2017年3月号

クリエイターの視点

21世紀の産業は「観光」 日本のemptyという美意識資源

原 研哉(デザイナー、日本デザインセンター 代表取締役社長)

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世界中で移動する人々の数が増える21世紀の産業は、観光ともいわれる。気候や風土、文化、食は世界共通の観光資源で、日本はその資源に富んでいる。今後は、ハイテクと美意識資源、国土をどのように融合させるかが課題となる。

原 研哉(デザイナー、日本デザインセンター 代表取締役社長)

21世紀の産業は観光

日本は高度経済成長を経て、現在は成熟の時期を迎えている。この成熟をどのようにしていくかが課題となる中、世界で活躍するデザイナーの原研哉氏が関心を持つのは「移動する人の数」だ。

1960年ごろの世界では、飛行機や船を使って移動する人々は1億人程度だったが、現在は11億人に増加した。この数はさらに、2030年ごろには世界人口の4分の1にあたる18億~20億人になるとみられる。このような背景から、20世紀の産業は製造業であったが、21世紀の産業は観光になるともいわれている。

「気候や風土、文化、食は世界共通の観光資源ですが、細長い島国の日本では、これらが変化に富み、観光資源は豊富です。世界を遊動する人たちに、自分たちの特徴をどう出していくか。そのためには、日本の『日本らしさ』とは何かを考えなくてはなりません」

原研哉氏がディレクターを務めた「HOUSE VISION 2 / 2016東京展」。12軒のまだ「見たことがない家」が具体化され、展示された

emptyという美意識資源

ユーラシアの東端にある日本は、世界の文化の影響のるつぼで、かつて世界に満ちていた豪華絢爛な文化を享受していた。室町時代後期に、それが一変した。15世紀半ばに起きた応仁の乱によって生じた多大な文化的損失によって、日本文化は一度リセットされ、「冷え枯れた風情」すなわち「侘び」のような美意識が生まれてきた。

「私はこれを“empty(からっぽ)”と言っています。西洋では約150年前に“simplicity(簡素)”という概念ができましたが、日本人はそれより数百年も前から簡素、簡潔なものに囲まれていました」

例えば、原氏がアートディレクターを務めた無印良品の製品は、究極の自在性を顧客に与えるべく簡素、簡潔に作られており、simplicityではなくemptyの特徴を持つ。原氏によれば、西洋的なsimplicityの代表格はドイツのヘンケルのナイフで、人間工学を考え抜いたデザインは、手にフィットして使いやすい。一方、emptyの代表格は日本の柳刃包丁で、持つ柄の部分は棒切れのようにプレーンだ。

「柳刃包丁のプレーンな柄で、日本の板前の超絶した技術を受け止めるのです。用途によって、持つ位置も変えることができます。このような自在性は、西洋のsimplicityとは異なります。emptyという美意識資源に基づくコミュニケーションは、日本のコミュニケーションの原型だと思います」

「家」は産業の交差点

「21世紀の産業は観光」といわれる中で、日本の課題となるのは、“ハイテク”と“伝統的な美意識資源”、“国土”をどのように融合させていくかだ。

「今後の日本で面白いのは、ハイテクが背景化していくことです。特に人間の身体に接するところで機能するハイテクは、日本が進化させることのできる領域でしょう。日本の物流や宿泊サービス、車なども、世界的に見て興味深いと思います」

中でも人間が住む「家」は、移動やエネルギー、通信、高齢化社会、そして日本の伝統的な美意識を担ぎ出すという意味でも重要だ。

原氏がディレクターを務める展覧会「HOUSE VISION」では、「家」を様々な産業の交差点、あるいは未来を投影する理想的なプラットフォームと捉え、まだ「見たことがない家」を具体化する。

「現代のデザイナーの役割は、見栄えのいいブランドイメージを作ったり、きれいなプロダクトデザインをするだけでなく、産業の潜在する可能性をビジュアライズしていくことにあると思います」

昨年夏に開催された第2回となる「HOUSE VISION 2 / 2016東京展」では、産業界をリードする様々な企業が建築家やデザイナーと組み、12軒の「家」を具体化させた。

例えば、世界のシェアリング・エコノミーをリードするAirbnbは、建築家の長谷川豪氏と組んで「吉野杉の家」を造った。

吉野杉で知られる奈良県吉野町では過疎化が進み、地域の人々と外部から訪れる人々の新たな関係創出がテーマとなっている。「吉野杉の家」は、東京での展示終了後、奈良県吉野町へと移設される。吉野杉を使った家の1階は地元のコミュニティに開放し、住民が自由に使えるスペースとした。そして、2階の屋根裏部屋は外から訪れた人々が宿泊できる空間とし、街の人々が、外から街を訪れる人々とダイレクトに交流できるようになっている。

アイデアを話し、構想を膨らませる

半島を海難救助艇で回遊する「半島航空」

地域の「遊動」を促進するのもアイデア次第。原氏は、移動による地域活性化のアイデアとして「半島航空」という構想を話した。

海上自衛隊の「US-2」は、海上にも降りることができる海難救助艇。これを平和利用すれば、ひなびた漁港もすべて空港になるという。

「日本各地にある半島の先は過疎地域といわれますが、かつて海を越えて文化がやってきた時代にはアンテナとしての役割がありました。羽田から出発し、そのような痕跡を残す各地の半島を回遊する新しい移動インフラを構想しています。西回り、東回りが2日で1周ずつ。これを想像してみてください」

原氏は「アイデア、構想を自分の中に留めておかず、たくさんの人に話すようにしています。共感して一緒に進めてくれる人が現れたり、アイデアを膨らませる意見をくれる人もいるからです」と話す。

日本の変化に富んだ国土や、伝統文化の厚み、世界の注目を集めてやまない食、最先端の技術や建築、よく練られたマーケティングをうまく融合させられれば、21世紀に「遊動」する世界の人々を惹きつける構想も生み出せるだろう。

原 研哉(はら・けんや)
デザイナー
日本デザインセンター 代表取締役社長
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