2014年10月号

防災計画

共助を育む「地区防災計画」

西澤雅道(内閣府 規制改革推進室 総括補佐(前 内閣府政 策統括官(防災担当)付普及啓発・連携担当参事官 室総括補佐))

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地域コミュニティを軸とした、新たな防災力を強化するために創設された「地区防災計画制度」。この制度は、(1)地域住民や事業者のボトムアップ型の計画であること、(2)地区の特性に合わせた計画が立てられること、(3)計画に基づく防災活動の実践・継続・見直しを重視していることに特徴がある。その背景にあったのは、過去の災害で発揮された「共助」の重要性だった。

国民が重点を置くべきだと考えている防災政策

内閣府「防災に関する世論調査」(2014)より

阪神・淡路大震災でも「共助」が活躍

2014年4月に地区防災計画制度が施行された。この制度は、災害対策基本法に基づき、地域コミュニティの住民及び事業者が共同して行う自発的な防災活動に関する計画のために整備されたものだ。

防災対策・災害対応を考えるうえで重要なことは、自助、共助及び公助をいかにうまく連携させるかということである。自助とは、自らの命は自らが守る、または備えること。共助は地域コミュニティの人々が互いに助け合い地域を守る、または備えること。公助とは、市町村、警察、消防等行政による支援活動のことである。

地区防災計画制度がつくられた背景には、東日本大震災の教訓を踏まえ、大規模広域災害に対応するためには、自助、共助及び公助をうまく連携させることが重要であることが、世の中に強く認識されたことがある。その教訓を踏まえ、2013年の災害対策基本法の改正では、自助及び共助に関する規定がいくつか追加されている。

共助の重要性は、1995年の阪神・淡路大震災でもクローズアップされている。2013年の災害対策基本法改正の際に、「地区防災計画制度」の創設に携わった西澤雅道氏はこう語る。

「地震によって倒壊した建物から救出され、生き延びることができた人の約8割が、家族や近所の住民等によって救出されたというデータがあります。別調査でも自力で脱出したり、家族や友人、隣人によって救出された割合は9割を超えています。救助隊によって救助されたのは1.7%。当時から共助の重要性は指摘されていました」

西澤雅道 内閣府 規制改革推進室 総括補佐(前 内閣府政策統括官(防災担当)付普及啓発・連携担当参事官室総括補佐)

「自助、共助及び公助」のバランスが重要

東日本大震災では行政が被災し、被災者を支援することができなかった地域もあり、自助・共助による活動に注目が集まった。例えば、岩手県釜石市では、発災時に、児童が日頃の防災教育を思い出して、自発的に避難し、その影響を受けて、多くの住民が避難活動を行った例が有名である。また、地域コミュニティが一緒に避難したり、避難所の運営をするなど、さまざまな自助・共助の例が見られる。

国民の意識も変化しており、2013年11月~12月に内閣府が実施した「防災に関する世論調査」では、国民が重点を置くべきと考える防災政策に関する質問で、「公助に重点を置くべき」という回答は8.3%となり、2002年に比べ16.6ポイントも減っている。

「逆に増えたのは、『公助、共助及び自助のバランスが取れた対応をすべき』という回答です。こちらは56.3%と18.9ポイントも増加しています。この変化には東日本大震災での体験が影響していると思われます」

地域コミュニティにおいて、自助・共助による地域防災力の強化が重視されているが、これまで地域防災力の中核を担ったのは消防団だった。消防団は今どういう状態なのか。

データによれば全国の団員数は減り続けており、1989年に100万人だったが、2013年には86.9万人と大きく減少。30代以下の団員も6割を切るなど、団員の平均年齢も上昇している。

この点も、新たな形での地域コミュニティにおける防災力が必要とされる要因となっている。

地区防災計画作成への流れ

内閣府 地区防災計画ガイドラインより

 

