農山漁村ランナーズ・ヴィレッジ™化構想

ランニングは、最も手軽にできるスポーツの一つで国内外問わず、競技人口が多い。全国各地のなんでもない「道」は、ランナーの健康志向やグリーンツーリズムへの関心も相まって、有力な地域資源となる可能性を秘めている。

 

 

趣味のためなら人は行動を起こす

いつでも、どこでも、手軽に楽しめるスポーツとして近年、日本でも愛好者を増やしている「ランニング」。日本のランニング人口は1000万人とも言われ、「東京マラソン」の抽選倍率は10倍を超えると言われています。

ランナー人口の増加に伴い、東京に限らず、各地域の主要都市、さらに各市町村の自治体がそれぞれの自然や歴史などの観光資源を生かした、ユニークなテーマのマラソン大会も多く開催されてきました。

貴重な休日を使いマラソン大会に、参加するためにわざわざ遠征するのも、趣味のため、自分の好きなことのためなら人は動くから。たとえ普段の生活にかかる経費は節約し、効率を心がけて行動し“時短”を心がけていたとしても、趣味に対しては財布の紐も緩むもの。時間の投資も惜しまないと考える人が多いのではないでしょうか。

月刊『事業構想』2014年12月号では、「地方創生・実現に向けた提言『仕事創造と観光創造』が重要に」と題する寄稿を掲載しています(事業構想大学院大学理事長で宣伝会議・代表取締役会長の東英弥著)。この寄稿で提言していたのが「趣味の街」という構想。「誰でも好きなことには夢中になれます。全国の市町村の独自の魅力や知財、地域の風土や地形、伝統を活かして、鉄道の街、陶芸の街、テニスの街、読書の街、アニメの街など、無限にコンセプトをつくることができます......」(当該記事より一部引用)。

ランニングも数ある趣味の一つ。しかも1000万人と言われる愛好者の数を考えれば趣味・スポーツの中でも、市場規模が大きいと言えるでしょう。全国各地でご当地マラソン大会が開催されるのも、うなずけます。

ランニング愛好家の行動を喚起する手段は、マラソン大会というスタイルだけに留まらないのではないか。日常的に、もっと気軽な移動を促す、より容易にランナーを受け入れられる構想があれば、「趣味の街」の一つとしてランニングを地方創生に役立てられるのではないか。そんな発想から企画したのが「農山漁村『ランナーズ・ヴィレッジ化』構想」です。

健康志向のランナーと農村体験の親和性

一言で説明してしまえば、全国の農道・漁村・山村の道を簡易のランニングコースにして、ランナー誘致を図ろうというのが構想の主旨です。マラソン大会は当然、開催日も場所も決まっていますが、もっと自由に自分の行きたい時に行きたい場所で気軽に自然や歴史的名所を楽しみながら、ランニングを楽しめる機会をつくれれば、新しい人の移動を生み出せるのではないか。近年、農漁村の活性化が地方創生の施策の一つのテーマになるなかで、グリーンツーリズムや農業体験も組み合わせた提案をすることで、ランナーに特化した農漁村誘致を図れないだろうか、と考えています。

そもそも趣味でランニングを楽しむような人たちは、健康意識が高く、自然や農業体験、収穫したての一次産品...といったグリーンツーリズムが提供する価値に魅力を感じやすい層と言えます。グリーンツーリズムや農業、漁業、林業体験を活性化するためのマーケティング戦略を考える際、戦略的なターゲットになりうるのではないでしょうか。

高齢化に伴う医療費の高騰を受け、国民の健康増進も地方創生と並ぶ日本の課題ですが、「農山漁村『ランナーズ・ヴィレッジ化』構想」は、地方創生のみならず、課題も同時に解決するアイデアと考えています。

スポーツを通じて地域発信「スポーツ観光トレーナー」

それでは、どのように全国の農道・漁村や山村の道をランニングコース化していくのか。このために、わざわざ新しい道をつくる必要はないと考えています。この構想のキャッチフレーズは「なんでもない道が、わざわざ行きたい道になる」。休憩所、ロッカー、給水所、万一の時の緊急呼び出しボタンなどの簡易設備は必要ですが、それ以上にそれを運営する「人」の育成が基盤になると考えています。

コースの選定、ランナーに必要な簡易施設の設置に始まり、地域の中で「ランナーズ・ヴィレッジ」構想を企画・運営していく人材を育成する。「スポーツ観光トレーナー」という名称で、そのカリキュラムも企画しています。

カリキュラムは「ランニングコースの設置の基本マニュアル」、「ランニング事業継続のための運営マニュアル」、「地域の自然、文化、歴史への理解と訴求方法」、「ランナー誘致に必要な販促・集客などマーケティングのノウハウ」、「サービス開発と提供の基本(サービスマーケティング)」、「スポーツ・健康に関する知識」、「地域住民と観光ランナーの橋渡し役を担うためのコミュニケーションスキル」などの項目で作成しています。

地域の自治体の中にもランニングを始めとするスポーツを愛好する人が一人はいるはず。趣味で訪れる人に相対するには、仕事の義務として向き合う人より、自分も楽しみながら取り組める人の方が向いていると考えています。ここも「趣味の街」提案とつながります。そして、その役割を通じ、スポーツの知識だけでなく、自らの住む地域を深く知り、その魅力を発見し、どう伝えていけばよいかを考える。マーケターとしての素養も養えるような機会をつくれないだろうか、と構想しています。

「ランナーズ・ヴィレッジ」の着想は、数年前に仕事で訪れた長野県のある町の「道」を見たことがきっかけでした。穏やかな木漏れ日が降り注ぐ、山林の中の1本道。大学の陸上部が合宿に訪れ、その道をランニングコースとして利用していると聞き、「この道を自分も走ってみたい」と思いました。つまりは一人のランナーとしての実感が基点になっています。この個人的な体験が、「趣味の街」という構想と出合ったことで、事業構想大学院大学としての一つの体系的な考えに昇華しました。風に揺れる稲穂の真横を走る、香りも楽しみながらハーブ畑の道を走る、青空の下、サトウキビ畑を見ながら走る、漁村ののどかな風景を楽しみながら走る...など、発想は広がります。

コースの難易度と地域資産の組み合わせで、各農村・漁村・山村の多様な魅力が発信できるはず。南北に長く、四季折々の自然を楽しめる日本だからこそ、季節ごとに変わる農村・山村・漁村の姿が、ランニングコースに花を添える魅力的な観光資源として活用できるのではないでしょうか。

Photo by Adobe Stock

 

ランナーズ・ヴィレッジ公式サイト
(お問い合わせは、編集部まで。tel 03-3478-8402)

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