待は極めて大きいと考えられる。