人生100年時代を生きる 高齢者の「新しいニーズ」とは

人生100年、特に平均寿命の伸びに伴う高齢期をどのように歩んでいけばよいのか。高齢期を3つのステージから捉え、そのニーズを満たす社会を創造することが重要だ。社会動向の豊富なデータ蓄積を基に、地域創造と人生設計の未来を展望する。

前田 展弘(ニッセイ基礎研究所 主任研究員)

日本人の平均寿命は戦後から延び続け、今後も延び続ける見通しにあり、2050年には100歳以上の人口が約70万人になるという推計結果もある1)。人生の長さだけで言えば、人生50年、60年時代を生きていた先人達に比べ私たちは恵まれた時代を歩んでいると言えよう。

しかしながら、手放しで喜べない実態がある。私たち人類は人生100年のモデルとなる生き方を知らない。理想の老い方(サクセスフル・エイジング)に関する諸理論は存在するが2)、人生100年までを射程に入れたものではない。今を生きる私たちがそのモデルを創っていかなければならないのである。

理想の生き方と
高齢期の3つのステージ

図1 加齢に伴う自立度変化パターン
――全国高齢者パネル調査(JAHEAD)結果より

(出典)東京大学高齢社会総合研究機構編『東大がつくった高齢社会の 教科書[改訂版]』(東京大学出版会、2017年)P.34より引用し作成

図2 豊かな長寿の実現に必要な高齢者のニーズの「塊」

(出典)筆者作成

人生100年、特に延長した人生(高齢期)をどのように歩んでいけばよいのか。容易な問いではないが、筆者は「高齢期に迎える3つのステージのニーズを満たしながら『より良く』生きていく」ということだと考える。そして、そのニーズに応えられる社会を創造していくとことが必要である。

図1は、日本の高齢者約6000人を1987年から約30年にわたって追跡して、「加齢に伴う生活の自立度(≒健康状態)の変化」を明らかにしたものである。横軸は年齢、縦軸は生活の自立度の高さを表す。自立度は、確立された測定スケールである「基本的日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)」と「手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)」の合計点から評価され、3点は完全に「自立」(全く他人のサポートがなく生活が可能)した状態、2点は「手段的日常生活動作」に援助が必要な状態、1点は「基本的&手段的日常生活動作」に援助が必要な状態、0点は「死亡」を表す。約6000人のパターン(線)を解析すると、統計上は、男性では3つのパターン、女性では2つのパターンに大きく集約される。

多くの高齢者(男性の7割、女性の約9割)は次の3つのステージ(期間)を経ながら歩んでいくことが確認できる。そのステージとは、①まだまだ元気で自立して生活できる期間(ステージⅠ)、②自立しながらも日常生活において必要な援助が増える期間(ステージⅡ)、③最終的に本格的な医療やケアを必要とする期間(ステージⅢ)である。

この3つのステージに含まれるニーズを満たしながら人生を歩んでいけることが理想と考えるが、各種調査結果等から集約したニーズ(の塊)を挙げると、ステージⅠでは、「健康で長生きしたい」、「社会で活躍し続けたい」、「新たなライフスタイルを築きたい」というニーズ、ステージⅡでは、「様々な不便、困りごとが増えたとしても自立した生活を継続したい」というニーズ、そしてステージⅢでは、「住み慣れた自宅・地域で最期まで暮らし続けたい」というニーズがある。またこれらステージ3つに共通しては、「楽しみたい」というニーズが存在する。

人生100年を支える地域創造

ステージ1の現状を見ると、現役生活をリタイアした後、新たな活躍場所を求めるものの、「やることがない、行くところがない、会いたい人がいない」と〈ない・ない〉づくしのために、自宅に閉じこもりがちな生活を送ってしまう人が少なくない。またステージ2及びステージ3の現状を見ても、子どもがいない家族が増えるなど家族の形が変容し、さらに住民どうしのつながりが希薄となりがちな地域が増えており(特に都市部)、「家族力」「地域力」は低下の一途と言える。このままでは、私たちが歩める可能性のある人生100年は、人生の「質」の点で不安視される。

3つのステージのニーズに応えるための最善の解決策は、「高齢者が地域の課題のために活躍し続けられる社会」を創っていくことだと考えている。日本の未来は、人口減少下にあっても高齢者は少なくとも2040年まで増え続ける。高齢者の多くは自宅のある地域の中で過ごすことを好む。また今の高齢者は昔の高齢者と比べて体力的にも若返っている。そうした高齢者に地域で活躍できる場を積極的に創る、元気な高齢者がケアを必要とする高齢者を支えるといったことを含め、子育てや福祉など地域が抱える様々な課題解決の担い手として高齢者に活躍してもらうことが、本人にとっても地域社会にとっても有益なことであろう。

足元で進んでいる厚生労働省の事業に「生涯現役促進地域連携事業」がある。この事業は、地方自治体(都道府県・市区町村)が中心となって、まず所定の「地域高年齢者就業機会確保計画」を策定し、その上で地域の関係機関(自治体をはじめ高齢者の就業などに関係する機関)で組織する「協議会」等 が、高齢者の活躍場所を拡げるための様々な活動を行っていく。2016年4月に創設され、2年が経過した現在(2018年4月)、全国では29の地域(都道府県13、市区町村16)で当事業が進められている。なお、当事業は厚生労働省からの公募(継続的に実施される)に対して、各地方自治体が手を挙げて採択された場合に実施できる事業である。この事業が全国に拡がるなかで、活き活きと活躍できる高齢者が増え、そして「地域力」が高まり、ステージⅡ・Ⅲのニーズへの対応力を強めることができれば、巡り巡って一人ひとりの人生も安心で豊かなものになるに違いない。

1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」。2016年時点の100歳以上人口は約6万人。

2 『離脱理論(Disengagement theory; Cumming とHenryが1961年に提唱)』、『活動理論(Activity theory; Havighurst らが1968年に提唱)』、『継続理論(Continuity theory;Atchleyが1987年に提唱)』など、年を追い研究蓄積が成されている。

 

 

前田 展弘(まえだ・のぶひろ)
ニッセイ基礎研究所 主任研究員