2015年10月号

防災対策の新提案

首都直下型地震では津波よりも火災が危険 大規模火災への対策

室崎益輝(兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうご震災記念21世紀 研究機構副理事長)

0
​ ​ ​

過去に日本で起きた震度6以上の地震では、わずかな例外を除き、大規模火災が発生している。これを防ぐには事前に危険な場所や箇所を察知し、そこから火を広げない方策が求められる。中でも火災原因の中で件数の多い「電気火災」を防ぐことがポイントだ。

「震度6」がもっとも燃えやすい

次に起こるとされる首都直下地震や南海トラフ地震では、どのような火災が起き、どのような被害がもたらされるのか。兵庫県立大学防災教育研究センター長の室崎益輝氏は「直下型地震の場合には津波よりも火災が怖い。特に震度6前後での火災が危険」と語る。

「実は震度6くらいのときが、大規模火災が起こりやすいのです。建物が崩壊していないため、空気の流通がはかられ、激しく燃えやすい。関東大震災でも、全壊率の高かった鎌倉や小田原では意外にも火災被害が少なかったのです」

地震時に燃え広がると、延焼スピードは時速200~300mにもなる。関東大震災で激しく燃え広がった地点は時速800mといわれる。火災が時速100mを超えると逃げ切れず火災に巻き込まれる人がでてくる。

「阪神・淡路大震災当時はほぼ無風で、延焼スピードも時速40m程度。人も逃げることができ、亡くなった焼死者も500人ほどと少ない。しかし、関東大震災で焼けて亡くなった人は9万人です。台風が近くにあり、秒速10mほどの風が火災を拡大させました」

もし阪神・淡路大震災時に、風があったらどうなっていたのか。被害が少なく済んだのは偶然でしかなく、大規模火災を防ぐ手立ては必要だ。

阪神・淡路大震災では神戸市中心部で大規模な火災が発生

高層にある防火設備は要注意

室崎氏は、地震時には大規模火災が起きやすい場所が生まれると語る。地震によって「出火しやすい環境」「消火しにくい環境」「延焼しやすい環境」が生み出されるからだ。

「出火原因は火源、着火物、経過で説明できます。火源とは例えば、地震での停電から通電時に起こる火花であり、着火物は漏れているガスなどです。経過とは火が燃え広がる過程のこと。出火しやすい環境とはこれらの条件が重なる場所を指します」

消火しにくい環境とは、家屋の倒壊や道路の損傷で消火活動ができなくなることだ。延焼しやすい環境とは、例えば地震で防火壁や防火区画が壊れたり、建物が倒れ込んで隣との距離が近くなって、燃え移りやすい環境がつくりだされることだ。震災でこれらの条件が重なった場所では、木造家屋が次々と燃え、高さ30m、幅300mもの巨大な炎となって人々を襲った。では関東大震災のようなことが、今でも起きる可能性があるのか。

「関東大震災で大きな火事が起きたのは今の墨田区ですが、その本所、深川、浅草の当時の市街地地図を、今の新宿から吉祥寺への市街地地図と比べると、今のほうが木造住宅が密集し、面積もはるかに広い。だから関東大震災が再現されると考えたほうがいいです。その危機感を持つべきです」

ここで人の命に係わる数字は、何棟燃えたかではなく、燃え広がるスピードだ。

「関東大震災の火災の密度は間隔が500mほど。そこで延焼速度が毎時200mとすると1時間で両サイドから燃え広がり、残りは100m以下となります。すると間を通り抜けられなくなり、火に囲まれて多くの人が亡くなることになるのです」

また、最近は高層の建物が増えているが、室崎氏は地震時には通常の防火装置が働かなくなる危険があると語る。例えば、阪神・淡路大震災の時は、高層階のスプリンクラーの約8割が地震動のために使えなくなっている。

