ドコモ・インサイトマーケティング モバイル空間統計でコロナ後を支援

新型コロナウイルスの影響により人の動きはどう変わったのか。国内8000万台、訪日外国人1200万台の端末をもとに推計した「モバイル空間統計」を観光に活かす手法について、ドコモ・インサイトマーケティング エリアマーケティング部 副部長の古田泰子氏が語った。

古田 泰子 ドコモ・インサイトマーケティング エリアマーケティング部 副部長

人の動きを見る人口統計

ドコモ・インサイトマーケティングが提供する「モバイル空間統計」は、「いつ」「どんな人が」「どこから」「どこに」動いたかが分かる、新たな人口統計だ。同サービスは、人口に対するドコモ端末利用者数の割合から対象エリアの人口を推計するもので、国内8000万台、訪日外国人1200万台のドコモのモバイル端末の運用データを活用している。大量サンプルによる統計の信頼度から、官公庁・民間企業問わず利用されており、新型コロナウイルス感染症の接触率算定調査にも利用された。

このサービスでは、都道府県、市区町村、1kmメッシュごと、500mメッシュごと等、用途に応じてエリアの選択ができ、1時間単位から日・曜日別の継続的な人の動きが分かる。さらに15~89歳を対象とした年代・性別のデータや、居住地を市区町村まで細分化したデータも得られるため、防災・観光など、目的に応じた調査が可能だ。また、個人識別ができないデータに加工、集計してあり、プライバシーも保護されることも大きな特徴だ。

人口や位置情報を提供するサービスには、GPSを利用したものもあるが、アプリを起動していることや、GPSオンであること、などの制限がある。一方、モバイル空間統計は携帯電話が使用可能な状態であればよいため、24時間365日と連続した人口情報が得られ、また、大量のサンプルが得られるという強みがある。このサンプル量が、精度の高い統計データにつながっている。

県境を越えた移動が明らかに

コロナ危機下でのモバイル空間統計の活用事例の1つとして、東京都・日本橋への来訪者を居住地別に比較した事例がある。2019年4月は全国から来訪者があったが、今年4月の県外からの来訪者は減少しており、近隣からの来訪が中心ということがわかった。

図表1 緊急事態宣言後の東京・日本橋来訪者の推移

緊急事態宣言後、日本橋を来訪する人の数は大幅に減少したことが、モバイル空間統計のデータで明らかになった

 

首都圏から地方への移動の例として東京から北海道への来訪者推移を見ると、道独自の緊急事態宣言後、東京都民の北海道滞在は大幅に減少した。しかし、15~29歳の年代に関しては4月以降大幅に増加しており、大学が休校になった影響の可能性が考えられるだろう。

モバイル空間統計によるリアルタイムでの人口マップは、ドコモ公式サイトからも閲覧可能。一部エリアにおいて性・年代別、居住地別の人口分布の提供など、新サービスもリリースされている。

移動を推計し戦略に生かす

新型コロナウイルス感染症の収束後、観光業では初めに国内観光の復活が予想される。国内の観光誘客を考える上で有効なデータが、モバイル空間統計から取得できる。

例えば、福島市への観光客のみを対象に統計を出してみた例。国内観光客の統計でわかることは、任意のエリア観光客の時間帯ごとの人数、性別・年代、居住地、滞在日数、滞在時間分析周遊エリアの6つである。

福島市の事例では、年間11万2000人の来訪があり、全国151位、30代男性が多い。福島市以外に仙台市や、比較的遠いいわき市へ訪問する人も多いこと、駅周辺や周辺の温泉街の観光が多いことなどがわかった。

これらの分析結果より、今後は仙台市、いわき市との連携施策で更なる誘客と回遊促進を狙うことや、交通機関の割引、仙台、いわきでのイベント実施、という風に施策を考えることができる。

また訪日外国人については「いつ」「どこに」「どこの国からきた人」がいるか、ローミング情報をもとに推計できる。海外から持ち込んだ携帯端末の電源がオンで、機内モードでなければデータ取得の対象となるため、2019年の訪日外国人客3100万人強に対し、入国から出国まで途切れず取得できた1200万台をサンプルとして利用している。

この統計では、任意のエリアでの国・地域別人口、周遊エリア、入出国空港、時間帯別人数などの情報が得られる。これらを組み合わせて分析することで、成田空港にきた旅行客が何日目にどこにいったか、というようなことも後追い可能だ。

一例として、京都市の清水寺・龍安寺の外国人を分析比較の事例がある。清水寺は関西国際空港から入国し、韓国・中国・台湾からの来訪が大半である。すぐ近くの龍安寺は、成田空港、東京国際空港からの入国も多く、アメリカ、スペイン、フランスからの訪問も比較的多い。このことから、アジアの旅行客は短期間の決められたツアー参加が多く、欧米の旅行客は東京から入国し、自分の好きなお寺を見て帰るケースが多いとわかる。

訪日外国人の訪問する街について見てみると、浅草来訪者はスカイツリー、上野、お台場、舞浜など、初心者ルートを辿っている。また、日本人の場合は渋谷・新宿を両方訪れることは少ないが、外国人の場合は2つを違う街と捉えて、両方訪れている。このように国籍別の移動情報により、例えば春の旅行シーズン、米国人に人気の日本旅行ルートを調べるなど、自分の自治体や施設が関係する人気ルートを抽出できる。

長崎市で定量・移動・分布分析をした事例では、訪日外国人では韓国人が圧倒的に多く、由布市、別府市も訪問していることが多い。市内では長崎駅周辺に集中している。この結果から、観光客が集中しているエリアの近隣から観光資源を開拓し、観光客の分布エリアを広げる施策が効果的といえるだろう。

データに基づき周遊を促す

より広い地域の観光誘客を担当する広域DMOなどに対しては、域内の国内観光客、訪日外国人の両者の動向を安価に把握可能なパッケージを用意した。これを利用することで、マクロな視点での戦略を考えることができる。

国別・時期別・時間帯別の観光客数を把握することで、多い国・時期・時間をより強化し、少ないところを改善できる。また、連携が密・疎の都市を把握することで、より多くの都市間往来を促し、まだ観光客が少ない地域に訪問してもらえる施策を検討するのに活用できるだろう。

広域DMOでの活用事例を1つあげると、せとうちブランド推進機構では、瀬戸内エリア全域での周遊ルート分析に活用している。モバイル空間データと共に、アプリやSNSデータを活用することで、観光客が何を感じたか、どう思ったかなどの情報も得られるだろう。

コロナ後の観光業復活に向け、古田氏は最後に「多くの人に『行きたい』と思ってもらえることが復興への近道だと思います。観光地にどういう時期にどういう人が来てどう移動しているのかを把握することで、施策のお手伝いができればと思います」とまとめた。

 

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