現場トップは商社マン、バス会社と連携 「DMO」官民連携モデル

全国で「DMO」の設立が相次ぐなか、兵庫県豊岡市のモデルが注目されている。交通事業者や金融機関が参画し、事業本部長には商社出身者を招聘。民間の力を最大限に活かして、顧客視点のマーケティングを推進していく。

豊岡市は交通事業者などと連携し、6月1日にDMOを設立。顧客視点に立った商品開発を進めていく(左から2人目が中貝宗治豊岡市長)

DMO(Destination Management/Marketing Organization)の設立が日本各地で相次いでいる。DMOとは、団体旅行や旅行会社の送客に依存せず、地域が自らの力で観光客を呼びこむ(着地型観光)ために、戦略的なマーケティングやPR、品質管理等のマネジメントを行う組織である。2016年度にDMO設立準備予算を計上した自治体は多く、観光庁も設立支援を展開。4月22日時点で、観光庁にはDMO候補法人として61件が登録されている。

実行力のあるDMOを形成するには、官民の連携、つまり行政や観光協会、ホテルや交通などのサービス事業者、さらには一次・二次産業なども巻き込むことが大切になる。そのモデルケースと言えそうなのが、兵庫県豊岡市の取り組みだ。

豊かな自然を活かしたアクティビティや温泉などの観光資源を活かし、特に外国人観光客の戦略的な誘客に取り組む

データ分析に基づいた観光地マーケティングを推進

兵庫県の北東部に位置し、日本海及び京都府に接する豊岡市。関西随一の名湯「城崎温泉」、城下町として栄え“但馬の小京都”と言われる「出石」、コウノトリが生息する豊かな自然など、数多くの観光資源を持つ。豊岡市は人口減社会における経済活性化の方策のひとつとして、観光産業の育成に取り組んできた。特にインバウンド需要の取り込みを掲げ、2015年の外国人宿泊客数は3万4318人と、2011年との比較で30倍以上に増えた。

観光産業をさらに伸ばすために、官民協働で6月1日に豊岡版DMO「一般社団法人豊岡観光イノベーション」を設立。DMOではデータ分析に基づいた観光地マーケティングを推進するとともに、インバウンド事業にフォーカスした収益事業を展開。具体的には宿泊予約サイトの運営や、着地型ツアーの企画販売、豊岡ブランドの商品販売を行っていく。

法人の目的には「地域の稼ぐ力を引き出し、高める(地域事業者の売上・利益アップ)」を掲げ、目標として2020年に外国人宿泊客数10万人泊の達成を設定した。

交通事業者と金融機関が参画
事業本部長には商社出身者を招聘

豊岡観光イノベーションには、豊岡市のほか、民間からはWILLER CORPORATION(以下ウィラー)、全但バス、但馬銀行、但馬信用金庫が基金拠出する。

ウィラーは、全国で高速バス事業を展開。300万人以上の会員を有する予約サイトを運営し、ウェブマーケティング分野にも強い企業だ。全但バスは、豊岡市とその周辺地域で路線バス事業を展開し、城崎温泉駅前で観光インフォメーションセンター「SOZORO」を運営している。この2社と密に連携することで、コンテンツの開発や販売は大きく効率化されるはずだ。

但馬銀行と但馬信用金庫は、観光ビジネスの強化や参入を考える地域事業者に対して、金融を含めた事業化支援を行うことができる。

「顧客視点に立ったマーケティングを行っていくには、民間企業のノウハウ、スキルが必要です。各企業、金融機関には豊岡市からDMO参画を打診しました」と、DMOの設立準備に関わってきた豊岡市環境経済部大交流課の川角洋祐氏は言う。

法人の運営スタッフには、ウィラー、全但バス、但馬銀行に加えて、大手商社の三井物産、旅行代理店大手のJTBの社員も出向する。「このほかにデータ分析のプロ人材にも関わってもらい、各種観光データの収集・分析を強化し、戦略的な観光地マーケティングを展開していきます」

法人の理事長には中貝宗治豊岡市長が就任。実務の最高執行責任者(COO)である事業本部長には三井物産出身の田辺茂氏が就任する。田辺氏は北京や台北などアジアでの駐在経験が長く、商品やサービスの海外販路開拓に豊富なノウハウを持つ。中貝市長は会見で、「1からプロジェクトを立ち上げた経験を非常に多くお持ちで、その経験をDMOという新しい分野で活かして頂きたい」と期待を述べた。

隣接自治体との広域連携も計画

隣接する京都府京丹後市との広域連携にも取り組む。京丹後市は夕日ヶ浦海岸や久美浜といった風光明媚な自然が多く、すでに豊岡市との観光客の往来も多い。また、DMOに参加するウィラーが、京都府北部で京都丹後鉄道を運営していることもポイントだ。

「観光客にとっては、市域の境は関係ありません。ニーズに沿った商品開発をするためには、京丹後市と連携していくことが必要と考えています。京丹後市にはDMO担当者を配置して頂き、会議にも参加してもらう予定です」と川角氏。

これまでの経験から、DMOの設立や運営において「特に苦労が大きく、重要なポイント」として川角氏は次の3つを挙げる。第一に、収益モデルの構築。「自立した組織になるためには、しっかりしたビジネスモデルが必要。官民協働が大きなポイントになります」。第二に、人材の確保。「長期的な事業継続のためには、民間企業からの出向に依存しすぎず、DMOとして人材をしっかりと確保し、育てていく必要があります」

そして第三に、地域の理解を得ることである。「地域の事業者や住民に、豊岡にとっての観光ビジネスの可能性やDMOの価値をしっかりと伝える必要があります。6月25日に開く設立発表会や、DMO会員の募集を通じて、幅広い業種を巻き込んでいくつもりです」

鞄の生産地としても有名な豊岡市。外国人観光客の誘客は、鞄産業の海外展開にも寄与するはずだ

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