横浜市が企業との共創で実現 災害時の新しい地図の使い方

地図は、災害発生時の情報収集や対応方針の決定に必要不可欠なものだ。横浜市はゼンリンと協定を結び、被災者支援やインフラの早期復旧にむけた地図の新しい使い方を検討している。横浜市が考える、地図の可能性とは。

ゼンリンでは自治体が抱える課題を官民連携でどのように解決に導いていくか、実際の事例を通じて紹介している。(http://www.zenrin.co.jp/autonomy/

横浜市とゼンリンは災害時対応の迅速化に向けて、医療調整や物資などの目的別に11種類の地図を作成した

横浜市は371万人の人口を擁する全国最大の政令指定都市であり、市民の生命や財産を災害から守ることは、最重要の行政課題だ。市は東日本大震災を教訓に、防災計画を抜本的に修正するなど、災害対応力の向上や被災者支援の充実に取り組んできた。その一環として、2013年9月には国内最大手の地図情報会社ゼンリンと「災害時における協力関係を構築するための協定(以下、協定という)」を締結した。

地図はあらゆる行動の礎に

陸上自衛官として36年間勤務した危機管理のプロフェッショナルで、2013年から横浜市総務局危機管理室緊急対策課の担当課長を務める三原光明氏は、ゼンリンとの協定締結の狙いを次のように説明する。

「地図は災害発生時のあらゆる行動、計画の基本となるものです。とくに、ゼンリンの住宅地図は緻密な調査によって作成され、住民一人ひとりがどこに住んでいるのかまで掲載されています。すでに危機管理だけでなく市のさまざまな業務に活用されていますが、協定を契機に連携を深め、災害時の新しい地図の使い方などのソーシャルイノベーションを起こそうと考えています」

協定によって、横浜市は災害発生時に直ちに行動を起こせるよう、ゼンリンから事前に地図(住宅地図や広域図、電子地図など)の提供を受ける。さらに、横浜市の地図に対するニーズとゼンリンの技術やノウハウをかけ合わせて、災害発生時に職員が対応をスムーズに行えるようにゼンリンと連携し訓練を行っている。

災害発生時の情報収集や対応方針の決定に、地図は必要不可欠なものだ

機能別の地図を「共創」

「東日本大震災を教訓に、横浜市は災害対策本部の中に、機能別の17のチームをつくりました。救出救助や帰宅困難対策、物資などのチームがあり、それぞれの機能ごとに地図の利用目的も異なるのですが、従来の地図では情報量が多すぎるという課題がありました。そこでゼンリンの協力のもと、チームごとに最適化した地図を作成し、訓練などに活用しています」。例えば医療調整チームでは「病院」「緊急輸送路」「ヘリポート」、物資チームでは「地域防災拠点」「物流拠点」などの情報を地図上に強調した。これまで11種類の目的別地図を作成している。

下水道事業では、電子住宅地図を下水道管被害の情報共有に役立てる仕組みを考案した。このほかにも、土地勘のない市外からの応援部隊でも位置情報を即座に把握・共有できるよう、UTM座標系グリッドを表記した地図を作成するなど、色々なアイデアが具現化してきている。

また、災害図上訓練(DIG)にも意欲的だ。DIGとは住民が地図上に避難所、病院、危険な場所などを書き込み、自身の災害リスクを知る訓練だ。ゼンリンの地図は細かい道路や建物形状を知ることができる。自治体から発信するハザード情報をより自分ごとに感じてもらうためには、各自が災害図上訓練を気軽にできるようにしたいと両者で議論が進む。

今回の災害時協力協定は、横浜市の公民連携に関する提案受付窓口である「共創フロント」にゼンリンが提案したことがきっかけだった。「横浜市は企業との共創を重視していますが、連携の決め手は、地域や日本をより良くしようという“志”です。ゼンリンはそうした志を持った企業なので成果が生まれたのだと思います。“志”を基にこれからも取り組みを続けたいと思っています」

迅速な災害時対応に向けた電子住宅地図の活用

横浜市環境創造局は、過去の災害時支援の経験より、下水道管等の被害状況調査の効率化が必要だと感じていた。

  1. 【これまでの災害時の下水道管調査】
  2. (1)住宅地図や下水道台帳等複数の紙情報を用い調査計画を立て、実地調査
  3. (2)現地で、調査表に被害状況を手書きで記入
  4. (3)夜間調査表をデータ化、整理し本部に報告

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