住民に防災情報をより的確に 偏りない発信とコスト削減を実現
近年、自然災害が頻発しており、各市町村には、災害対策の強化が求められている。NTT西日本は、防災・減災において、「計画系」「収集系」「共有系」「伝達系」「復興系」までのソリューションを揃え、各自治体のニーズに合わせた解決手段を提供している。
1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災は、日本の災害対策の脆弱性を露わにし、防災・減災のあり方が根本から見直されるきっかけとなった。
大きな変化の1つは、防波堤等の整備といったハード面の対策だけでなく、ソフト面の災害対策も重視されるようになったことだ。
こうした流れを踏まえ、NTT西日本では、システムを納入して終わりではなく、何のためにどのようなシステムを導入するのか、また設置した後にどう運用していくのかなど、前後のプロセスを含めたトータルな防災ソリューションの提供に力を入れている。
防災・減災における「計画系」~「復興系」まで一連のプロセスに対応
NTT西日本は、自治体の災害対策を5つのプロセスに分け、各段階のソリューションを提供している(図1)。
図1 NTT西日本が提案する防災ソリューション全体像

1つ目は、地域防災計画や地域特性を踏まえた上で、防災システム整備に向けた基本構想等を作成する「計画系」。2つ目は、Jアラートや緊急警戒情報、自治体が独自に設置したカメラ等の映像情報などを一元的に集める「収集系」。
3つ目は、災害の発生後、収集した情報をもとに対策本部が中心となって初動対応や安否確認などを判断するための「共有系」。4つ目が、地域住民に適切な避難誘導を促すなど、情報を迅速かつ的確に伝える「伝達系」。そして5つ目が、避難所の円滑な運営や被災者の生活再建・支援に関わる「復興系」だ。
東日本大震災では、自治体の職員が情報を把握できず、住民に情報を届けられずに避難が混乱するという課題も浮き彫りになった。そうした教訓を踏まえ、今回は「計画系」「伝達系」の取り組み事例を紹介する。
基本構想策定を支援、
京都府宇治田原町の取り組み
「計画系」の事例の一つが、京都府宇治田原町における基本構想策定業務だ。
NTT西日本の公共営業担当課長代理の山崎敏和氏は、「各自治体の現場の声を聞いて気づいたのは、何から手をつけてよいかわからないと戸惑っている担当者が少なからずいることです」と語る。
NTT西日本は、防災の基本構想策定業務を、4つのプロセスで進めている(図2)。
図2 防災基本計画策定業務の流れ

1つ目は「地域特性の把握」だ。地形や気候の特性、人の居住状況などのデータを調べたうえで、地震、水害、土砂災害などの災害リスクを想定する。そして、そのリスクを踏まえ、安全性、即時性、公平性などの観点から最適な防災システムの検討を行う。
2つ目が「現状把握」だ。多様化している情報伝達のシステムと、各市町村がその時点で整備しているシステムを比較し、情報伝達の課題を明らかにする。
3つ目は「基本構想の作成」だ。地域特性やシステムの整備状況を踏まえ、基本計画のもととなる整備方針、コンセプトを作成する。
そして最後が「基本計画の作成」。補助金の採択支援からシステムの選定、中長期の整備スケジュールの策定までを行う。

山崎敏和 NTT西日本 京都支店 ビジネス営業部 公共営業担当 営業担当課長代理
「NTT西日本は、基本設計の前段階にあたる、基本構想のコンサルティングにも力を入れています。地域特性に合わせ、多様化する伝達手段を複合的に組み合わせて、住民への防災情報伝達を可能とします。最適なシステムを提案でき、単に計画を練るだけでなく、ハードの設置までも含めた施工面まで一貫して対応しています」(山崎氏)
地域の実状を踏まえた
「攻めの防災」を
京都府では、一昨年まで府内各地で3年続けて台風や豪雨による河川氾濫被害が生じていた。そうした中で、宇治田原町では情報伝達システム整備基本構想に着手された。

