アメリカの大学スポーツ NCAAは日本のモデルとなるか

東京オリンピック・パラリンピックを契機とした大学スポーツの活性化にむけて、アメリカの先例に倣い、2019年4月に大学スポーツ協会(UNIVAS)が発足した。日米相互の比較を通じて、大学スポーツ市場のポテンシャルを探る。

ワシントン大学アメフト応援団・選手入場

今日、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを起爆剤としたスポーツ産業の経済貢献が重視されている。その中で、現状ではほとんど存在しない大学スポーツの市場も2020年には1000億円、2025年には3000億円になることが注目されている。一方、アメリカでは大学スポーツは8000億円の規模で全てのプロスポーツの市場の30%に相当し、アメフトには及ばないが野球のメジャーリーグとほぼ同じ規模である。日本の大学スポーツをアメリカのように活性化するための施策が議論され、アメリカの全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association, 以下NCAA)の役割が高く評価され、これに倣ってスポーツ庁主導で大学スポーツ協会(Japan Association for University Athletics and Sport , 通称UNIVAS[ユニバス])が2019年4月に約200大学が加盟して発足した。本稿ではNCAAが範となる組織かどうか検討してみたい。

NCAAの設立

19世紀末、人気スポーツとなった大学アメフトでは死傷者も多発していた。NCAAは元々はアメフトの暴力性を是正するルール作りのために結成された。1906年にIntercollegiate Athletic Association of the United States(IAAUS)が設立され、その後、アメフト以外の大学スポーツ全般を扱うようになり、1910年にNCAAと改称した。IAAUSは比較的中小の大学の集まりだったのだが、ハーバードなどの有力校も加入していった。

NCAAは政府から支援を受けていたわけでなく、また、他のアマチュアスポーツ団体と競争しなければならず、加盟校を増やすことに熱心だった。そのため、規則を定めても実際の執行は大学任せにしてしまった。このことで大学スポーツの暴走に対してNCAAは無力になった。また、NCAAでは加盟校数を増やすにつれて、大規模校と小規模校の利害の相違が明らかになり、I部、II部、III部と分かれ、さらにI部は上から「A」「AA」「AAA」と分かれた。今日、我々が報道で目にする何万人も収容するスタジアムでのアメフトの試合は、一番上のI-A(現在の正式名称は、Football Bowl Sub-Division)のことであり、III部の大学では選手向けの奨学金もなく、純粋な課外活動としてスポーツが行われている。NCAAの意思決定の中心はI-A所属のスポーツ強豪校であるが、弊害を引き起こしている当事者が統治していることもNCAAの問題点である。NCAA本部の収入の90%近くはこれらの強豪大学によるバスケットボール・トーナメントの放映権料である(レギュラーシーズンの収益と、アメフトの収益はNCAA本部には入らずカンファレンス[リーグ]内でメンバーの大学に分配される)。この収入で全種目の大学選手権が支援されているので、II部、III部の大学も不平を言わない。一方、NCAAとしてはII部、III部の大学も含めることで「大学スポーツの代表団体」としての地位を保つことができ、III部には文武両道の大学・選手がいるので、評判をよくするためにもIII部の大学を含めておきたいのである。ユニバスも短大を含めて様々な大学が加盟し対象とする種目も多様なので、すべてを満足させる統一のポリシーを策定することでうまくいくのか懸念される。また、一方でスポーツ庁はさらに加盟校数を増やしたいので、加盟を促すために規則の執行において大学の裁量を過度に認めてしまう恐れがある。

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