実務家教員のパラドックスと3つのキャリアタイプ

実務家教員が
実務家教員であるために

実務家教員の果たす役割のなかで最も重要なことは、現代社会に対応できる「実務の知見」を体系的に教授することにある。また現代社会において、実務の現場での知見もすぐに陳腐化したり時代遅れになることがよく起きる。そこで実務家教員に関係する人たちが、直面する問題がある。もし仮に、大学の教育課程の中核を担う実務家教員として教育研究活動に従事すると、実務家教員は実務の現場から離れてしまうことになる。これを実務家教員のパラドックスと呼ぶことにしよう。

実務家教員が実務家教員であるためには、常に実務の現場から最新の知見を学び続けている必要があるということである。ここでの問題は、実務家教員のもつ知見そのものが陳腐化し時代遅れになり、実務家教員の期待される役割を全うできなくなるということである。

上記の主張は、大学側の問題であり実務家教員本人からすれば、キャリアの問題となる。実務家教員としてのキャリア形成を考える上では、大きく3つある。

3つのキャリアタイプ

第一は、研究者へのキャリアシフトである。実務家教員としてキャリアを積むのではなく、新たな教員のタイプとして「実務経験のある研究者教員」という選択肢である。そのためには、実務家教員として大学での教育研究に従事したときから、実務研究という新たなフィールドを意識する必要がある。

第二は、実務家教員としての役目を一度終えて、また実務の世界に戻るというキャリアである。最初の研究者へのキャリアシフトをリニア型だとしたら、こちらは往還型キャリアになる。実務家教員という《実務経験》を生かして大学と実務の世界の架け橋として、これまでにない新たな職域を切り拓くことになる。さらにまた、実務の経験を積んだ上で、再び実務家教員として大学へ戻るということもありうるだろう。

第三は、実務家教員として教壇に立ちつつ、自分の実務の現場をも続けるという選択肢もある。リニア型、往還型につづきパラレルキャリア型である。実は、法令上にも実務家教員には「みなし専任教員」という枠もある。実際の経験者に聞くと、二足のわらじであるがゆえに、慣れるまでなかなか大変であるということも聞く。しかし、最近あった実務での気付きを授業にダイレクトに活かせるという醍醐味も大きい。

このように、実務家教員として実際に活躍することになっても、自身のキャリアを見定める必要が生じる。したがって、実務家教員としてどのようなキャリアを歩もうとするのか、教育研究に従事する前からよく考えておくことが重要である。どのキャリアを歩むにしても、実務家教員として自分の領域の実務について研鑽し、常に学び続けるという態度が重要であることは間違いない。