地区防災計画提案の流れ

内閣府 地区防災計画ガイドラインより

住民が計画し、行政に提案

地区防災計画は、その手法でも3つの新たな試みを行っている。1つ目は住民が主体となるボトムアップ型の活動で、地域防災力を高めようとしている点だ。

これまでの防災計画には、内閣府の中央防災会議が決定する「防災基本計画」、指定行政機関・指定公共機関が決める「防災業務計画」、都道府県や市町村の防災会議が決める「地域防災計画」があったが、どれもトップダウン型だった。そこで、2013年の災害対策基本法改正において、地域コミュニティレベルでの防災活動を促進し、ボトムアップ型で地域防災力を高めるため、この制度が創設されている。

2つ目は、地域に詳しい住民及び事業者が作成する計画であるため、「地区の特性に応じた計画」をつくれることができる点だ。

さらに、3つ目は、単に計画を作成するだけではなく、計画に基づく活動の実践、定期的な評価や見直し、活動の継続などによる「継続的に地域防災力を向上させる計画」にできるというメリットがある。

「この制度の画期的な点は、地域コミュニティの住民や事業者が、計画案をつくり、行政に提案することができることにあります。行政は提案を受けたら、地域防災計画にそれを入れるよう努力する。これは計画提案と言われており、初めて防災分野でこのような提案制度が生まれました」

このようにすることで、どの地域も同じ内容の防災活動を行うのではなく、それぞれの地域に合った防災活動を行うことができ、また、市町村全体の活動と地域コミュニティの住民や事業者の活動がうまく連携することによって、地域防災力を底上げすることができる。加えて、住民等が、毎年見直しをすることになっており、「いざというとき」に使える防災計画として維持することができる。また、計画が作成されてから年月を経ると、活動メンバーの年齢が上がり、活動内容に変化が生じる場合もあり、各住民等の実態に合わせた防災計画が求められている。

主な訓練の例

内閣府 地区防災計画ガイドラインより

いざというとき、頼れるのは「人間関係」

新たに防災に組み込まれたボトムアップ型の手法だが、それをスムーズに進めるには、どのような配慮が必要なのだろうか。西澤氏は、行政がコミュニティをつくるのではなく、すでにあるつながりを活かすべきだと語る。

「地域コミュニティの防災活動を考えるときは、そこに地域住民等の方々による自発的な活動の雰囲気がなければうまくいきません。市町村の担当官の方が『やりなさい』というから渋々やるのではなく、地域コミュニティの方々が自ら『やろうよ』と思う気持ちが大切です。そのためには、担当官の方には、地域コミュニティの自主性を尊重していただきたいですし、地域コミュニティで『やりたい』という声が上がったら、すぐに応えられるような体制を整えておいてほしいと思います」

地域コミュニティによい関係性があれば、助け合いは自然に生まれる。地区防災計画は、計画づくりが、地域コミュニティの人間関係づくりのきっかけにもなり得るもので、その連携をうまく活用することも重要だ。

また、この計画には、地区の広さが決められていないという特徴もある。コミュニティさえあれば、町内レベルの小さな集まりから万人単位の計画まで、カバーすることが可能だ。国の法制度で、広さを自由に設定できる点は画期的といえる。

「私が制度について相談を受けたときは、自分たちにとって『コミュニティはどこまでなのかを決めてください』とアドバイスしています。いざというときに役立つのは、やはり人間関係です。地域コミュニティ自らが、その範囲を決めることに大きな意味があります。地域コミュニティのネットワークや信頼感、それに互酬性と呼ばれるお互い様の意識こそがソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の要素だといわれますが、そのような関係は地域の重要な資産だと思います。このような資産を大切に育て、いざというときに活用しなければなりません」互いを助け合う高い意識を持つことが、地域コミュニティの活性化を促した例も多くある。防災活動をきっかけに地域コミュニティの一体感を生み出し、それをまちづくりに活かしたいと考える自治体も出てきている。まさに人間関係は地域における宝といえる。

15地区を対象にした「地区防災計画モデル事業」

内閣府では、コミュニティレベルで防災活動に取り組む地区を選定し、地区防災計画の作成及び訓練を支援している。その事例を広くPRするため、2014年度からモデル事業を開始。公募での選定では、地域特性、社会特性、過去の災害対応、想定災害、市町村との連携の状況、住民などの準備状況を総合的に勘案し、2014年11月に15地区が決定した。ここでは4地区の例を紹介する。

