教育業界に起こる「眠育」革命 生徒の睡眠も指導する時代が到来

教育現場で睡眠の知識や良質な習慣を身につけていく「眠育」(睡眠教育)が話題だ。NTT西日本はすららネットと連携し、睡眠サポートプロジェクト「Peels™」の第一弾で眠育プログラムをスタート。教育機関が、生徒の睡眠までケアをする時代が訪れつつある。

山下福太郎 NTT西日本ビジネスデザイン部オープンイノベーション推進室

深刻な中高生の睡眠不足

人生の実に3分の1を占める睡眠。それは単なる休息ではなく、私たちの体を支え守る役割を果たしている。特に、心身ともに発達過程にある思春期の子どもたちにとっては、重要な要素のひとつだ。

日本は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも睡眠時間が最も短い国の一つである。また、平成28年社会生活基本調査(総務省)によれば、15歳~19歳の平均睡眠時間は7時間40分となっており、米・NationalSleep Foundationが推奨する睡眠時間(中高生:8~10時間)と比較すると少ない。

睡眠サポートプロジェクト「Peels™」を立ち上げたNTT西日本ビジネスデザイン部の山下福太郎氏は「私自身、中高生のときに惰性で睡眠を削り、翌日後悔することも多かった。近年、睡眠不足の子どもが増えている原因のひとつは、インターネットやスマートフォンの普及にあるのではと考えています。24時間、いつでもどこでもあらゆるものに簡単につながれる情報化時代だからこそ、リアルに立脚した自分自身をコントロールし律していく力が必要だと感じます」と話す。

子どもたちの生活の基盤となる睡眠習慣をサポートすることで、セルフマネジメントに関する意識付けをしつつ、日々の意欲や集中力、学習パフォーマンスの向上につなげていこうというのが「Peels™」の狙いだ。

滋賀医科大学の角谷寛特任教授(睡眠学)は、「中高生になると睡眠をつい削ってしまいがちです。当プログラムは認知行動療法的アプローチをしており、効果を期待できます。子どもたちを支えつつデータを集め、あるべき睡眠が見えてくると社会の変革を迫るものにもなりうると考えています」と話す。

湯野川孝彦 すららネット代表取締役社長

プロジェクトのパートナーとなるすららネットは、全国の塾や学校に向けてEラーニングを提供している。Eラーニングを活用する生徒には進学塾に通う生徒から不登校や発達障害、学習障害の生徒もいるなど幅広く、教材の提供だけでなく、学習ログのビッグデータを活用し、家庭学習習慣のマネジメントにも取り組んできた。

「学習習慣に大きな影響を与える睡眠習慣、生活習慣まで踏み込み、面倒をみていくのが、未来の学習塾や教育機関の役割ではないだろうかと考え、プロジェクトに賛同しました」と、湯野川孝彦社長は語る。

 

睡眠データと学習データを分析

「Peels™」の活動第一弾として、この7月~8月、すららネットの教材を利用する16の塾(対象:中学1~3年生・57人)へ「眠育」プログラムを導入。プログラムの実用性と有用性を評価するためのトライアルを実施した。

プログラムは大きく3つのステップで構成される。まずは、子どもたちに睡眠習慣や体内時計などの基本的な知識を付与する(ステップ1)。その後、睡眠センサーを利用し睡眠時間や状態を、「すらら」を利用し学習量や学習速度、正答率などの学習データを計測(ステップ2)。そして、取得したデータの分析結果をもとに講師と生徒で睡眠習慣に関する振り返りと目標設定の場を持つ(ステップ3)。ステップ2、3を繰り返すことで、自分自身で睡眠習慣を見直し、改善していけるプログラムとなっている。

「子どもたちにとっては、自分の睡眠を客観的に見て理解し、自分自身をコントロールしていく力をつける良い機会となります。ただし、睡眠習慣の改善を一人でやるのはとても難しい。それをフォローするのに、塾の先生はうってつけです。塾の先生にとっては、子どもたちが集中できない、成績が上がらない理由を深く理解することにつながります」(NTT西日本・山下氏)

スマホひとつでどこにいてもゲームができてしまう時代。様々な誘惑に打ち勝ち、いかに自分をコントロールしていくかは、IT化の進む21世紀の新しい課題と言える。睡眠データと学習データを統合し、本人に気づきを与え、睡眠習慣を改善していくことは、課題解決の糸口のひとつとなるのではないだろうか。

「校舎内での学習をサポートするだけでなく、家での学習習慣、その次は睡眠習慣から生活習慣全般まで、拡張してカバーしていくのが、未来の塾のカタチではないかと感じます」(すららネット・湯野川氏)

睡眠サポートプロジェクト「Peels™」では、「眠育」プログラムを通じ、睡眠改善ノウハウの蓄積と睡眠解析アルゴリズムの深化を進めていく。塾への展開から、将来的には中学、高校等の教育機関への提供も考えている。眠育プログラムの採用は、塾や教育機関の差異化にもつながるだろう。

Peels™導入の現場から:ラシク新石切校

関西の個別指導塾『ラシク』新石切校では、中学3年生の生徒2人に「眠育」プログラムをトライアル導入した。新石切校の永山校舎長は「成長期の子どもたち自身にとっても、睡眠時間を含め生活習慣を意識することの大切さを感じてもらえるいい機会になると思い、トライアルに協力しました」と話す。

睡眠不足の子どもたちも増えている現代、早急に手をうつ必要性はあるが、個人でコントロールしていくのはなかなか難しいのが現状だ。塾の先生という、子どもたちに近しい存在のサポートは大きな役割を果たす。

「これまで夜更かしをしても効率が悪いため、早寝早起きをするよう話をしてきましたが、実際にきちんと寝ているかどうかを把握することはできませんでした。具体的な数値が出ることで、生徒と睡眠や生活習慣についての話がしやすくなりました」(永山校舎長)

今回の導入は子どもたちに睡眠の重要性を教える大きな機会となった。また、学習結果と紐づいたデータを見せることで、保護者の関心を高めることもできる。

集中力の上がらない原因の根本は、生活習慣にあることが多い。勉強を指導しようと思えば、生活習慣まで踏み込んでいかざるをえないのが実情だ。永山校舎長は今回の「眠育」プログラムについて、「具体的な数値があれば、生徒とより深い話もできますし、改善もしやすいと感じます」と話す。

生徒2人に「眠育」プログラムをトライアル導入し、生活習慣の改善を指導(左は永山校舎長)

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ビジネスデザイン部 オープンイノベーション推進室

山下、中村、松浦
Tel:06-4793-5539
MAIL:peels-ml@west.ntt.co.jp

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