「法律ではスプリンクラーに耐震性は要求されておらず、高層ビルの上階は揺れが大きいために故障する可能性が高くなります。防火扉も地震で閉まらなくなる可能性がある。事実、阪神大震災で6階建てマンションの防火扉が閉まらず、火が回って亡くなった方がいました」

地震時の大規模火災を誘因する3つの要素

消火しにくい環境

  1. 地震や津波とそれによる家屋の倒壊や道路の損傷などにより、市民や企業の消火活動も消防団や常備消防の消火活動も困難になる環境になる

 

  1. 具体例
  2. ・激しい揺れで行動の自由を奪われ初期消火ができない
  3. ・倒壊家屋の中に閉じ込められてバケツリレーなどに参加できない
  4. ・断水に加えて消火栓なども損傷し消火用水が得られない

 

延焼しやすい環境

  1. 延焼を防止するための防火被覆が破壊されてしまう、安全隣棟間隔が確保できなくなってしまう環境になる

 

  1. 具体例
  2. ・路上に倒れ込んだ家屋や路上に放置された自動車が延焼媒体になる
  3. ・熱気流や津波などで火源や火種が遠方まで運ばれる
  4. ・常備消防や消防団等の活動が様々な理由で阻害され、炎上火災を鎮圧することも制御することもできなくなる

 

出火しやすい環境

  1. 地震や津波によって出火原因である「火源、着火物、経過」の3要素が増幅され、通常よりも火災が多発する環境となる

 

  1. 具体例
  2. 地震停電後の通電より火花が飛ぶ
  3. ・引き伸ばされた電気の配線が短絡で発火する
  4. ・ガス管やガスボンベの破断で可燃ガスが噴出する
  5. ・逃げようとしてストーブが倒れたり、神棚のローソクがお供えの上に倒れこむ

 

停電からの復旧時こそが危険

では大震災時に火災にどう備えればよいのか。個別で備える上で効果的なことは、件数が多い電気火災に備えることだ。総務省消防局の平成23年火災年報(別冊)によれば「東日本大震災での火災原因の約50%が電気火災によるもの」となっている。

「特に電力の停電からの自動回復時に火災となる“復電火災”は注意が必要です。ガス漏れしているところに、蛍光灯などの火花が出る機器があると引火してしまいます。これを防ぐ対策としては、地震の振動で電気を遮断できる感震ブレーカーの設置が有効です」

感震ブレーカーは感震器で検知した地震信号が、設定以上の震度になった場合に配線用または漏電ブレーカーを遮断し、電気を自動遮断する。非常に効果的で、大がかりではないため費用も安価だ。

また、地域での防災では火災の被害想定をきちんと行うことが重要と室崎氏は語る。これには3つの目的がある。

「一つ目は災害に対する正しい危機感を持つための“意識啓発”。二つ目は災害を時系列的に予測し緊急に対処すべきニーズを把握する“予測情報”。三つ目は事前対策が被害軽減にどの程度効果があるかを確かめる“対策評価”です。被害を想定した上で的確な防災計画を練ることが求められます」

ここで室崎氏は注意点として、市民消火率を正しく見積もることを上げている。

「市民消火率を高く見積もると備えが疎かになります。市街地ではバケツリレーで火は消せると言う方もいますが、火災が大きくなれば無理。かえって人を危険にさらします。それより、消火ポンプが扱えるといった一定の消火能力のある防災組織をつくっておくことが有効です」

地震時に火災は起きるとしても、それを最小限の被害に留めることはできる。今はそのための備えが求められているのだ。

室崎益輝
兵庫県立大学 防災教育研究センター長
ひょうご震災記念21世紀研究機構 副理事長
0
​ ​ ​

バックナンバー

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

以下でメルマガの登録ができます。

購読申し込みで全記事が読める

2018年4月号「SDGs×イノベーション」完売!

会員になって購読すれば、バックナンバー全記事が読めます。PC・スマートフォン・タブレットで読める電子ブックもご用意しています。

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる