日本企業のESGへの取り組みの特徴と世界における位置づけ

ESGスコアと企業の取り組み

これまでの記事で紹介したように、企業のESGに対する取り組みへの関心は年々高まっている。さらに企業の社会的責任は、国際機関、各国政府、従業員、地域社会といったあらゆる利害関係者から様々な形で求められているため、企業が社会の一員として存続するには向き合わざるを得ないテーマとなりつつある。しかしながら企業は利益を上げ続けなければ存続できないことも事実であり、利益の追求と社会的責任の遂行が必ずしも両立するわけではないことは想像に難くない。このように社会的責任と利益追求という両立が難しいテーマに対し、いかにバランスをとって取り組むかは大きな課題である。さらには、企業の規模や産業の特徴によってはESGに積極的に取り組まざるを得ない場合や、取り組む余力がない場合、取り組まなくても経営上問題ない場合などあらゆるパターンが考えられる。

ではどのようなタイプの企業がESGに積極的に取り組み、投資家はどのような企業のESGへの取り組みを評価するのだろうか。まず本稿では、企業の利益と成長性に関する指標が、それぞれ企業のESGへの取り組みとどのような関係があるかを示す。

ESGは2000年代半ばにはすでに示されていたテーマではあるが、わが国で注目が集まったのはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)に署名した2010年代後半である。このような状況の中で、日本企業のESGへの取り組みは世界の企業と比べるとどのように位置づけられ、それが投資家にどのように評価されているのであろうか。本稿の後半ではこの点について検証する。

企業のESGに対する取り組みは様々な機関によって評価され、そのスコアが公表されている。代表的な国際的ESG評価機関には、例えばBloomberg社(米)などがある。機関によって評価の注目点が異なり、企業の開示情報やメディアなどのデータをもとに、「地球温暖化」「労働マネジメント」「租税回避」などのキー・イシューを設定するところもあれば、企業の開示情報をもとに、ESGの各課題に対して企業が直面しているリスクとそれに対する改善行動を評価するところもある。さらにBloomberg社によるESGスコアも企業による開示情報のみに着目したスコアとなっている。このように、一言でESGスコアといっても機関によって評価の仕組みやポイントは異なっている。また、それに伴って評価されている企業数や対象となる国々も異なってくる。開示情報やニュース記事に着目してスコアを作成する場合、情報が豊富に取得できるのは先進国の大企業に集中することも考えられる。

評価機関によって何に評価の重点を置くかが違うため、企業のESGへの取り組みを捉えるにはこれらのスコアの特徴を考慮しながら利用することが必要であろう。一方で、筆者がESGに関するPR事業をおこなっている企業の担当者にヒアリングをする中で、これら代表的な機関が設定するESGスコアの引き上げを目標としてESGに取り組んでいる企業が増えつつあることが分かっている。このようなことからも、評価機関が示すESGスコアには、企業のESGに対する姿勢が何らかの形で反映されていると考えられる。評価機関が設定する投資家目線の評価基準と、社会的に重要な課題が必ずしもすべて一致するとは限らない。しかしながら評価機関が設定するスコアを高めるという企業の戦略は、投資家からの評価が高まるという点において企業の経営戦略上価値のある行動と、社会的責任の遂行という直接的には利益につながらない行動との一致を模索している形とも捉えられる。あらゆる評価機関のESGスコアをもとに、企業の社会的責任の遂行とその社会へのインパクトをいかに明らかにしていくかは大きなテーマであろう。

短期的収益性と長期的成長性の観点から評価した国内におけるESGランキング

本稿では筆者の研究 (Yoo and Managi (2020))の一部を紹介する。日本国内の企業のESGへの取り組みとその取り組みに対する評価をもとに、各企業の国内及び世界におけるランクキングを示す。当研究ではESGスコアを用い、産業の特徴や企業の特徴などESGスコアに影響を与えうる要素を取り除いたうえで、企業の経常利益とESGスコアの関係、および成長性の指標とESGスコアの関係を数値化した。さらにESGスコアと企業利益および株価の関係を、国別産業別に示す。これらの指標から、ESGスコアをみることで、企業の持続可能性(or長期的な成長)や企業価値が推察できるのである。

表1は製造業において企業収益とESGスコアの相関が大きい企業から順に並べたものである。これらの企業は、成長にあわせてESGにも経営資源を振り分けている企業である可能性がある。産業別にみるとダイヘンやGSユアサなど電気機器産業が上位を占めている。さらに、E(環境 Environment)、S(社会 Social)、G(ガバナンス Governance)それぞれの利益との関係を見てみると、必ずしもすべての項目の評価が高いといよりも、E、S、Gいずれかに取り組みを特化している傾向がうかがえる。例えば、富士電機や三菱電機など総合的なランキングが高い企業でも、Sの部門では取り組みが及ばないものの、EやGの取り組みに強みを活かしているという企業も見受けられる。逆に横河電機などはSの取り組みに特化している可能性がある。

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