吉川知子 NTT西日本 京都支店 ビジネス営業部 SE担当
宇治田原町の基本構想の策定について、NTT西日本のSE担当、吉川知子氏はこう振り返る。
「毎月1回、宇治田原町定例会議を開催し、当社が考えた案に対してご意見をいただきながら基本構想を策定していきました。特に基本構想の中で、どういった住民に対してどのような情報を伝達するか、またその実現のためには、どんな情報システムが必要なのかについての記述が抜けていたので、それが実現できる仕組みを描いていきました」
また、山崎氏は、コスト面も重視したと語る。
「多くの自治体が、限られた予算の中で災害対策を行っています。宇治田原町においても、設備投資のコストを抑えながら、長く使えて効果のあるシステムを考えていきました。また、基本構想としてまとめた計画があることで議会の理解も得やすくなったと思います」
宇治田原町の基本構想は、2015年11月にまとめられた。2016年度には町役場にIP告知送信機を設置し、町内の小中学校には受信機を配置した。庁内ネットワークを使って音声配信ができる仕組みを整えている。
「小中学校は避難所でもあり、次代を担う子どもたちが集まる施設ですから、まずはその通信環境を整備しました。今回、システムありきではなく、地域の実状に合った基本構想を戦略的に考え、それをシステムに落とし込んだことで、攻めの防災が実現できたと思います。今後は学校等の屋上に長距離スピーカーを置くなど、さらに情報伝達インフラの整備を目ざす計画となっています」(吉川氏)
『@InfoCanal』の提供、
長崎県東彼杵町の取り組み
一方、「伝達系」の新たなシステムを導入したのが、長崎県東彼杵町だ。
同町は台風の襲来が多く、地形的にも集中豪雨による河川氾濫が懸念されている。
東彼杵町は、IP通信網を活用したNTTアドバンステクノロジの新たな防災情報配信・収集サービス「@InfoCanal(アットインフォカナル)」を導入し、家にいながらでも、高齢者世帯等がこのサービスを利用できる受信機を約1000戸分設置することを決めた。
これまで東彼杵町では、防災情報の発信のために、固定電話の回線を利用し、通話に使用していない時間を使って各家庭に配置したスピーカーを通じて地域情報を放送する「オフトーク」のサービスが使われてきた。
東彼杵町では、町内の半数に当たる約1500世帯が「オフトーク」を利用。しかし、「オフトーク」が2018年3月で全面的に終了することから、東彼杵町は新たな住民への情報伝達サービスとして『@InfoCanal』に着目した(図3)。
図3 @InfoCanalのサービス概要
※提供会社:NTTアドバンステクノロジ
※イラストはイメージ
3種類の受信端末。右が専用戸別受信機
配信画面イメージ。情報の到達状況を確認
『@InfoCanal』の特徴は、携帯電話網やWi-Fi等のIP通信網を利用することにより、人口の99%をカバーできるとともに、基地局などの設備が必要ないため、コストが抑えられる点だ。
また、配信側にとっては、簡単で確実性高く同時配信ができるほか、情報が到達したかどうかを即時集計ができることも大きなメリットとなる。

中川和久 NTT西日本 長崎支店 ビジネス営業部 SE部門 SE担当
NTT西日本長崎支店ビジネス営業部SE部門SE担当の中川和久氏は、『@InfoCanal』について、各地の状況に合わせた柔軟な運用が可能と語る。
「あらかじめ決められたグループへの配信だけでなく、状況に応じて、対象者(1名から可能)を指定して配信したり、地図上から危険地域を指定して配信したりすることができます。また、その情報が読まれたのかどうかや、届いているのかどうかなど、情報のステータスを把握することもできます」
東彼杵町には当初、「オフトーク」の代わりとなる防災情報の伝達手段として複数の選択肢を提案した。
中川氏によると、『@InfoCanal』の住民向け説明会では、専用戸別受信機を置くことでスイッチを入れなくても情報が届くプッシュ方式であること、屋内でも明瞭に聞こえることが支持されたという。
偏りない発信と
コスト負担低減がメリット

松山幸一郎 東彼杵町 総務課 防災交通係 係長
東彼杵町総務課防災交通係係長の松山幸一郎氏は、『@InfoCanal』の導入を決めた理由について、次のように説明する。
「住民からの評価に加えて、配信側として、IP通信網を使って世代の偏りなく情報を届けられることは大きなメリットでした。また、従来の防災行政無線は、自前で電波塔などを設置し、維持しなければならないのに対し、IP網を活用したサービスならば、財政的な負担も抑えられます。特別な設備を導入する必要がなく、短期で整備できることも大きなポイントとなりました」
さらには、双方向性の利便性も感じているという。
「発信した情報が読まれていない地域がわかれば、そこで何らかの被害が起きたのではという推測ができますし、届いていない、読んでないと推測される住民に対して、改めて情報を送ることもできます。情報は発信するだけでなく、内容を理解してもらって初めて意味を持ちます。また、緊急時には役場に行けない恐れもある中で、自宅から配信できることもより安全・安心につながっています」
さらに『@InfoCanal』には、チャットで質問に答えて、選択肢に沿った適切な情報を配信できる仕組みも用意されている。
「住民の回答内容により質問を変え、シナリオ形式で状況確認ができるので、それを使えば、職員の参集、消防団の出動配置にも活用できるのではと考えています」
東彼杵町は『@InfoCanal』の導入と同時に、専用戸別受信機を約1000台導入し、高齢者世帯、要介護者世帯を中心に、希望するすべての世帯のほか、地域の民生委員等に配付することを決めた。
受信機は、緊急速報「エリアメール」の受信・自動音声読み上げに対応しており、Jアラート情報の受信・自動音声の読み上げもできる。この導入に当たっては、総務省の緊急防災減災事業債を活用した。
「防災や情報伝達システムなどの専門的な分野は、行政の職員だけでは対応に限界があります。地域の災害対策に精通しているNTT西日本の担当者にサポートしてもらうことで、効果的なシステムの構築につなげることができました」(松山氏)
今後の課題については、「まず利用者を増やしていくこと」と松山氏。住民説明会を開催していくほか、個別訪問による啓発にも力を入れていく。
NTT西日本は30の支店を持ち、各自治体と継続的に接し、信頼関係を醸成してきた。
NTT西日本は今後も、各地の現場が抱えている課題やニーズを把握し、最適な防災情報システムの導入、ソリューションの提案に力を入れていく。
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