  1. 岩手県大槌町安渡(あんど)地区

日本初の地区防災計画を策定

安渡地区は東日本大震災によって犠牲者218人(地区人口比11.2%)という甚大な被害に見舞われた。過去、数度の津波被災経験もあり、町内屈指の防災活動が活発な地区と評されながら、大きな被害が出たことを教訓に、「安渡町内会防災計画づくり検討会」を創設して、住民自らが町と連携して津波防災計画を策定。2013年に日本初の地区防災計画である「安渡地区津波防災計画」を定めた。

安渡では、昭和三陸地震津波を教訓として、「避難」を、避難誘導に限定せず、続く「避難生活」と連動させて考えていくこととし、東日本大震災以前から訓練を重ねてきたことから、この度の地区防災計画でも避難行動と避難所運営がセットで検討された。

同計画は、避難行動と避難所運営についての東日本大震災の教訓とルール(行動規範)、安渡町内会の防災組織体制及び今後の予防対策の3章構成となっている。避難行動のルールとして自助の強調、率先避難・同伴避難の勧め、マイカー避難の許容条件の検討、要援護者支援の条件設定、低地再入場抑止など、時系列に12項目が掲げられた。

避難所運営のルールも同様に、町内会による避難所開設判断の容認、避難所運営本部の組織体制のあり方、できる限りの在宅避難の勧めとこうした在宅避難者への支援の充実、要援護者等への各種優先対応等、23項目に分けて検討された。

これら計画の内容検証のため2014年以降毎年3月に、「安渡町内会・大槌町合同防災訓練」が実施され、訓練の直後には「検証会議」が開催されて訓練の成果と課題が抽出され、それらが再び検討会に附されて議論され、同計画が加筆修正されるPDCAサイクルが効果的に回りはじめている。

  1. 福島県桑折町(こおりまち)半田地区

原発被害を受けた避難想定、医療機関とも連携

桑折町は東日本大震災では地震被害に加え原発被害も受けている。そのため、桑折町では総合計画として「復興こおり創造プラン」を策定。震災対応を検証し、原発関係を含めた災害などの緊急事態における安否情報の確認や支援を効果的かつ円滑に行えるよう、民生委員や町内会等と連携して情報収集を図り、要援護者のきめ細かい把握(台帳等整備)に取り組んでいる。

また、医療機関や各種団体、関係事業所等とのネットワーク化を図っている。2013年10月には桑折町地域防災訓練・福島県土砂災害合同訓練も行っている。

  1. 神奈川県横須賀市よこすか海辺ニュータウンソフィアステイシア自主防災会

高齢者等の個人情報を100%把握

1000名が居住するマンション「ソフィアステイシア」に、2005年自主防災会を設立。居住者の詳細な個人情報を世帯別・個人別に自己申告する「居住者台帳」を作成。災害時要援護者と一人暮らしの高齢者の情報を100%把握する。

また、東日本大震災の際には、全館が停電し、高層階の高齢者などへの生活物資支給で高校生が活躍したことから、2013年に中学・高校生によるジュニアレスキュー隊を結成。都市防災における新たな取組として注目されている。

  1. 石川県加賀市三木地区まちづくり推進協議会(三木地区自主防災会)

県を超えた避難計画

三木地区は福井県との県境近くに位置し、1948年の福井地震では犠牲者を出した経験を持つ。自主防災会では、県をまたいで被害が出た場合に備え、県を超えた連携を模索し、隣接する福井県と合同で防災計画を作成中であり、合同訓練も行っている。

大槌町安渡(あんど)地区
(左)大槌町安渡町内会自主防災計画検討会 出展:岩手大学地域防災研究センター
(右)アーカイブ化プロジェクトで収集した過去の写真と安渡町での津波の歴史 出展:岩手大学地域防災研究センター

(左)桑折町半田地区 出展:政府広報オンライン
(右)横須賀市 よこすか海辺ニュータウンソフィアステイシア自主防災会 出展:政府広報オンライン

 

※各地区の活動については、大矢根淳先生(専修大学)、川脇康生先生(兵庫県庁)、安部俊一先生(よこすか海辺ニュータウン連合自治会会長)、坊農豊彦先生(一般財団法人関西情報センター)から御教示をいただきました

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