デザインワークショップからイノベーションは生まれるか?
日本でもデザイン思考に関する周知は進んでいるが、実際に導入に成功し、イノベーションを起こしている企業はほとんどない。その理由は何だろうか。KIRO(知識イノベーション研究所)代表で多摩大学大学院教授の紺野登氏が解説する。
ワークショップからイノベーションは起きるか?
観察、概念化、プロトタイピング、ストーリーテリングといったプロセスをベースとしたデザイン思考は、イノベーションを生み出すための方法論として日本でも広く知られるようになった。
今言われているデザイン思考は、もともとアメリカのデザインコンサルティング会社IDEOの創業者のひとりでインタラクションデザインの提唱者でもあるデザイナー、ビル・モグリッジと、同じくエンジニアのデビッド・ケリーが、インタラクションデザインとエンジニアリング的思考を掛け合わせてイノベーションに活かし始めたところからスタートしている。ここから、ユーザーの行動を観察するエスノグラフィやブレインストーミングを用いる現在の方法論に進化していった。これが定着し、昨今ではデザイン思考のトレーニング・ワークショップがあちこちで大盛況だ。
しかし、ひとつ疑問がある。
それで本当にイノベーションは起きているのだろうか?
恐らく、起きないだろう。
デザイン思考はあくまでツール
デザイン思考は便利な手法でもあるが、それだけやっていても意味がない。ポストイットをたくさん使って、ブレインストーミングをして、参加者を楽しませることはできるが、結果的にツールを学んだだけで何も生み出していない、ということが多い。
なぜ、こうしたデザイン思考のセッションからイノベーションは生み出せないのか?
ひとつには、デザイン思考の流行によってエスノグラフィやデザインの専門家ではない人がワークショップで講師を務めているという現状がある。これに対し、パーソナルコンピューティングの父として知られるアメリカの著名な科学者、アラン・ケイは「小学5年生に、数学のバックグラウンドを持っていない先生が算数を教えているようなもの。それでは数学をつまらなくさせてしまったり、子どものクリエイティビティを引き出すことができなくなる。デザイン思考をするなら、リアルなデザイナーが必要だ」とコメントしている。
私も同感だ。本来デザイン思考は知識創造のひとつのバリエーションであり、しっかりとした骨組みを持った有用な理論である。これまでの分析的な経営思考やモノづくり主導の経営に対応し、これからのビジネスの中心的な思考になるものだ。
これから企業やビジネスのあり方が総合的に変わっていく中で、ひとつの部品になる。これを単なる流行で終わらせてはいけない。本質の理解が必要だ。
目的発見の重要性
デザイン思考を実践するうえで最も重要なのは、何のためにデザイン思考をするのか、という「目的」(purpose)だ。それが欠けている場合が多い。どの会社もイノベーション、イノベーションと叫んでいるが、大半は目的がない。そう指摘すると、たいてい反論を受ける。
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